「クワイエット・ファミリー」

  The Quiet Family

 (2001/09/03)


 ひなびた山の麓の小さな山荘…それが今回のお話の舞台だ。ある一家がこの山荘の経営に乗り出したのが事の始まり。だが物語を説明していく前に、この山荘を買い取った一家の紹介をしなくてはなるまい。

 まず、知り合いの村長の口ききで山荘経営を決断したお父さん、夫唱婦随でこれに乗ったお母さん、そこにまた調子良く乗った叔父さん、過去に何かヤバいことやったらしい手くせの悪いお兄ちゃん、どこかサメてるブリっ子お姉ちゃん、そしてカワイ子ちゃんながらちょいとマユ毛濃ゆめ、これが「アダムス・ファミリー」なら韓国版クリスティーナ・リッチてな趣の末っ子の妹…という6人構成。今回は心機一転、家族一丸でこの山荘を盛り立てて頑張ろうとみんなやる気まんまんだ。いや、長女だけはシラケてやる気なさそうだけど。

 お父さんの職も投げ打ち、有り金を注ぎ込んでこの山荘経営に乗り出した一家だけに、この事業を成功させるっきゃない。もう立ち止まれない、振り返れないのだ。

 ところが意欲満々で待ってはみても、この山荘の場所が悪いのか全く客が来ない。思いっきり熱くなってた家族たちの表情も、日に日に落胆の色が濃くなっていく。この山荘購入の口ききをしてくれた村長に言わせれば、付近に計画されている道路さえ通れば大繁盛間違いなしとのことだが、その道路の着工もいつになるのか分からない。しかも閑古鳥鳴いて家族の士気も低下する一方のところに来て、さらに追いうちをかけるような出来事が…。ある日、この山荘のすぐそばにヨロヨロと変な老婆が出没。この老婆が気がふれているのか、手足がバラバラとか首がゴロゴロとか縁起でもないことばかりホザく。あげくの果てには、この家は呪われているとか捨てゼリフを吐く始末だ。まぁ確かにこれだけ客足が遠のいていること自体、この家が呪われていると言われてもおかしくはあるまいが

 そんな家族の気分もドン底に盛り下がったある日、奇妙な中年男が山荘を訪れる。しかも泊まりたいと言い出すからビックリ。客が泊まりたいと言って驚く山荘もないもんだが、とにかく初めての客だ!と家族は大喜び。嬉しさが勢い余って、お兄ちゃんなんて注文のビールを部屋まで持って行った時に中をしげしげ覗き込む始末。だが客はピシャリと扉を閉ざして中を見せはしなかった。

 それはともかく客は客。サイフの中味も豊かそうだしバンバンザイ。大いに意気上がる一家には、この時お客の挙動にオカシイ点があっても、疑うところまで気が回らなかったんだね。

 ところが翌朝、お客がいつまで経っても起きて来ないので部屋の扉を開けてみると、ベッドに横たわったまま血まみれ。自分で自分を刺したらしく、すでに息はない。おまけに中味がたっぷり入ってたはずのサイフも見当たらない。こりゃ俺たちが疑われるぞ。おまけに開業早々死人が出てはこの山荘に客なんか来なくなる。ついでに大きな声では言えないが、元々手くせの悪い長男のことを家族全員が疑ってもいた…山荘にすべてを賭けたお父さんには、こうなりゃためらう余地は全くない。死体を近くの山に埋めちまえってことになったのは、きわめて自然なことだった。

 慣れぬ手つきでスコップ握って穴掘って死体を埋葬。ホッとしてのもつかの間、何と早くも第二のお客が来ていた。今度はアベックだ。お兄ちゃんがまたまた部屋を覗きに行くと、アベックは猛烈に激しくセックスの真っ最中。もしこの時、お兄ちゃんがもっとよ〜くこの二人のナニを観察していたなら、その異様な激しさとともに、あえぎながら言ってた「死ぬ死ぬ」の声がどうもシャレになってないって感づいたかもしれないが…。

 そう。全くシャレになってなかった。翌朝やりまくるだけやりまくった二人はベッドで冷たくなっていた。枕元にはクスリびん。こいつらハタ迷惑なことに、この山荘に心中にやってきたんだね。一家はまたよりによって何でうちに…と嘆きに嘆く。

 だが嘆いてばかりもいられない。もう立ち止まれない、振り返れないのだ。二人の死体をビニール袋に入れて、またまた山の中に持っていった。そして穴掘ってさぁ埋めようという段になったら…。

 ギャ〜ッ、男のほうが生き返った!

 いや違う。この男、きっと薬でも死に切れなかったのだろう。だが穴掘って埋めようとしてるところを見られた以上、今さらもう立ち止まれない、振り返れない。思わずお父さんはスコップで男を殴り殺してしまった。今まではただ死体を埋めて隠しただけ。だけど、ついにこの一家は一線を超えてしまったんだよね。

 ところがこれを境に妙に山荘が賑いだしたから不思議だ。山登りのお客が一休みにやってきては、酒飲んだり飯食ったりと大盛況。そこに先輩、後輩と呼び合う男二人組の客もやってきて、ビールなんぞ飲んでいる。すると、これまで終始シラケきったポーズをとってきた長女の様子がオカシイ。男二人組の後輩のほうと妙に色目を使い合ってるじゃないか。あまりに見え透いたその態度に妹はアキレ顔だが、ここぞ勝負という時には傍目なんか構っちゃいられないのだ。何だかんだと先輩を酔いつぶして山荘に泊まることにした後輩男、わざわざ山荘の外でわざとらしくウブな歌なんかうたっちゃって気をひこうとする長女のブリッ子ぶりにまんまと引っかかった。

 ちょっと散歩でもしないか?

 これを男の言葉で翻訳すると「やらせろ」となる(笑)。長女はそれを知ってか知らずか、男と山の中に歩いていっちゃうんだね。後になってこれを末妹から聞いた長男は、スワ妹の貞操の一大事(笑)と頭にカーッと血を上らせて表に飛び出す。だけどアンタもう長女だっていい歳だし、ナニも分かってないってこたぁねえだろう。

 ところが段取り悪かったか先を焦ったか例の二人、いいだろやらせろいやよやめてと、なぜか山の中でもみ合いになってたんだね。男としちゃあこりゃオッケーだと思ってるんだろうが、女のほうはもっとジラシたいんだかどうだか。とにかく両者話が違うと揉めたあげく、男が実力行使に出ている真っ最中。男としちゃそこまでほのぼのした雰囲気で持っていったつもりかもしれないが、結果的にはレイプ同然の「ほのぼのレイプ」とくれば、サラ金並みに後々になって始末が悪い。おまけに、そこにカッカと怒ったお兄ちゃんが現われたから大変。ただでさえ揉めた話がさらに大揉め。はずみで後輩男は渓流に転落して流されてしまった。

 しかし事はこれでは終わらなかった。真夜中に山荘に忍び込む怪しい人影。何と渓流に落ちたはずの後輩男が血だらけ傷だらけになりながら、ズブ濡れで復讐に舞い戻ってきたのだった。しかし後輩男がにっくき長女に襲いかかろうとした時、駆けつけたお兄ちゃんが怒りの一撃で奴の息の音を止めた。それをたまたま目撃してしまった先輩男も、一家全員で抑えつけて人質にした。だってこの一家はもう立ち止まれない、振り返れないのだから。

 だが、悪い時には悪い事がどんどん重なる。何と今ごろになって道路の着工が決まって、死体を埋めた山林にすぐにでも工事が始まるかもしれないというではないか。

 また村の警察では山荘に行ったまま帰ってこない客がいるとの通報に、オトリ捜査のために警官一人をお客として山荘に向かわせた

 ちょうど同じ頃、山荘を手に入れるために世話になった村長が、土地の権利を独り占めしようと良からぬ企みを画策。ボケ進んで身動きとれない父親の地主老人と、その身の回りの世話を焼いている腹違いの妹を山荘に招待した。この山荘の不吉さを察したか、ここで邪魔な腹違い妹を殺し屋に殺させようというハラだ

 時を同じくして、特殊潜水艦で韓国に潜入した北朝鮮の工作員が、この付近に潜伏しているというウワサも乱れ飛ぶ。でもこの一家の場合、身内に「JSA」のソン・ガンホと「シュリ」のチェ・ミンシクがいるから全然平気だけどね(笑)。

 でも呪われた山荘を手に入れてしまったこの一家、ここまで来た以上もう立ち止まれない、振り返ることなど出来ないのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

いつかこの映画を見たい人はここまで

 

 

 

 

 

 

 

 この映画、見るまではすっごく期待してたんだよね。お話はちょっと違うけど、あのヒッチコックのブラック・ユーモア冴えわたる「ハリーの災難」が、現代ふうになってさらにブラックさを増して、グロテスク趣味を加えたような出来上がりになっているんじゃないかと、楽しみな予感がするじゃないか。公開時に見損なって失敗したと思ってたから、今回見る機会があって嬉しかったねぇ。そして見てみたら前半はまさにその通りのお話で、こりゃ大いに楽しめると嬉しくなってしまったよ。

 ただ静かに山荘を経営して一家で暮らしたいということを望んでるだけなのに、なぜかとんでもなくヤバい橋を渡らねばならなくなる皮肉さ。何も彼らは悪いことをする気がないのに、なぜか死体が一つ二つ、三つ四つ、そしてどんどんゴロゴロと増えていく怖さ悲しさ。最初は死体にビビっておっかなびっくり。死体を埋める穴堀りだって不慣れな彼らだが、どんどん次々処理していくうちにスッカリ穴堀りがうまくなっていく。それが食卓の話題になって、みんなで和やかに笑って話すようになるあたりのオカシサ。前半部分の不条理さと笑いは期待以上の出来映えだ。

 今では公開時よりも、主演の一人でお兄ちゃん役ソン・ガンホのスター・バリューがグンと上がってるから、ずいぶん得した気がしたよ。「シュリ」のハードな北の工作員チェ・ミンシクの情けない叔父さんぶりも楽しいよね。

 だがこの映画、一家が蜘蛛の巣に絡めとられるようにどんどん悪夢に引き込まれていく前半部分は快調で楽しいのだが、後半部分から展開がモタつきだす。というのも、お話のまとめ方に困ったからなんだろうね。これが実際の事であると考えるととんでもない話で、まずは最後主人公一家が死ぬか捕まるかしないと収まらない話だが、映画としてはナンセンスでブラックなコメディとしてつくっている以上、そんな楽しさがしぼんでいくつくり方は許されない。そうすると、何とかツジツマ合わせながら主人公一家を救う方向でお話を着地させなければならないわけで、この手の映画はそうした脚本の結末の付け方が腕の見せどころになってくるはず。このあたりはうちのサイトの特集「邦画に夢中2」の中で僕が書いた原稿の「MONDAY」感想にも、アメリカ映画「鬼教師ミセス・ティングル」を引き合いに出して説明した通り。よければご参照いただきたい。

 で、邦画同様に韓国映画もそうした展開が苦手だったのだろうか。前半は不幸が不幸を不運が不運を次から次へと呼んでいくという脚本の組み立てがシッカリしているのに、後半はだいぶいいかげんでお話を放ったらかしたみたいな展開になってしまう。オトリ捜査の警官が戻らないのに警察は何をしているのか? 死体を焼却してるうち火にまかれたお父さんお母さん夫婦はどうやって助かったのか? 逃げ出したものの樹木に絡まった先輩男はどうなったのか?…など一つ一つの挿話にちゃんとした理屈をつけず雰囲気で流して、スッキリとメリハリが付かずに何だか分からないボンヤリしたエンディングにしてしまったのだ。やっぱり日本人同様に、アジア人ってこういうロジカルな構成で話をつくっていくのが苦手なんだろうか? 脚本の構成やら伏線やらを全く度外視したハッキリしない結末には、前半はカッチリつくり込まれて楽しかっただけに、かなり残念な気がしたね。

 監督と脚本を手がけたキム・ジウンって、この後でまたまたソン・ガンホを起用した「反則王」をつくって大ヒット飛ばしたとか。昼はサラリーマン、夜は覆面レスラーに変身する男を描いたと言われるこの新作、またまた着想の良さは感じさせるんだよね。だからどうか今度こそ納得のいく結末の付け方というものをよく考えた上で、覚悟を決めてつくっていて欲しいと思うよね。

 だってこういう発想で物語を立ち上げてしまった以上、映画作家だってもう立ち止まれない、振り返れないのだから。

 


The Quiet Family

(1998年・韓国)

監督・脚本:キム・ジウン

出演:ソン・ガンホ、パク・インファン、ナ・ムンヒ、チェ・ミンシク、コ・ホギョン

2001年8月13日・劇場にて鑑賞


 

 

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