「ストリート・オブ・ファイヤー」

  Streets of Fire

 (2002/10/28)


 

 これはロックンロールのおとぎ話。

 いつかどこかの街での物語である。

 

 高架線に空を覆われた、どこか煤けた印象のその街では、住人たちが今夜のイベントに沸き立っていた。街一番の劇場で行なわれるそのイベントこそ、この街が生んだ唯一無比のロックンロール・スター=エレン・エイムことダイアン・レインが、バックバンドであるジ・アタッカーズを率いての地元凱旋興行。貧しいこの街の人々に恩を返すかのように、この日のコンサートはすべて無料。場内割れんばかりの満員御礼ぶりに、舞台の袖で客の入りを見つめていたレインのマネジャー、七三分けの髪形に黒ブチ眼鏡もヤボったいリック・モラニスは、思わず「これがチャリティでなければ」とボヤきにボヤく。そんな地元のみんなの膨らむだけ膨らんだ期待を受け止めて、ロッククイーン=ダイアン・レインのショーが始まった。

 のっけから総立ち、のっけからフルスピード。だが熱気ではじけんばかりのその場内に、いきなり割り込んで来た連中がいたのを誰も気付かなかった。その集団のリーダー格と見られる男のリーゼント頭のシルエットが、場内の照明の中で徐々に浮かび上がる。この男、ステージでノリノリに歌い踊るレインを食い入るように見つめる様子が何とも不気味だ。それもそのはず、みな等しく革ジャンに身を固めた彼らは、犯罪窟のような隣街バッテリー地区に巣くうならず者バイカー集団「ボンバーズ」。レインの姿をじっと見据えるシーラカンスのような異様な容貌の男こそ、この「ボンバーズ」のリーダー、泣く子も黙るウィレム・デフォーだったのだ。

 このデフォー、ならず者の割にはレインの歌が一曲終るのを律儀に待った上で、おもむろに雄叫びを上げて飛び出した。

 「かかれぇっ!」

 そう叫ぶが早いか、デフォーは仲間たちと一緒にステージに駆け上り、呆然としているレインをかっさらう。慌ててそれを止めようとしたバンドメンバーやらマネジャーのモラニスも、「ボンバーズ」の連中たちに袋叩きにされる。突然の大乱闘に満場の場内は阿鼻叫喚。逃げ惑う観客と暴れ狂う「ボンバーズ」の連中とで、もうメチャクチャのカオス状態だ。

 さらにこのひと暴れで狂気に火がついた「ボンバーズ」は、劇場の外まで出てきて大暴れ。奴ら自慢のバイクで街中を大暴走。通行人を痛めつけるわ、女の子はマワしちゃうわ、店のガラス窓は壊すわ、駆けつけたパトカーはひっくり返すわ、もうやりたい放題の無政府状態。暴れるだけ暴れて満足した連中は、あのロッククイーンのレインをさらったまま、バイクで自分たちの街へと引き上げて行った。後には呆然自失となった街の住人が立ち尽くすばかり。

 いや、一人だけは違った。街でひなびたダイナーを営むデボラ・ヴァン・ヴァルケンバーグだけは、何をなすべきか知っていた。レインを取り戻さなくてはいけない、こんな非道はやめさせなければならない。

 頼れるのは、ただ一人。

 翌日、一通の手紙が投函された。出したのは先のヴァルケンバーグ。宛先は長く街を離れていたその弟だ。…「力が借りたいの、帰ってきて」

 やがて夜も更けたこの街の人けのない高架線の駅に、おんぼろ電車に乗って現れた一人の男がいた。少年のような甘いマスクながら、無精ヒゲをコワモテにキメた堂々たる体躯のその男…マイケル・パレ。この男は街に降り立つと、わき目もふらずに古ぼけたダイナーに足を運ぶ。そこはあのヴァルケンバーグが営むしがない店だった。パレが店に現れると、ほどなくオープンカーとバイクで徒党を組んだツッパリ軍団が店にやってくる。こいつらは客の応対に出たヴァルケンバーグに絡んで、あれこれとイヤがらせを始めようとしていた。そんなならず者の暴挙を、タフガイ=パレが見逃す訳もない。

 「な、なんだテメエこの野郎?」

 いきなり割って入ったパレにガン飛ばしまくるツッパリ軍団。だが、そのパレの姿に気付いたヴァルケンバーグの表情がほころぶ。そう。彼女が呼んだ弟がこのパレ。そして彼女には、パレを相手にしてはこのツッパリ軍団も勝負にならないと分かっていた。

 よせばいいのにナイフなんかチラつかせてスゴむツッパリ軍団たち。だが、パレにかかればこんな野郎も片手あれば足りる。たちまちパシパシッと平手打ちでこのナイフ野郎を料理。慌ててかかってきたツッパリ軍団も難なく全員叩きのめしたからたまらない。連中はヒ〜ヒ〜泣きながら、自慢のオープンカーも置き去りにして慌てて店を逃げ出した。

 ニッコリ微笑み合う姉弟。連中が置いていったイカしたオープンカーの試乗とシャレこんだ。

 車にヴァルケンバーグを乗せて、夜の街をフルスピードでブッ飛ばすパレ。だが、ちょいと調子に乗りすぎた。たちまちパトカーに追跡され、ちょいとおキュウを据えられることとなる。パトカーから降り立った警官は、パレの顔を見て憎まれ口を叩いた。「おやおやパレ様のご帰還かい。おかしなことはするなよ、さもないとたちまちしょっ引くからな」

 そう。このタフガイのパレ、かつてはこの界隈で札つきのワルだった。それがある事情からこの街を捨てた。その理由は一人の女…エレン・エイムことダイアン・レイン。

 姉ヴァルケンバーグが彼を呼び寄せたのも、彼女が理由だった。さらわれた彼女を救い出せるのはパレしかいない。だが、彼はレインとのことは昔の話…とにべもない。かつて二人が別れたのは何やら訳ありの様子だ。

 それでもレインの名を聞くと、パレの胸の内が鈍くうずく。脳裏にはかつての彼女の歌声がこだまする。姉の頼みを剣もホロロで断わってはみたものの、結局パレがこの話に乗らずにはいられなかったのは言うまでもない。

 さて、パレは懐かしい馴染みの酒場に足を運び、かつてのダチのバーテンのビル・パクストンと再会する。だが、カウンターには奇妙な女がいた。女だてらにアーミーくずれの格好で酒をくらうこの女、ナメてかかったパクストンを軽く殴り倒すと、パレに親しげに声をかけた。この男言葉でしゃべるガサツでタフな女、その名をエイミー・マディガンと言う。軍隊を辞めて街に戻ってきたものの、仕事も寝ぐらもないと来ているため、パレはこのマディガンを自宅に泊めてやることにした。そこはそれ男と女…と思いきや、このマディガンときたらパレをつかまえて「アンタは好みじゃないんだ」とホザく、どこまでも憎めないタフな女。パレもそんなマディガンに、男の相棒にも似た気安さを感じるのだった。

 さて翌日、姉のダイナーにレインのマネジャーであるモラニスを呼びつけ、レイン救出の話を切り出すパレ。そこには例のマディガンも同席した。モラニスは口ばっかり立って金をチラつかせれば誰でもありがたがると思い込んでいるようなイヤな男だったが、とりあえず今回の救出を成功できたら賞金を出すということで、パレとの話はまとまった。すると今度はパレから提案だ。レインは「ボンバーズ」の根城バッテリー地区に捕えられている。バッテリー地区に潜入するには土地勘のある奴が必要だ。そうなると、このバッテリー街出身のモラニス自身しかいなかった。悪の巣窟で最悪の環境のバッテリー地区。やっとのことで這い上がってそこを脱出したモラニスは、頼まれたって二度と帰りたくはない。だが、確かに土地勘のある奴は他にいないし、何よりレインは今のモラニスの飯のタネでありかつ愛人でもあった。モラニスもしぶしぶ腰を上げない訳にはいかなかった。

 どっちが主導権を握るかでスッタモンダの応酬がありながらも、何とか出発となったその時、やりとりをじっと聞いていたマディガンが同行に名乗りを上げた。最初は危険だと同行を拒んだパレだったが、仲間は多いに超したことはない。おまけにこいつなかなかタフそうだ。モラニスは例によってガタガタと文句をつけたが、そこんとこはパレが強引に押し切った。かくしてパレ、マディガン、モラニスという奇妙かつ相性最悪の取り合わせは、レインの救出のためにモラニスの気取った車で出発した。

 しばし車を走らせると、一行は問題のバッテリー地区へとやってきた。確かに空気は淀んでる、なぜか辺りも暗さがひときわ。街はどことなく汚れて荒んでる。なるほどモラニスが立ち戻りたがらなかっただけのことはある、なんともヤバ〜い雰囲気立ちこめる場所だ。相性抜群(笑)のモラニスとマディガンも互いに口をつぐまざるをえないほどの、不吉なムード

 やがて彼らは、「ボンバーズ」がたむろする怪しげな店のそばまでやってくる。店の前では「ボンバーズ」の若い衆が、勢い余ってバイクを暴走させて暴れ回っている。パレはここでモラニスに車を委ねて、所定の時間が来たら店の前に横付けするように命じた。マディガンには店の中に潜入して、「ボンバーズ」のリーダーのウィレム・デフォーを足止めするように命じた。そして自分は、店の外から連中を攪乱するために銃を構えた。

 やさぐれどもがひしめく店の中に入っていくマディガン。店内では汗臭そうな連中が熱っぽいロックンロールを演奏し、あられもない格好の女がそれに合わせて踊っている。「ボンバーズ」の連中は、それぞれ酒にバクチに女に…と思い思いに楽しんでいた。そして思った通りこの店の一室に、さらわれたレインが囚われていたのだ。

 ベッドに縛りつけられたレイン。そこにデフォーが迫る。だが、レインは頑としてデフォーを拒んだままだ。そんなレインに無理強いはせず、あくまで屈服するまで待つデフォーはある意味でまたしても律儀。ともかくそんなレインを部屋に置き去りにして、仲間連中とバクチに興ずることにした。

 そんなバクチ部屋に銃を構えたマディガンが飛び込んだ。金が目当てか…と怒号渦巻くバクチ部屋で、銃をつきつけられたデフォーはただちに事情を察した。

 「目当ては…あの女だな?

 その頃パレは、店の外を暴走するバイク目がけてライフルを乱射。バイクのガソリンタンクを撃ち抜いて大爆発を惹き起こす。たちまち店の中と外でハチの巣を突ついたような大騒ぎだ。そのドサクサに紛れて店内に入り込んだパレは、すぐにレインの囚われていた部屋にたどり着くと彼女を解放。マディガンと合流して店を飛び出した。

 すかさずモラニスが運転する車がやってくる。一同はさっそく車に乗り込んだが、パレだけはもう少し敵を攪乱するためにここにとどまることにする。とりあえず、レインを加えた一行の車が出発し、パレとの合流点に先回りすることになった。

 パレはそこら中のバイクを撃ちまくり大破させ、とりあえずの敵の足を奪うことに専念。燃料パイプも破損させたあげく、大爆発を起こさせた。さぁ、仕事は済んだ。サッサとこの場から立ち去ろうとバイクにまたがったその時…。

 燃え上がる紅蓮の炎の向こう側から、魚河岸のアンチャンのようなゴム長をはいた異様な人物が、悪夢のようにスックと現れるではないか。

 それは例の「ボンバーズ」リーダー、ウィレム・デフォーだった。

 思えばこの二人、この瞬間初めて相見えることになるのだ。不敵な笑みを浮かべたデフォーは、ペレをじっと見据えながら捨て台詞を吐く。いわく、「ただで済むとは思うなよ。俺はブライアン・デパーマみたいにやられっぱなしじゃねえぜ(笑)」

 それはデフォーに限って決して脅しではあり得ない。バイクで立ち去るペレの胸の内には、近いうちにまたあのデフォーと顔を合わせることになる確信にも似た予感があった。

 さて、決めてあった合流点で落ち合った一行とパレ。先ほどは救出のドサクサにロクに会話も交わせなかったパレとレインは、別室で二人きりになって旧交を暖め合って…とはならず、たちまち言い争いを始める始末。「どうして私の前からいなくなったの?」「オマエこそ、俺を捨てて歌をとったくせに」…そこにパレが今回の救出で賞金を手に入れると知って、レインの不信感はいやが上にも高まらざるを得ない。そんな二人の不在中にマディガンから彼らの古い付き合いを聞いて、現在の恋人であるモラニスも心中穏やかではなくなった。

 そんなギクシャクの中、彼らはアシがつくことを恐れて車を捨て、黒人ドゥアップ・グループ「ソレルズ」の巡業バスを乗っ取って逃走を続ける。途中で警察の検問を大立ち回りの末に振り切って、最後は電車に乗り込み何とか懐かしい街へと舞い戻ってこれた。

 だが、レインは金目当てに自分を助けたものと思い込んで、パレとの間には冷たいものが流れたまんま。パレもそれを言い訳せずに、あまりにコワモテなポーズをとり続けるもんだから、今度はマディガンすら愛想をつかした。踏んだり蹴ったり。

 おまけに復讐に燃えるデフォーからは一対一の果たし合いの申込みだ。奴がこの街へ乗り込んできて、ペレとのケリをつけると言ってきたのだ。この街での揉め事は困る…とばかり、警察はペレに退去を求めてきた。

 ええい、ままよ。

 モラニスとレインのいる部屋に乗り込んだペレは、マディガンの取り分だけの金を受け取ると、残りの札束をブチまけてその場を去った。そんなペレの姿を見たレインは、もういても立ってもいられない。

 外はザンザンどしゃ降り雨の中。傘もささずに立ち去ろうとするペレの後ろ姿を、矢も盾もたまらずレインが追いかける。あなたがいけないのよ、あなたが行ってしまったから…。

 そんな女の戯言を激しいキスで塞ぎながら、雨がそぼ降る往来にレインの体をかき抱くペレ。二人の頭から服から、まるで歓喜の涙のごとく雨粒がしたたり落ちる。

 そして二人はその夜、安宿に身を寄せた。

 さぁ、もう一人忘れちゃならない奴がいる。例によって酒場にシケこんだマディガンに、分け前を持ってきたペレ。そっぽを向き続けるマディガンに、ペレは一言殺し文句をつぶやいた。

 「オマエがいたから、やり遂げられた…」

 そんな言葉をこの武骨な男から聞いては、もうマディガンいつまでもムクれている訳にはいかない。手伝ってくれという彼の言葉に、マディガン一も二もなく協力を申し出た。

 その夜、二人で街を出ようとレインに持ちかけたペレ。そんな二人にマディガンも同行した。だが電車で街を出発するや否や、レインを一撃で気絶させたペレ。彼女をマディガンに託したペレは、次の駅で帰りの電車に乗り換えて一路もとの街まで舞い戻った。

 すまねえな、俺にはやらなきゃならねえことがある。

 惚れた女に思いをこめて、無事を祈って別れを告げた。止めてくれるなダイアン・レイン、おまえにゃおまえの道がある。しょせんこの俺は一匹狼、おまえの飼い犬にゃなれはせぬ。やくざな俺にお似合いは、馬鹿な男の果たし合い。戦う定めのこの俺が、避けちゃならねえイバラ道。おまえの香りを胸に抱き、咲かせて見せるぜ地獄花!

 その頃、単身やって来るデフォーを迎かえ討つつもりで出動した警官隊は、圧倒的多数を誇る「ボンバーズ」の大軍が押し寄せてくるのを、ただ固唾を飲んで見守るしかなかった…。

 

 僕は元々映画は映画館で見る主義だった人間で、レンタル・ビデオもあまり借りたことがなかったんだよね。邪道だとまでは思ってなかったが、何となく触手がそそらなかった。今じゃDVDも買うしビデオもバンバン見てるから、やや隔世の感があるね。でもそんなアンチ・ビデオ時代の僕にして、なぜかビデオソフトを買って手元に持っていた作品が二本あるのだ。そのうちの一つがこの作品、「ストリート・オブ・ファイヤー」だ。

 何でまたこの作品のビデオだけ買っていたのか…という詮索はあとにして、とりあえずこの映画の背景を手っとり早く探ってみると、これってウォルター・ヒルの乗りに乗っていた時期の作品ってことが言えるだろうね。何しろこれの前作があの「48時間」(1982)だ。どちらもヒルの代表作と言っていい。逆にこの後は煮つまっちゃったのか、リチャード・プライアーとジョン・キャンディ主演の「マイナー・ブラザース/史上最大の賭け」(1985)という柄にもないコメディに挑戦。僕個人的には愛すべき作品と思っているものの、世評的には芳ばしくなかった。

 それがどうも運命の別れ道だったか、「ストリート・オブ・ファイヤー」で取り上げた青春&音楽ものの夢よもう一度と思ったのか「クロスロード」(1986)がズッコけ、「48時間」でいい味出したニック・ノルティと再び組んでの「ダブルボーダー」(1987)もイマイチ、やはり「48時間」で味をしめた二人組刑事ものに再度挑戦の「レッドブル」(1988)も不発、これならどうだとばかりに「48時間」そのものの続編に手を出した「48時間PART 2/帰って来たふたり」(1990)もハズしてしまう…と、この後のウォルター・ヒルはまるでいいとこなし。僕は小品の「トレスパス」(1992)なんか嫌いじゃないんだけど、これも世間的には黙殺されたし、作品の格から言ってもショボい寂しさは拭い去れなかった。ハッキリ言って「ストリート・オブ・ファイヤー」まで着々と築いてきた実績を、どんどん切り崩すかたちで今日まで来ている感じなんだよね。だから、ある意味では「ストリート・オブ・ファイヤー」って、「48時間」と並んでウォルター・ヒルのキャリアの頂点に位置する作品なわけ。イキが良くってアブラの乗った時期の映画なんだよね。

 それにしても、当時珍しくなった西部劇「ロング・ライダーズ」(1980)なども挟みつつ、大人のアクション映画を撮ってきたヒル。確かにアクションも含まれるものの、ここへきてふんだんに音楽が使われた若者向けとも言える映画を撮った真意は何だったんだろう?

 作品自体を見てみれば、そこはおなじみヒル映画。男の世界、西部劇テイスト、派手なアクション、なぜか常に濡れた夜の街路…とヒルならではの意匠は共通している。思えば彼の映画で初めて興行的に大成功した「ウォリアーズ」(1979)もニューヨークのストリート・ギャングたちの話、しかもリアルさよりも寓話性を強く感じさせる作品だったっけ。あの「ウォリアーズ」をさらに抽象的にして、ニューヨークなんて特定の固有名詞をはぎとり、山盛りの音楽を注ぎこむとこの「ストリート・オブ・ファイヤー」になるのかもしれない。ウォルター・ヒルのスタンスは、結して揺らいではいなかったのだ。

 で、なぜ僕がこれをビデオソフトまで買っていたのか?

 それまでどちらかと言うと「男騒ぎ」の映画を撮ってきたヒルは、ここへ来て一気にこれを押し進めて「男の子騒ぎ」のする映画にまでエスカレートした感があるんだよね。

 例えば「男騒ぎ」のアクション映画は、そこにある種の美学性やらスタイリッシュなテイスト、マニアックな指向やら価値観みたいなものが持ち込まれがちなので、必ずしも「男性全般」向けにはならないきらいがある。男っていうのは女と違って、カッコよく言えば「こだわり」、ミもフタもなく言えば「見栄やツッパリ」の部分…早い話が人生の中でクソの役にも立たない不必要なガラクタ命で生きてるところがあるから、自分の触角が触れないものには近寄らないことになりがちだ。ゆえに真正面から「男性的な映画」というものは、その微妙な指向の違いによって観客が細分化される可能性があるんだよ。

 それって一つ間違えば、えらくチマッとしたことで喜んだりハマったりって方向にいきかねない。よく戦車の型がどうだ、拳銃の薬莢の飛び方がどうだって、どうでもいいことに口からツバ飛ばしながら大騒ぎする手合いがいるけど(もちろんリアリティという上で、それは重要なんだとは思うけれど)、そんなコチョコチョしたことで一喜一憂って、それこそ「男らしさ」とは程遠いよね。カッコよくてスタイリッシュなアクションを追求してきたヒルは、「男のアクション映画」の極め付き「48時間」まで行き着いた時点で、その事に気付いたんじゃないかと思うんだよ。

 だったらどうする? 一体「男」って何だ?

 「男」ってガキだ。

 「男」のガキの部分を最大限に拡大して盛り上げれば、ホントにホントの「男騒ぎ」の映画…否、「男の子騒ぎ」の映画になるんじゃないか? それってある意味で明快なワクワク気分を、細かいアレコレ抜きで最大限に広げ尽くすことでもあるんだよね。つまりは単純、幼稚、バカとも言えるんだけど(笑)。ヒルは自らが映画で追い求めてきた「男らしさ」「男くささ」を見つめ続けた結果、ついにこうした結論にたどり着いたんじゃないかと思うんだね。

 そうなりゃ、どんな男のハートだってイチコロ。「映画館派」だった僕だって、思わずビデオソフトを買って手元に置いておきたくなるじゃないか。そして何度でも見てみたい。実はこの映画には驚きは何もない。「いかにも」なオモチャみたいなものがいっぱい詰め込んである。それを照れずに徹底的に突き詰めてやってあるから、「男の子」はこの映画を好きにならずにはいられない。そして、どれもこれもが「いかにも」だから、何度見ても飽きるはずもないのだ。もうそれはすでに手垢がつきまくっている。そして、そんな昔なじみなのに…昔なじみだからこそ好きでたまらないアイテムばかりなのだ。

 考えてもごらんよ。ロックンロール、鼻っ柱強いけど自分にはなびくいい女、雨の中のキッス、イカしたクルマ、ライフルや拳銃、いつでもオレが一人勝ちのケンカ、一匹狼、だけど目と目で分かり合える友情、革ジャンとバイクのワルども…最高だよね、最っ高(笑)! 男の子が好きそうなくだらないガラクタの夢がいっぱい詰まってる。男は…もとい、男の子は、みんな自分もこうありたいと思ってる。だから、男だったらほとんどの人がこの映画に血が騒ぐこと請け合い。もちろん物事何でも例外があるし、天の邪鬼も変わりダネもいるけど、確率的には圧倒的多数で男性の支持を集めるはずだ。

 だからエミール・クストリッツァの「黒猫 白猫」で、この映画が引用されているのを見つけた時は嬉しかったねぇ。エミール、あんたもそうかい?…って感じ。でも、僕は例えアッバス・キアロスタミやチャン・イーモウが、いわんやフォルカー・シュレンドルフが同じことをやったとしても、たぶんちっとも驚かない。決して驚くに当たらない。ただ、アンタも男だったのね…との思いを新たにするだけだ。この映画はそんな映画なんだよね。

 出演者は当時フランシス・コッポラに気に入られて、「アウトサイダー」「ランブルフィッシュ」(ともに1983)…さらにこの映画の後には「コットンクラブ」に連続出演していたダイアン・レインと、「ウォリアーズ」に顔を見せていたデボラ・ヴァン・ヴァルケンバーグを除けば、 日本ではほとんど名も顔も知られていなかった新人ばかり。リック・モラニス、エイミー・マディガン、ウィレム・デフォー、ビル・パクストン…などといった、その後クセ者役者として名を為した連中がワンサカ顔を見せているのだ。残念ながら主役を張ったマイケル・パレだけがその後まるで鳴かず飛ばずの状態になってしまったが、これはデビュー早々にこんなエエカッコな役を割り振られ、彼自身何か誤解しちゃったところもあるんじゃないだろうか。ともかくこれだけ個性的な役者たちの出世作になったという意味でもこの映画は、エポック・メイキングな作品と言うにふさわしい。

 劇中で彼らが見せるキャラクターも実に秀逸で、兵隊あがりの女エイミー・マディガンはもとより、一貫してセコい言動で小賢しく立ち回るリック・モラニスでさえ、ラストにはちゃんといい味を出してくれる。そんな中で特にオイシイのは、一行が乗っ取る巡業バスの持ち主である黒人ドゥアップ・グループ「ソレルズ」の4人組。ラストにはちゃんとダイアン・レイン扮するエレン・エイムのバックアップ・メンバーとなって、コンサート場面を盛り上げてくれるあたりが嬉しい。

 その「ソレルズ」がバスで移動中に素晴しい歌声を披露する場面は、「或る夜の出来事」の同様の場面の引用だろうか。このように全編に散りばめられたさまざまな映画的記憶をたどるのも、ファンにはたまらないところだ。もちろんマイケル・パレのタフガイぶり、彼がライフルで「ボンバーズ」の根城を襲う場面などは、ウォルター・ヒル十八番の西部劇テイストが充満する。そもそも、どこからともなく街に現れ、女の心を奪い、悪党との果たし合いの末に事件を解決させ、またどこへともなく去っていく…というあたりからして、どの作品のどの部分…と原典を指摘するのも不可能なほどティピカルな西部劇のパターンの忠実な再現だ。これはそんな映画史的考察や分析がほとんど無意味な作品なのである。

 ロック映画としての見せ場も、冒頭と終盤の二つに集約させてしまったあたりが見事。歌でドラマが高揚し、その高揚感の絶頂が歌で締めくくられる構成だ。劇音楽は「ロング・ライダーズ」以来のウォルター・ヒルの盟友ライ・クーダーで、これはこれでなかなか秀逸。だが問題のエレン・エイムの歌うロック・ナンバーは、クーダーの音楽とは別にこの映画のために編成されたファイアー・インクなるバンドの演奏で収録された。で、パティ・スマイスなどが参加したこのバンドの2曲、「ノーホエア・ファスト」と「今夜は青春」がこれまた実に魅力的なナンバーなわけ。特に終盤を飾るビッグ・ナンバーの「今夜は青春」は素晴しい仕上がりで、血沸き肉躍るとはこのこと。ピタッピタッとキマるステージ・アクションといい、実に忘れ難い印象を残す。この曲の邦題「今夜は青春」のクサさに恐れをなしてはいけない。この曲、元々の英語題名からして邦題と大差ない。クサい。だが、この「ストリート・オブ・ファイヤー」とは、まさにそんな映画なのである。マイケル・パレを中心に飛び交うクサいキメすぎ台詞に醒めず、それを斜に構えてバカにすることなく受け止めるのが、この映画の正しい見方なのだ。

 それらはあるいは女性にとっては、やっぱりどうしてもバカバカしくて恥ずかしい手合いのものかもしれない。だが、そもそも男(の子)のメンタリティーというもの自体が、そんなバカで恥ずかしいものなのだ。これらクサい台詞に代表されるような、この映画に溢れかえるオモチャじみたアイテムの数々…そんないかにも頭の悪そうな一つひとつが、「男の子」というものを体現している。コナカからテイラー・メイドに至るスーツの下に、Tシャツとジーンズの下に、あまたある作業服や制服の下に、ダボシャツにステテコの下に、ユニクロからブランド品までのカジュアルウェアの下に…男たちがひそかに隠し持っているものの正体がそれなのだ。

 だからあなたが女性で、この映画を夫か恋人かボーイフレンドと見た後に彼らがもしこういう台詞を口にしたとしたら、その言葉は真摯に受け止めた方がいいかもしれない。それがいかにバカっぽくて間が抜けていて場違いで寒くて、口にした当人にはまるで似合っていなかったとしても、それは単なる戯言ではないかもしれない。その台詞はひょっとしたら彼らの正真正銘本音の言葉かもしれないのだから。

 その時、彼らがあなたにこう言ったとしたのなら…。

 「必要な時には、俺がいる」(笑)

 

 


Streets of Fire

(1984年・アメリカ)ユニバーサル映画

監督:ウォルター・ヒル

製作:ローレンス・ゴードン、ジョエル・シルバー

脚本:ウォルター・ヒル、ラリー・グロス

出演:マイケル・パレ、ダイアン・レイン、リック・モラニス、エイミー・マディガン、ウィレム・デフォー、デボラ・ヴァン・ヴァルケンバーグ、ビル・パクストン

2002年10月19日・DVDにて鑑賞


 

 

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