| お花屋さん (なみ) | - 2004/04/09
- お花やさんの中を、のぞきこんでいる女の子がいました。
ランドセルを背おっていて、学校からのかえり道のようです。 女の子は、店の前を右へ行ったり左へ行ったりしていました。 「どうしたの? お花がほしいの?」 お店の中から出てきた女の人が、聞きました。 女の子はびっくりした顔をして、そのままランドセルをがたごといわせて、 走って行ってしまいました。 声をかけた女の人は、せいこさんと言います。 せいこさんは、『フラワーショップいとう』の店員さんでした。 女の子が行ってしまうのを見たあと、店の中に入って行きました。 「私の顔を見て、行ってしまったの。この店に来る子どもって、みんなそうなのよね。」 せいこさんは、困った顔をして言いました。店の中には、だれもいません。 店の中には、たくさんの花がありました。せいこさんは、花たちに話しかけていたのです。 赤いきれいな花、白い小さな花、黄色のかわいい花、いろいろな花が 店の中いっぱいにあります。開けてあった入り口の外から吹いてきた風に、 ピンクのスイートピーがゆらりとゆれました。 「さっきの女の子? そうなの、昨日もお店の中をのぞいてたのよ。」 せいこさんは、やさしくスイートピーに話しかけました。 スイートピーは、何も答えません。 「きっと、お花をさがしてるんだと思うわ。私に言ってくれると、いいんだけど。」 ふうっと息をついて、せいこさんは言いました。スイートピーが、 また風にゆれました。
次の日の朝、女の子がお店をのぞいています。昨日の女の子です。 せいこさんがまた声をかけました。 「お花がほしいのでしょう? 中に入ってお花を見てあげて。」 女の子は、せいこさんを見るとあわてて行ってしまいました。 そのあとも、女の子は学校の帰りに、毎日お花やさんの中をのぞいていきます。 せいこさんは、女の子をそっと見ているだけにしていました。
雨の日の夕方のことです。女の子が店に来ると、店の中にはだれもいませんでした。 せいこさんは、店のおくで花かごを作っていたのです。 店の入り口は、あいていました。 女の子は、だれか出てはこないかと、店のおくを見ながら中に入っていきました。 女の子は、きれいな赤い花、小さな白い花、ピンクのかわいい花、 たくさんの花たちの中にいました。 黄色の大きな花を見ると、ぱっと女の子の顔が明るくなりました。 うれしそうです。 女の子は、はっと何かに気がついて、うしろを見ました。女の子のうしろには、 だれもいませんでした。そばにあったピンクのスイートピーが、 風にゆらりとゆれただけでした。女の子は、スイートピーをじっとみつめました。 そして、そっと言いました。 「うん、ヒマワリがほしかったの。ありがとう。」
女の子が、黄色のヒマワリを一本手にしたとき、せいこさんが店のおくから出てきました。 「ヒマワリだったのね。」 「うん、おかあさんの大好きな花なの。今日、お母さんのたんじょう日なの。」 女の子は、目をかがやかせて言いました。 せいこさんは、ヒマワリを受けとると、カスミソウとスイートピーをたばねて、 花たばを作りました。 「去年もたんじょう日に買いに来たんだけど、ヒマワリがなかったの。」 「だから、毎日見にきてたのね。」 せいこさんは、そう言いながら花たばにピンクのリボンを、きゅっとむすびました。 女の子は、うれしそうにヒマワリの花たばをうけとると、ぽつりと言いました。 「お姉さんが、花と話しをしているから、みんながおかしいって言ってたけど。」 女の子は、せいこさんをまっすぐ見ました。 「わたしね、お花が話すのを聞いたの。『ヒマワリがほしかったんだ。よかったね.』って、 このピンクの花が言ったの。ちゃんと聞こえたのよ。」 せいこさんは、何も言わずにやさしく笑っていました。 女の子は、カサをさしてスキップしながら家へ帰っていきます。 スイートピーが、風にふわりとうれしそうにゆれました。
おしまい
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