「ザ・ミッション/非情の掟」

  鎗火 (The Mission)

 (2002/03/25)


黒社会

 男たちの大半は、何らかのかたちで組織に属している。好むと好まざるとに関わらず。その組織の掟にはどうしたって従わざるを得ない。そうでなければ手痛いしっぺ返しをくらうことになる。それにはどんな例外もない。日頃はお偉いさんの送迎に、しがない店の切り盛りに、堅気の美容師に、単なるパシりに…などなどと単調な日々の仕事に従事する、ここ香港の闇社会にうごめく男たちにしても…。

 

 それはある銃撃戦から始まった。ここは普段の夜なら大にぎわいの店「スーパーボウル飯店」。だが、今日は凶弾がうなる地獄の一丁目。すでに逃げる者は逃げ、逃げ切れなかった者は非情の弾丸に黙らされ、沈黙を守っていた。標的は香港黒社会の大ボス(コウ・ホン=エディー・コウ)。店の経営をこのボスからまかされていたデブの伯父(ウォン・ティンラム)も手も足も出ない。大ボスはかろうじて銃弾から身を隠していたが、すでに状況は最悪。刺客の二人組が虎視眈々と狙う中、ボスを守る手下はすでにわずか二人。その一人も今まさに敵に倒されたところである。それを見た残りの手下も汗ビッショリにビビったあげく、慌ててその場を逃げ出した。大ボス絶体絶命!

 そこに援軍到着の知らせ。刺客は慌てて立ち去った。大ボスは厨房の棚に隠れて、何とか難を逃れていた。その場にやって来たボスの弟(サイモン・ヤム)は状況を見て取ると、手下に素早く命じた。「カメラ持ってこい!」

 「こ、これでいいですか?」と手下が持ってきたのは「写ルンです」。これにはボス弟は怒り狂った。

 「バカ野郎! カメラ持ってこいって言ったら犯人を捜せってことだ!」そう、どんな世界もその世界特有の言葉がある。その世界がいかがわしければいかがわしいほど隠語が多い。カキコとかレスとかオフ会とかな。ついでにネチケットとくらぁ、しゃらくせえ。ネチケットとかうるさく言ってる奴に限って、日頃のエチケットがなってねえんだよ。いつかドツいたるぞ、このボケェ〜!

 この世界は厳しい。ビビって逃げ出した例の手下は探し出されてしこたま痛めつけられた。あげく、それでも生きてりゃ命だけは助けてやれとは、何とも妥協のない世界よ。

 ボスの家には翌日からビッチリと警護の男たちが詰めかけたが、これにはボスはいい顔しなかった。いいか、これじゃあ近所の素人衆に迷惑がかかる。大げさな警備はやめろ。

 

ミッション1

 そこで昼間っからあるオフィスの会議室に呼び出された男たち。まずは若造(ジャッキー・ロイ)が部屋に入ってくると、すでにそこには、マメを黙々と食べ続けテーブルに食いカスの殻をブチまけてるブタっ鼻の男(ラム・シュー)が一人座っている。「ちぃ〜っす」と若造は駆け出しらしく元気良く仁義を切ったが、マメ男は一顧だにしない。これには若造ちぃ〜とばかり傷ついたか。次にやって来たのが、カマボコの「かねてつ」マンガ・キャラクター「てっちゃん」のサングラスをかけた親父に激似男(アンソニー・ウォン)。このてっちゃん親父、普段は美容師やってるだけあって、グラサンでコワモテに目を隠しても何となく優しそう。さらに入ってきたのが、日頃はバーの店長をやってる男(ン・ジャンユー=フランシス・ン)。この「店長」は若造の兄貴分で、知った顔を見つけてようやく若造はホッとした。そして最後にやってきたのがウルフルズのトータス松本似の男(ロイ・チョン)。この5人が集まったところで、例のボス弟が顔を見せた。「皆の衆、兄貴から挨拶がある」

 そう。この5人は大ボスの警護に当たるスゴ腕として選抜された男たちだったのだ。大ボス直々に「頼む」と言われ、若造は盛り上がるし他の奴らもクールにキメながらも闘志満々。いよいよボスの屋敷に一同で詰めて、ボディガード稼業が始まった。

 屋敷の警備も厳重。監視システムもバッチリ見直した。肝心要の銃も集めに集めたり。マメ男が集めてきたこれらの銃を、一同それぞれ手にとっては品定めだ。そんな男たちをさりげなく仕切るのが、何とあのグラサンてっちゃん親父。

 もちろんボスが外出するとなればピッタリと同行する。姐さんが出かける時もガードする。だが、敵は一向に襲ってこない。緊張漂いながらも、ジリジリと焦りだけがつのる単調な日々。

 そんな毎日に、まず「店長」が音を上げた。こうも毎日ただジッとしてたらアホみたいだぜ。俺は戦いに来たんだ!

 もっとも「店長」が焦るのも無理はない。自分の店に何かと難癖を付ける奴がいるのだ。彼の留守を預かる連中もどうにも出来ず、毎日携帯で泣き言ばかり。これには苛立つのも道理だ。男たちを仕切るてっちゃん親父も、実はキレる寸前のこの「店長」の振る舞いには気づいていた。

 

襲撃

 そんな折りも折り、建物から出てきて車に乗りこもうとする大ボスを一発の銃弾が襲った。大ボスは防弾チョッキを着ていて何とか助かったものの、銃弾はどこからか引き続き狙ってくる。男たちは大ボスを守りつつ、あたりを伺った。どうやら敵は高いところからライフルで狙っているらしい。だが銃弾雨あられの中、男たちはなかなか動けない。何とか状況打開してトータスが屋上の敵に向かって撃ちまくる。それを援護して一同も撃つ。そんな時、路地の奥で動く人影。はやる「店長」はその人影を追って走り出した。

 「深追いするな!」とてっちゃん親父が叫ぶが時すでに遅し。「店長」は脱兎のごとく走り出した。

 屋上の敵は男たちの猛攻に逃げ出した。その隙を見計らって大ボスを車に乗せ、男たちはその場を撤収。若造は兄貴分の「店長」を気遣ったが、いまや奴を待っているヒマはない。車はその場を後にした。

 置いてけぼりくわされて、後からタクシーで何とか大ボスの屋敷に戻ってきた「店長」は、案の定キレまくっていた。

 「てっちゃん親父はどこだ! あのグラサン野郎は!」

 そしてグラサンてっちゃん親父に詰め寄ると殴る殴る。男たちに一瞬緊迫が走るが、てっちゃん親父は敢えてされるがままになっていた。これで気が済んだか、とにかく大ボスを守りきることが一番大事なんだ、それを忘れるな。

 翌日、グラサンてっちゃん親父は一人外出。自分の馴染みの店にやって来ると、そこに一人の男を待たせていた。こいつがまたガラの悪い按摩みたいなグラサン男。「おめえが俺に何の用だ?」

 実はこのガラ悪男、例の「店長」を悩ませていた当の難癖野郎だったのだ。てっちゃん親父は最初のうちいたって大人しく「店長」の店から手を引けなんて言ってたが、それでも聞かないとなったらいきなり豹変。「これでも食らえ!」とムンズとガラ悪男の首をつかまえると何やら無理やりしでかした。もんどり打って倒れるガラ悪男。見ると口に特大「かねてつ」カマボコが突っ込まれていて、窒息寸前ではないか。もがき苦しむガラ悪男を横目に、こいつの始末を店の主人に頼むと涼しい顔して立ち去るグラサンてっちゃん親父は、もはやどこにも「優しそう」な面影なんてない。

 何をしてきたのか一言も言わず帰ってきたてっちゃん親父だが、後から厄介者を始末してくれたと聞いて「店長」はいたく感謝。大げさな礼は言わないながらも、てっちゃん親父に心の奥で恩に着た。そんなこたぁいい、それよりボスの警護に専念するのが俺たちの仕事だぜ…あくまでもの静かにクールなてっちゃん親父。スッカリなついちゃった若造がタバコに花火なんか仕掛けて脅かして喜んだりしてるが、侮ってはいけない。この男、裏の世界では「氷の男」として通ってる、コワ〜イお兄さんなのだ。調子に乗るんじゃねえぜ。

 

応戦

 そんなこんなで時々騒然とはしつつも、淡々と日々が過ぎていく。ボス襲撃の犯人の目星はまだつかない。襲撃を恐れて外出できないと、ボスの業務に支障が出てくる。現にそれに文句を言い出す輩も出てきた。「スーパーボウル飯店」を任されてるデブ叔父ですら、例の事件以来商売上がったりなんで自分の出資金を引き上げさせてくれと言ってくる始末。まさに泣きっツラにハチとはこのこと。だから大ボスもいつまでも引っ込んでいるわけにはいかないのだ。

 そんな訳で、大ボスは仕事で出かけたショッピングセンター「ジャスコ香港店」から今ちょうど出てきたところ。もちろん例のボディガード5人衆を引き連れて、長〜いエスカレーターを下っている最中と思いねえ。営業時間も終了したか、「ジャスコ」の電灯がどんどん消えていく。静まりかえった店内。ボスご一行とは反対側のエスカレーターには、今まさに警備員が上がってくるところ。

 と、その時!

 警備員は敵だった。早速大ボスを庇って臨戦態勢の5人は、あっと言う間に警備員を撃退。さらに襲ってくる敵を、エスカレーター上から微動だにせず次々撃ち殺していく。階下に降りてからも敵からの銃弾に慌てず騒がず反撃。5人がピタッと息のあったコンビネーションで、敵を倒しつつ大ボスを物陰に隠す。そして次なる攻撃に備えて、銃を構えつつ仁王立ちする男たち。

 しばし静寂の時が流れる。

 男たちは銃を構えたまま立ち続ける。

 敵の姿は見えない。

 だが、実はボスと男たちのすぐそば…目と鼻の先の物陰に敵は潜んでいたのだ。その気配を感じるのか、微動だにしない男たち。緊張の糸が張り詰める。

 そこに掃除人が道具を入れた手押し車を押してやってくる。耳にはヘッドホン。ウォークマンでも聞いていたため、今までの銃撃戦に気付かなかったのか。

 ところがその手押し車の金属表面に、物陰に潜む男の姿が…いたぞッ!

 静寂が一気に破れた。物影の刺客も掃除人に化けた敵も、ガンガン撃ちまくって一気にカタをつけた。5人の男たちは、大ボスを今回も守り切ったのだ。

 そんな緊迫の一瞬が過ぎ去った後は、ダル〜い日常だ。せいぜい目新らしいことと言ったら、姐さんの外出に付き合って車で出かけた若造がそのまま帰ってこないこと。実は姐さん警護は「店長」の仕事だったのだが、最近若造と変ってもらったんだね。それというのも、以前「店長」が姐さんに付き合って外出した時、たまたま何かとウルサい顔見知りの刑事と顔を合わせてグチグチと何だかんだ言われたからなんだけど。

 しばらくして帰ってきた若造は、車がエンコしたことをしきりに強調。こういうふうに聞かれもしないことをグダグダ話す時ってのは後ろめたい何かがある時なんだが、その話はまた後で。

 

決着

 ある日のこと、またしても大ボスと同行していた5人。たまたまビルの掃除人に目をとめた大ボスは、そいつがかつてあの「スーパーボウル飯店」でビビって逃げた手下だと気付くんだね。逃げたことでヤキを入れられ、一命は取り止めたものの大幅に格下げされて掃除人に成り果てた手下。大ボスはビルを引き上げる時に、このかつての手下に金を恵んでやるんだよね。さすが華も実もある真の大ボス、コワモテだけじゃない、情だってあるぜ。

 これにはかつての手下も思わず感極まって涙ボロボロ。そして引き上げようとした大ボスを見ると、ダダダッと駆け出した。

 「ボス〜!」

 突然現われた敵の刺客が銃撃。その前に立ち塞がった元手下は、体を張って大ボスの弾よけになり恩に報いた。俺にゃ情をかけてもらった人は裏切れねえ。男だねえ、浪速節だぜえ。やっぱり人にはいつも親切にしとくもんだ。いくらセコく金バラまいてても、人を恫喝したり殴ったりしてちゃあ誰もついてこないんだよムネオの旦那。あんたは地獄へまっしぐらが器に合ってるぜ。

 だがそのドサクサに紛れて、大ボスを敵に連れ去られてしまった。5人の男たちも急いで後を追う。大ボスを乗せた車を追って、男たちも車で追いかける。

 車は夜の街を抜け、どんどんと辺鄙な場所へ。行き着いた場所は草ボウボウに生い茂った空き地にそびえ建つ、今は打ち捨てられた廃ビルだ。

 そしてその廃ビルの窓から飛び交う銃弾。

 車から降りた面々は、さっと草の茂みの中に消える。そしてあちこちから銃火の華が咲く。廃ビルの窓ガラスも飛び散り、深い闇の中で静かに男たちの暗闘が進行する。中でもトータスは相手のターゲットをこいつ一人と絞った。それは最初の襲撃の時に屋上から撃ってきて、トータスとやりあった相手。顔は見ずとも銃の使いこなしでそれと分かる。ここは仕切り直して男の勝負と、トータスも相手も腹を据えた。

 そんなうちにも敵の連中は一人また一人と男たちの銃弾に倒れていった。残るはトータスの相手一人。勝負がついたと悟った相手(佐藤佳次)は、おとなしく男たちの前でシャッポを脱いだ。

 闘い済んで、お互い手の内を知り死力を尽くした男同士。タバコを分け合いながら、男たちと敵の間に親しみにも似た思いが流れる。さて、では今回の黒幕は?

 敵がアジトにしていたこの廃ビルに、あの「スーパーボウル飯店」のマッチが落ちていた。何と黒幕は大ボスのデブ叔父だったのだ。身内だろうが何だろうが掟は掟。デブ叔父はキッチリと始末された。そしてボス弟の指示により、男たちとつかの間心を通わせた敵の男も、何のためらいもなく始末されたのは言うまでもない。それはこの黒社会の掟。敵の男だって先刻承知、恨みっこなしだ。

 そんなドライでクールな世界の男たちだが、同じ釜の飯を食ったあの5人の間には、指輪を捨てる旅に出かけた「ロード・オブ・ザ・リング」の一行にも似た感情が芽生えていた。酒場に集い酒を酌み交わす男たち。寡黙なマメ男も今夜は珍しく顔をほころばせた。てっちゃん親父も上機嫌で、ツマミのカマボコも食えヨと大サービスだ。飲んで語って別れを惜しんで、またいつかの再会を期した5人。あとはリーダー格のてっちゃん親父が、ボス弟から報酬をもらえば一軒落着。

 …の、はずだった。

 ところがてっちゃん親父、ボス弟から新たなミッションを受け取るはめになったのだ。その新たなミッションとは?

 

ミッション2

 みなさんは、5人のうちの若造が姐さん警護で車で出たまま、なかなか帰って来なかった時のことを覚えていらっしゃるだろうか? 実はあの時に若造は、姐さん相手にやっちゃいけないことをやっちまった。例え誘ったのが姐さんからとは言え、大ボスの女に手を出すたぁ御法度中の御法度。やっちゃならねえ不義理だった。つまり新たなミッションとは、あの若造を始末することだったのだ。

 マメ男に会って金を渡したてっちゃん親父は、ついでに新しい仕事のため…とさりげなく銃の調達を頼んだ。さらに携帯借りて若造を呼び出したのだが、これでマメ男は事情を察した。確かにミッションはミッション。この世界の掟は厳しい。だが、あの弾丸の雨あられを潜り抜けた末に築かれた、男たちの絆はいまや揺るぎなく絶ち難いものとなっていた。すると、最初はあんなに若造につれなかったマメ男が、マメマメしくも他の3人の面子に声をかけて呼び出すではないか。

 真夜中に若造抜きで集まった男たちは、この不測の事態に珍しくもうろたえ、本音をブツけ合った。「店長」は兄貴分である手前、若造を見捨てるわけにはいかない。だがてっちゃん親父はミッションを受けた以上、若造を始末しないわけにはいかない。あいつはまだ若い、仕方ないじゃないか。だが、この社会の掟は掟だ。元々は姐さんが淫乱で誰でも誘惑してたのがいけねえんだ。だが、掟には例外は許されない。いつまで経っても己の立場と男の真情と、何よりこの社会のしがらみから結論は出やしない。誰が何と言おうと俺はヤツを殺る…と言い切るてっちゃん親父に、オマエは本当に「氷の男」なのか、何が何でも俺はヤツを守る…と立ち塞がる「店長」。二人の男の意地も、譲れないところまで追い詰められた。

 そして何より、あの若造をここで逃がすようなことがあれば、それはこの黒社会での男たちの破滅をも意味していた。

 そんなドン詰まりの中、男たちが最終的に選択した結論とは?

 

 

 

これがてっちゃん親父だ!

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ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 この映画のことは、コージ氏やMay氏など香港映画に強い方々から、公開時にいろいろと評判をうかがってはいた。だけど場所と時間がどうにも都合悪く、泣く泣く見逃したんだよねぇ。

 その後、たまたま東京国際映画祭で「痩身男女」を見る機会があって、そこでこの映画の監督ジョニー・トーが「ザ・ミッション」の監督でもあることを知り、ちょっとビックリしちゃったんだよね。だって「ザ・ミッション」ってハードボイルド・アクションだって聞いてたからね。ウェルメイドな恋愛コメディである「痩身男女」の監督がつくる題材とは到底思えない。「痩身男女」は脚本担当のワイ・カーファイとの共同監督だったんで、そっちがイニシアティブとってつくったのかとは思ったけれど、それにしたってねぇ。

 そんなこんなでようやく見る機会を持った「ザ・ミッション」。いきなり映画が始まると、香港映画特有のちょっと安い音色のキーボード主体の音楽が流れ出して、アレレレ…という気分になったことをここで白状しなくてはなるまい。スタイリッシュでハードボイルドで…との評判聞いてたんで、この香港お得意の安いキーボードには正直言ってちょっとズッコケちゃったよ。申し訳ないけど(笑)。

 ただ、オープニング画面が黒地に横長シネマスコープのフレーム一杯に、キャスト名が毛筆縦書きの漢字でズラリと並んで映し出された時、僕は直感的にムムッと感じてしまったんだね。それは、1960年代に東宝でモノクロ・シネスコ画面を駆使してバリバリ新作を撮っていた頃の、アブラの乗っていた黒澤映画を連想させたから。まぁそれって本編とは全然関係ないんだけど、まるっきり縁遠いとも言えないかもね。だって両方とも男騒ぎのするメリハリの効いた映画だから。

 で、結論から言わせていただくと、これは近来希にみるキレのいいアクション映画なんだよね。面白い。カッコいい。そしてまるっきりムダというものがない

 説明過多なセリフも描写もない。それでも意味ありげな暗示なぞなしに、物語は破綻なく語り尽くされている。そんな映画づくりの姿勢は、主人公たちのどこかストイックで虚飾のない人間像にも結びついている。男たちにはベタついたところが一切ない。暗黒街を生き抜く男らしいクールさで事が運ばれていく。それはプロフェショナリズムでもある。

 その姿勢は目玉であるアクション描写にも一貫している。最も顕著なのは、ショッピング・センター「ジャスコ」における銃撃戦シーンだ。

 普通アクションを徹底して見せる時は、主人公が派手に動き回る。その激しい運動量がアクションの見せ場になっていることが多い。それが見る側のカタルシスになっている。だが、この映画はまったく違うんだね。ピタリピタリとムダのない動き。いや、むしろ止まっている時の方が多い。銃を構えてぴたっと静止している状態の、その立ち姿が見事にキマってる。そして、それはキメ姿を見せるというより、それがプロフェショナルたるムダのなさなのだと感じさせるのが見事なのだ。

 普通、アクション映画で主人公がカッコよく見えるのは、演じる人間がそれらしい風貌でそれらしくカッコよく振る舞うからだが、ここではその定型も崩している。実際こんなこと言ったら香港電影ファンに叱られるだろうが、正直言ってパッと見で5人の主人公は一人としてカッコいい男はいない。だがそもそもそこから基本的に考え方が違うのだ。最初からカッコよさげな容姿の主人公が出てきたら、正直言ってシラけたろう。見た目のカッコよさは虚飾だ。それはこの映画のムダのない世界ではむしろヤボで格好悪いことなのだ。そして、彼らはことさらにカッコよさげに振る舞わない。そんなことはムダだ。彼らは必要なこと以外はしない。ムダ口すら叩かない。だからカッコいい。派手なアクションの入り込む隙などない。そんな上辺のカッコよさでないレベルだからこそ、彼らはカッコいい。それは究極のダンディズムだ。

 5人のリーダー格が最初の銃撃戦で仲間を置いていくのも、ミッションにとってそれがムダだからだ。怒ったそのメンバーが殴りつけてもされるままになるのは、怒りを発散させることがミッションにとってプラスだからだし、そこで争うことこそミッションにとってムダだからだ。そのメンバーを悩ませている男を始末するのも、それがミッションにとってプラスだからだ。全くムダがない。

 先にズッコケたと告白したこの映画のテーマ曲も、見る側がこの映画の世界に酔わされた頃にはカッコよくてたまらなくなるから不思議だ。それはきっと、上辺だけのカッコよさを追わない野太いまでのムダのなさで、音楽が映画の姿勢を的確に表現しているからだろう。

 そう言えば、うちの「みんなのベストワン」に参加したスネーク氏が、この映画でマメを食いちらかすラム・シューと「オーシャンズ11」でしょっちゅう何か食っているブラッド・ピットの演技設計との類似を指摘していた。この指摘はたぶん当たっていると思う。この映画のルーキーであるジャッキー・ロイと「オーシャンズ11」のマット・デイモンとの位置づけの類似からもそれは伺える。おそらくスティーブン・ソダーバーグはこの「ザ・ミッション」に深く感銘を受けて、自分なりのスタイリッシュ・アクションとしての再現を試みたのではないか。さすがにハリウッド流に脱臭消毒されきってはいるが…でも、そうしたかった気持ちはよく分かる。だが、映画そのものの持つ「厳しさ」の点で雲泥の差になってしまったのは致し方ない。実はこの映画、そんなスタイルより内包する精神の部分の方が肝心なんだよね。

 この映画では、男たちの属する世界の掟の厳しさがイヤというほど描き尽くされている。ボスを見捨てて逃げ出した手下は厳しく罰せられる。裏切った者は例え身内でも容赦はしない。戦い合って敵ながらアッパレと心を通わせても、命令が下ればアッサリと始末する。それはこの世界の掟であり、彼らはそこで生きると決めたからだ。これを執拗に見せる脚本は見事だ。観客である我々は掟の厳しさを再三再四見せつけられているから、終盤の男たちのジレンマに緊張せずにはいられない。

 そこで考えるべきは、掟とは何だろうということだ。

 普通、何かに縛られることは、いいこととは見なされない。僕だってそう思う。人は自由であるべきだ。では組織の掟に服従することは、その奴隷であるということなのか?

 彼らはそうは思っていない。己の感情のままに動くことが必ずしも正しいことではないことを彼らは知っている。だから、あれだけストイックな行動に徹することが出来るのだ。決して思考停止して無気力に強者に追随しているわけではないのである。

 いつでもどこでも自由であればいいのかと言れば、それだって実は違うだろう。というか、それは本当の意味での「自由」とは違う。もし好きにしていい…を徹底させるならば、気に入らない人間は殺せばいい、好きな女ならイヤがっていようと何だろうと奪えばいい。でも、それは「自由」なんかじゃない。本物の「自由」とは「責任」を伴うものなのだ。では、どうするのか?

 人は、己の掟にこそ従うべきなのである。

 男たちの最後の選択は、実に粋な演出で締めくくられる。思わずブラボーと言いたくなるエンディングは、この血なまぐさいはずの映画を、なぜか爽やかな気分で終わらせている。では、それは今まで掟に従っていた男たちが、掟を破って好き勝手に振る舞った結果なのか?

 いや、違う。

 男たちは掟を破ってなどいないのだ。この男たちが自分たちの好き勝手に、甘えをムキ出しにするはずもないだろう。ただ、組織の掟よりもっと大事な掟を優先させたのに過ぎない。それは最初に組織を選択したのと同じように自分でつかみとった、男たちだけの掟=ミッションだ。その結果、自分たちの身に危険が及ぶかもしれないリスクも負っての、それは厳しい選択だ。でもその価値がある時、人はリスクを負うべきなのだろう。

 それが「自由」であるための「責任」というものなのだから。

 


鎗火 (The Mission)

(1999年・香港)ミルキーウェイ制作

監督:ジョニー・トー

脚本:ヤウ・ナイホイ、ミルキーウェイ・クリエイティブチーム

出演:アンソニー・ウォン、ン・ジャンユー(=フランシス・ン)、ロイ・チョン、ジャッキー・ロイ、ラム・シュー、サイモン・ヤム、コウ・ホン(=エディー・コウ)

2002年3月17日・DVDにて鑑賞


 

 

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