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 「ドラゴンvs7人の吸血鬼」

  The Legend of the 7 Golden Vampires (七屍金)

 (2004/11/08)


 時は1804年、ここはトランシルヴァニアの山の中。一人の長いマントを着た男が、長旅で疲れ切ったカラダでヨロヨロと歩いていた。たまたま通りかかった付近の住民が、その男の姿を見てビックリ。何とそれは中国人の僧侶ではないか。19世紀の東欧に、何故中国人がウロウロしているのか。

 中国人は山中の彼方に一軒の古城を発見すると、にわかにほくそ笑む。

 その古城に入っていった中国人は、廃墟と化した城の中に「D」の頭文字を印した一個の棺桶を見つける。「D」…そう、ローリング・ストーンズの「ダンシング・ウィズ・ミスター・D」でもミック・ジャガーが歌っていたではないか。「D」すなわちドラキュラ伯爵の眠る棺である。やがてどこからともなく冷たい風が吹き始め、中国人の頭上にコウモリがふわぁりふわりと飛び交い始める。

 すると…棺のフタがゆっくり開き、そこから長身の紳士然とした人物…ドラキュラ伯爵ことジョン・フォーブズ・ロバートソンが立ち上がった。

 「誰が私の眠りを覚ました?…オマエは何者だ!」

 すると中国人僧侶はおもむろに語りかける。「伯爵どの、私はチャン・シェンと申します。中国の七人の吸血鬼寺の僧侶でございます」

 そう。彼は遠くはるばる中国は四川省よりやって来た。吸血鬼が跋扈する時、僧侶の寺は強大な力を持ってその地に君臨できる。だが今は吸血鬼たちは眠り、寺は没落してしまった。そこでドラキュラ=フォーブズ・ロバートソンに力を貸して欲しいと頼みに来たのだ。

 この中国人僧侶チャン・シェンの頼みを聞き、何が悲しくてこのわしが中国の古寺なんぞに力を貸さねばならないのだ…と一蹴しかけたドラキュラ=フォーブズ・ロバートソンだが、よくよく考えれば自分もいまやこの惨めな国で人里離れた古城にヒッソリ隠れる身。ならばこの中国人の頼み、あながち悪い申し出とも思えなくなった。そんな「やっぱりこれからは中国」ってな安易な発想、日本の零細企業のワンマン社長あたりと五十歩百歩の考えと言われても仕方がない。

 「私めは伯爵どののどんなご命令もお聞きいたします!」

 よせばいいのにこんな事を言ったのが運の尽き。何でも言ってイイ相手と悪い相手がいる。「そうかそうか…世界は一つ、吸血鬼はみな兄弟」とばかりに中国人僧侶チャン・シェンを抱き寄せたドラキュラ=フォーブズ・ロバートソンは、どこからともなく湧きだしてきた霧に紛れて、この僧侶のカラダを乗っ取ってしまった。そう、袖すり合うも何かの縁…ではないが、ドラキュラ伯爵=フォーブズ・ロバートソンも北京オリンピックを控えて意気上がる大国・中国を目指すのであった!

 それから月日は流れて1904年、ここは中国・四川省は重慶の街。その街の大学ではイギリスより高名な学者をわざわざ呼んで、学生たちに講義をさせていた。その学者こそ、何を隠そうあの吸血鬼退治の専門家…ヴァン・ヘルシング教授ことピーター・カッシングだ。

 さて満場の学生たちにヘルシング=カッシングが語る演目はと言えば…やっぱり吸血鬼の話しかない。諸君の国・この中国にも吸血鬼伝説はある。それは7人の黄金吸血鬼の伝説。それはこの重慶からほど近い村での出来事だ。昔々、暴虐の限りを尽くす吸血鬼に天誅を下すべく、一人の勇敢な農夫が立ち上がったそうな…。

 村の女たちが生け贄として連れて行かれる事に我慢ならなくなったこの農夫は、意を決して村の門から吸血鬼の本拠をめざす。それは荒野にそそり立つ七重の塔の古寺だ。中には生け贄の娘たちが両手両足を手かせ足かせハメられて台にくくりつけられていた。そしてあの僧侶チャン・シェンの下、黄金仮面を付けた7人の吸血鬼たちが跋扈しているいるではないか。

 勇気を奮って寺の中に入っていった農夫だが、たちまち吸血鬼たちに襲われる。農夫は何とかその猛攻をかわしながらも、一人の吸血鬼の胸に付けてある黄金のコウモリの飾り物をむしり取った。すると、そこから勢いよく何かのガスが噴出するではないか。

 そのドサクサに寺を逃げ出す農夫だが、当然吸血鬼たちも黙って逃がすわけはない。何を考えたか僧侶チャン・シェンは、横浜中華街のお祭りみたいに盛大にドラを打ち鳴らした。

 ボワ〜〜〜〜ン!

 すると…あたりの地面をかき分けかき分け、白骨化した死人が這い出してくる。何とゾンビ軍団がウヨウヨ出てきて、総勢で農夫を追いかけて来るではないか。

 慌てた農夫は村へと駆け戻るが、村では怯えきって門を閉ざしてしまう。後方からはゾンビ軍団と、馬に乗った黄金仮面の吸血鬼たちがやって来る。大変だ! 慌てて逃げる農夫は、途中で小さな祠を見つける。もうこうなったら神頼みしかない。さっき吸血鬼からむしり取った黄金のコウモリの飾り物を祀って、一心不乱に祈るしかない。

 だが、祈って助かれば苦労はない。ゾンビ軍団と黄金仮面の吸血鬼たちに追いつめられ、ついに吸血鬼の刃に倒れる農夫だった。ところが吸血鬼がむしり取られたコウモリの飾り物を取り戻そうとしたところ、いきなり発火して吸血鬼を燃やし尽くすではないか。たちまちその場に崩れ去る吸血鬼の屍。あぁ、でも遅いんだよ〜ご利益があるのが…。

 だが、呪いはまだ終わっていない。吸血鬼の災いはいまだに続いている…。

 そんな話をマジで聞かされた学生たちは、聞いてられないとばかりに嘲笑し始めた。それでもヘルシング=カッシング教授は大真面目だ。あげくの果てにバカの一つ覚えのドラキュラとの武勇伝を持ち出したものだから、ますます学生たちはバカにした。何となく教授のドラキュラ話が、ボケ老人の繰り言じみて聞こえたのも災いした。第一ヴァンパイア・ハンターの「ヴァン・ヘルシング」と言ったら、イマドキはカッコいいヒュー・ジャックマンと相場が決まってるでしょ。バカもん、ホンモノはこのわしだ〜。

 「吸血鬼は本当に存在しとるんじゃぞ〜!」

 そんなヘルシング=カッシング教授の叫びも空しく、学生たちはみんな席を立って出ていった。だがそんな学生たちに紛れて、教授の話を注意深く聞いていた若者デビッド・チャンがいた。このデビッド・チャン、何やら胸にイチモツありそうだが…。

 そんな頃、ヘルシング=カッシングのドラ息子ロビン・スチュワートはテメエの親父の嘆きも知らず、重慶駐在の英国領事ロバート・ハンナとお偉いさんたちのパーティーに出席していた。このボンクラ息子の目をクギづけにしたのが、パーティーの席に現れたアメリカ人美女ジュリー・エーグ。しかもこのエーグが金持ちで未亡人…とはあまりにオイシすぎる。ボンクラ息子は早速チョッカイ出そうと近づくと、エーグもまんざらではない感じ。ところが彼女の関心はスチュワートではなかった。その偉大な親父…ヴァン・ヘルシング=カッシング教授その人にあったのだ。無類の冒険好きの彼女。ここ中国へはるばるやって来たのも、胸躍る冒険を求めての事だった。何の事はない、テメエがモテていた訳でない事を知ってスチュワートはゲッソリ。だがエーグはエーグで、何だかんだとしつこく言い寄ってくる中国の有力者の振る舞いにウンザリしていたところ。スチュワートの登場にこれ幸いとソデにしたもんだから、この有力者は根に持つこと根に持つこと。

 その頃、ヘルシング=カッシングが住む家に忍び込んだ一人の人物…それはあのデビッド・チャンだった。彼はヘルシング=カッシングの講義を聴いていたと語り、さらに意外な事実を明かした。何とヘルシング=カッシングが語った吸血鬼村の伝説…そこに出てきた勇敢な農夫とは、彼の祖父だと言うのだ。自分で「真実だ」とあれほど断言していながら、それが本当に本当だったと知ったヘルシング=カッシングは思わず仰天。しかしこんな無責任さにも関わらず、デビッド・チャンはヘルシング=カッシングに熱心に頼み込んだ。「村は今も吸血鬼に呪われています。どうか吸血鬼退治にお力をお貸しください!

 一方、例のパーティーを出たスチュワートとエーグは、人力車に乗って帰路に就いたところ。そこに襲いかかるナゾの一団が! 先ほどエーグにソデにされた実力者が、卑怯にも手下を差し向けて来たのだ。

 たちまち人力車の車夫たちは殺されて、あわや…というところを、今度はまた別の一団が出てきてチャンチャンバラバラの壮絶な戦いを繰り広げるではないか。現れたのは例のデビッド・チャン率いる連中。スチュワートは最初ボケッと見ているばかりだったが、女の前で少しはカッコつけないと…と、よせばいいのに戦いに参加。たちまち危なくなって助けられる始末だ。情けなね〜。

 さて、ヘルシング=カッシング教授が待つ家へと戻ったスチュワートとそれに同行したエーグ、さらにはデビッド・チャンたち。先にスチュワートとエーグを助けたのは、デビッド・チャンの兄弟たちだ。しかも彼の兄弟はまだ他にもいると言う。ここでデビッド・チャンは改めて、ヘルシング=カッシング教授に彼の村の吸血鬼退治を要請する。こうなりゃやらねばなるまい。元々大乗り気なヘルシング=カッシング教授だから、この頼みに異存はない。だが、なぜかエーグまで行くと言い出したのには戸惑った。若い女性の行くところではないとか危険だとか…自称ヴァンパイア退治のプロのヘルシング=カッシングとしては、女が足手まといになるのは困ると言いたげだ。ところが何を考えたかデビッド・チャン、自分の妹も同行するから大丈夫…と言いくるめた。しかもエーグは今回の旅の資金面のバックアップもすると言う。やっぱり人間、最後はカネだ。かくして彼の村への旅が始まる事になったわけ。

 さて馬車など仕立てての道中は、もちろんヘルシング=カッシング教授とそのジュニアのスチュワート、そして冒険好きの美女エーグ、さらにデビッド・チャンとその兄妹7人という大人数だ。ところが出発早々、原っぱのど真ん中で忽然と怪しい連中が現れた。昨日スチュワートとエーグに襲いかかってきた、例の卑怯な有力者の一派だ。こいつら吸血鬼よりタチが悪い。たちまちおっ始まる大乱闘。

 デビッド・チャンの兄妹たちはいずれ劣らぬ剣士揃いで、弓矢を射る者、斧二丁で戦う者、二人一組でタッグを組む者…とそれぞれ得意技も違っている。中でも目立つのは、銀座アスターのイメージ・キャラみたいな紅一点シー・スー。そんな彼らのスタイルは、さながら「吸血鬼討伐戦隊・タオスンジャー」とでも言うべきか(笑)。とにかくこいつらが強い強い。圧倒的多数の敵をどんどん負かしていく。ヘルシング=カッシング教授以下西欧勢は、ただただ呆然と見ているだけ。これじゃマズイとスチュワートも親玉たち何人かを倒したものの、モノの数ではない。まこと味方に回せば頼もしい限りの兄妹たちだが、あまりに情け容赦なく敵を血祭りにあげるその戦いぶりに、味方と言えどもヘルシング=カッシングたちはいささか腰が退けざるを得ない。

 さて行く手はそそり立つ山々の向こうとあって、ますます険しさを増していく。野営をする一行は片時も緊張を緩めないが、そんな中でも兄妹の紅一点シー・スーはスチュワートにチラチラ「その気」攻勢をかける。もちろんそんなチャンスを逃すスチュワートではない。一方、例のムレムレ未亡人エーグはと言えば、これまたデビッド・チャンににじり寄っていく始末。デビッド・チャンはデビッド・チャンで、もちろん悪い気がしない。…と、男女各人の思惑も乱れて夜が更けていく

 ところが吸血鬼討伐隊の面々がそんな大ボケをかましている間も、例の黄金仮面の吸血鬼軍団は村々から女たちをさらっていく。奴らが行く先々は死人の山で草木も生えない状態だ。

 そんな連中の毒牙は、いよいよ村に近づいた一行にも向けられた。

 ある洞穴で野営していた一行の元にコウモリが1匹、2匹、3匹。ふわぁり、ふわり。やがてそれらは…あの黄金仮面の吸血鬼たちに変身するではないか!

 「大変だ!」

 さぁ、居眠りこいてたみんなは飛び起きた。こうして一行と吸血鬼軍団の死闘が始まった。どこからともなく湧いて出てきたゾンビ軍団も交え、またしても派手な大立ち回りが始まった。今度はさすがに人間相手みたいな訳にいかない。なかなかの苦戦ぶりだ。

 それでもデビッド・チャンがカンフーで吸血鬼の心臓握りつぶしたら、吸血鬼はその場に倒れ込んで萎れてしまう。萎れた吸血鬼は、その場に黄金仮面を残してボロボロの灰になって消えていった。

 これを見て勇気百倍の「タオスンジャー」の面々は、次にもう1人の吸血鬼も倒してしまう。さらにはヘルシング=カッシング教授まで老骨にムチ打ってタイマツで応戦。デビッド・チャンの加勢を得て、見事に吸血鬼最後の1人を焼き殺した。するとこりゃマズイと思ったか、残されたゾンビ軍団はサッとその場を立ち去ってしまう。これがテレビ時代劇だったら「覚えてろよ!」のお約束の捨てゼリフの一つも欲しいところだ。

 しかしながら…勝ってカブトの緒を締めろ。この場で3人…そしてデビッド・チャンの祖父の時に死んだ1人…。元々が7人の吸血鬼だから、まだ3人が残っている。しかもそいつらはもっと手強い奴らだろう。…こう断言すると、ヘルシング=カッシング教授はヤケにデカい態度で言い放った。

 「みんなゆめゆめ油断してはならんぞ!」

 実は一番油断しているのは、マグレで吸血鬼1人ぐらい殺したもんだから気が大きくなってるヘルシング=カッシング教授の方だったのだが…。

 さて、そんなこんなで村にいよいよ近づいていった一行は、例の伝説の祠を発見。しかもそこに黄金仮面と吸血鬼の白骨を発見する。これを見たヘルシング=カッシングは狂喜乱舞だ。

 「やっぱり伝説は本当だったんだ!」

 じゃあ今までは一体どう考えていたんだ…とこの人物の本気を疑いたくなるが、ともかく一行は伝説の地にやって来た。村の廃墟に入った一行は、アレコレと準備して村を要塞化する。こうして吸血鬼がやって来る夜を、この場所で待つことになったわけだ。

 そして夜…馬に乗って黄金仮面がやって来る。村の正門の扉を閉じた一行は、連中がやって来るのを待機する。塀の上からは兄妹の中でも弓矢の名人が、吸血鬼を射ようと弓を構える。

 だが…今度はハズした!

 さらにデビッド・チャンが飛びかかっていくが、そこにもう1人の吸血鬼が現れる。もう1人も出てくる。さらにはゾンビ軍団もやって来る。…と、まるっきり押されっぱなしだ

 しまいには正門がもの凄い突風で打ち破られ、そこから敵がなだれ込んでくる。その圧倒的多数ぶりと強さに、さすがの「タオスンジャー」もタジタジ。ヘルシング=カッシングたち西欧勢もビビりまくるしかない。

 やがて…何とこともあろうにあのエーグが、黄金仮面吸血鬼にカブりつかれるではないか。それを何とか助けたデビッド・チャンだが、時すでに遅し。吸血鬼になってしまったエーグは、今度はデビッド・チャンにカブりつく。もはやこれまで。デビッド・チャンは断腸の思いでエーグを抱きかかえ、そのまま尖った竹の切断面に串刺しにした。さらには自らもこれまでと観念し、そのまま自分も串刺し状態で絶命した

 こうして激しい戦闘の中で、兄妹たちもこれまでにない危険にさらされる。中には命を落とす者も出てきた。しかも紅一点シー・スーは1人残った黄金仮面にさらわれ、あの七重の塔へと連れ去られてしまう。それを見たスチュワートは、仲間も親父もためらいなく放ったらかして追いかけた。

 黄金仮面はシー・スーを寺の中に引っ張り込むと、彼女の両手両足に手かせ足かせをハメて台にくくりつけた。そこへ乗り込んだスチュワート。黄金仮面と激しい戦いが始まるが、たちまち組み伏せられて絶体絶命状態だ。

 その頃、何とか残りのメンバーで敵を倒したヘルシング=カッシング教授たちは、慌てて七重の塔へと駆けつける。スチュワートのヤバい状況を見てとったヘルシング=カッシング教授は、いささか卑怯ながら黄金仮面を後ろからブッスリ。これには黄金仮面もたまらず煮えた血のナベの中に落ち込んでしまった。グツグツグツ…ジュ〜〜〜〜〜…。

 やれやれ、こうして吸血鬼の脅威は去った。スチュワートもシー・スーも、残った「タオスンジャー」の面々も安心しきって寺を出ていく。ところがヘルシング=カッシングだけは、どうにも納得がいかない。これで全部済んだとは思えない。他の連中はヘルシング=カッシングなんか置いてサッサと帰っていく中、彼だけは一人で寺を見回していると…。

 案の定…この寺の僧侶チャン・シェンが姿を現した!

 しかもこの男、まるでヘルシング=カッシングを待っていたかのような言い草ではないか。一体何者だ…と見つめていると、この僧侶チャン・シェンはその正体をボワ〜〜〜ンと現した。もちろん、それはドラキュラことフォーブズ・ロバートソン。ドラキュラ=フォーブズ・ロバートソンは江戸の仇を長崎で討つ…ではないが、この中国四千年の地で長年のオトシマエをつけようと現れたのだ。そしてこんな時に限って、ボンクラ息子のスチュワートら味方の連中はいない。結局ご老体ヘルシング=カッシングは、たった一人でかつて知ったる宿敵と立ち向かうことになった。

 「さすがだな、我が最大の敵…ヴァン・ヘルシングよ!」

 

 クリストファー・リーを一躍スターにしたイギリスのハマー・プロの「ドラキュラ」シリーズは有名だが、その最末期の作品がどんなものだったかを知る人は意外に少ないかもしれない。この作品は、そんなハマー・プロの「ドラキュラ」シリーズ最終作。それも番外編とでも言うべき趣のある作品だ。

 ハマー・プロの「ドラキュラ」シリーズは、テレンス・フィッシャー監督「吸血鬼ドラキュラ」(1957)に始まって全部で9作。クリストファー・リーのドラキュラ、ピーター・カッシングのヴァン・ヘルシングという黄金コンビでつくられたこの作品以降次々続編が作られたものの、当然の事ながら質がどんどん低下していった。このあたりの事情はヴァン・ヘルシング感想文に詳しく書いた通りだ。今回の作品は、すでにクリストファー・リーも降りて、シリーズもマンネリ化しきった末の1974年作品。そんなシリーズ起死回生策として企画されたのが、何と香港の老舗映画会社ショウ・ブラザースとの合作だ。

 ショウ・ブラザースと言えば、香港映画マニアではないイマドキ映画ファンには、キル・ビルVol.1の冒頭に登場する映画会社ロゴで説明するのが分かりが早いかもしれない。もっとも僕だって大して事情に明るい訳ではないが、ショウ・ブラザースと言えばかつてはアジア全域に作品を供給していた香港映画の最大手だった。その後の香港映画を取り巻く事情の変化などによって急速に経営が悪化。1986年には新作制作も一旦停止してしまったらしい。その約800本に及ぶと言われるショウ・ブラザース作品のうち厳選されたものが、セレスティアル・ピクチャーズなる会社によって買い取られ、修復作業を施されたのが2002年のこと。東京国際映画祭でのキン・フー作品大酔侠(1966)リニューアル上映なども、こうした一連の事情から実現したわけだ。ともかくこのショウ・ブラザースがかつていかに勢いがあったかについては、あの「ブレードランナー」(1982)にショウ・ブラザース創始者ラン・ラン・ショウが出資者として名前を出している事からも伺えると思う。

 日本ではブルース・リーの大成功で香港映画が紹介されたため、一時は香港映画と言えばブルース・リーの所属していたゴールデン・ハーベスト…というムードがあったが、実は本来羽振りが良かったのはこのショウ・ブラザースの方だったらしい。香港映画に詳しくも何ともない僕ですら、大分前からこの会社の名前は知っていたもんねぇ。例えば永田雅一の大映が溝口健二監督の「楊貴妃」(1955)の制作パートナーとして選んだのがショウ・ブラザースだったと言えば、そのあたりの事情をお分かりいただけるだろうか。

 さて、日本では「燃えよドラゴン」(1973)で堰を切ったように市場に流れ込んできた香港カンフー映画。当時は「カラテ映画」との異名で呼ばれていたカンフー映画の中に、実はこの「ドラキュラ」最終作も紛れ込んでいたのを、当時の僕も何となく覚えてはいた。

 まあ、便乗企画として人気の「カラテ映画」的趣向を取り込んだ作品は当時いくつかあった。中には当時でもすでに廃れきったマカロニ・ウエスタンのゲテモノ、「荒野のドラゴン」(1973)なんて映画まであった。だがこれってイタリアでデッチ上げた作品で、香港はまったく関係ない。主役のチェン・リーなる中国人風芸名の男も実は日本人だった(笑)…というひどいシロモノ。悪役にクラウス・キンスキーは出ているものの、まぁマトモな映画ではあるまい。そんなのだって当時映画に関心があった連中だったら目にとまらざるを得ないほど、当時の「カラテ映画」ブームはスゴかった。実は僕なんて、全くこれらの作品に関心なかったのに覚えているもんね。そんな無視出来ないくらいの勢いだったわけ。

 それに比べるとこの「ドラゴンvs7人の吸血鬼」は、香港ショウ・ブラザースと合作したちゃんとした作品だ。クリストファー・リーは出ていないものの、ピーター・カッシングのヴァン・ヘルシングはキッチリ出てくるから正統なシリーズの続編。「スクリーン」誌に連載されていた双葉十三郎先生の「ぼくの採点表」でも、当時この手の作品としては70点と異例の高得点をもらっていたから、僕も気になってはいたんだよね。

 まずいきなりトランシルヴァニアのドラキュラ城に中国人僧侶が登場するあたりから、何とも不思議なムードで嬉しくならざるを得ない。何しろドラキュラは英語(さすがにルーマニア語って訳にはいかないが)、中国人僧侶は中国語って状態で、ちゃんと会話が成り立っちゃうんだからね(笑)。そのへん、少々微笑ましくもある。嬉しくって思わず手を叩きたくなるよ。

 でも、ドラキュラ怪奇趣味と中華味のどちらもハマー・プロとショウ・ブラザースという本流同士の合作だから、決しておかしなゲテモノにはなってない。考えてみれば「レッド・サン」(1971)やら「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ/天地風雲」(1997)、「シャンハイ・ムーン」(2000)、さらにはラストサムライ(2003)…などの流れを汲む“イースト・ミーツ・ウエスト”的趣向の作品なのだが、それがドラキュラ対中華剣戟&カンフーという典型的ジャンル映画の合体で実現していたというあたりが実にユニークなのだ。だって中国の街に現れたピーター・カッシングのヴァン・ヘルシング教授ってだけで、見ていると「絵」としてかなり楽しいよね(笑)。

 吸血鬼たちが7人、迎え撃つ兄妹たちも主役格のデビッド・チャンを除けば7人…というあたり、そして吸血鬼の村へとやって来た討伐隊の一行が村を要塞化して準備するあたり、ちょっと黒澤明の「七人の侍」(1954)を意識しているっぽいのがこれまた何となくおかしい。この映画ってそんないろんな娯楽映画の味を、一度に合わせて味わえる楽しさがあるんだよね。何だかハンバーグ・カレーみたい(笑)。映画ファンにはボリューム満点のご馳走だ。やっぱりどん欲で贅沢な映画だよ。

 まぁ、残念と言えば…せっかく吸血鬼の巣窟を七重の塔にしているのなら、それを活かして一階づつ1人の吸血鬼が出てきて、それぞれの個性と特徴に合わせた戦いを見せて欲しかった気もする。ちょっとブルース・リーの「死亡遊戯」のオリジナル・コンセプトを連想させただけに、この七重の塔という設定をうまく使って欲しかったかな。

 ともかく中国の村の吸血鬼伝説ってだけで、何となく得体の知れない気色悪さが感じられて、楽しくも怖い気分が高まっていく。ドラを鳴らすと地面から出てくるゾンビ軍団なんて、コマ落としによるスローモーションなんてチープな技法を使って撮影しているが、だからこそ何とも言えない気味悪さが醸し出されるんだよ。

 ただ、縁日で売ってるマスクみたいのを付けた黄金仮面の吸血鬼の顔には笑ってしまうし、こいつらあんまり血を吸わないで剣戟とカンフーに明け暮れているのもよく分からない(笑)。でも、こいつらが繰り広げるアクションはなかなか楽しめる。久々に映画を見ていてワクワクしてしまったよ(笑)。実際映画の最後の決戦あたりは、敵もかなり強くて手に汗握ってしまう。僕は本気でハラハラしてしまった。最後のドラキュラのあまりにあっけないやられっぷりも、こうなったら文句は言わない。中国の寺にドラキュラって発想だけで許したい(笑)。

 そして今回初めて気づいたのだが、監督のロイ・ウォード・ベイカーは何とSFホラーの傑作火星人地球大襲撃(1967)を撮った人ではないか。なるほど、あの手この手で楽しませてくれるし、怖がらせてくれる訳だ。さすがに分かってるよなぁ。やっぱりこの監督さんって、腕がいい職人だったんだね。何しろサービス精神旺盛。「火星人〜」もハマー・プロの作品だったわけだから、長年ハマーゆかりの人だったんだろう。また、この映画に出てきたジュリー・エーグって女優さんも「原始人100万年」(1970)などハマー作品で知られた人だし、ドラキュラ役のジョン・フォーブズ・ロバートソンって人も、後年ハマーが久々に放ったSFホラー映画「スペース・バンパイア」(1985)に出ていたらしい。そういう意味では今回ハマー・プロは、かなり満を持した布陣で臨んでいる感じだ。カッシングを筆頭に立てている事からして、決して手を抜いた作品じゃないと分かるよね。

 香港側の出演者については僕はマニアじゃないから知らなかったけど、デビッド・チャンってかなり知られたスターだったみたいだ。それどころか、1970年代のショウ・ブラザースでは押しも押されもせぬトップ・スターだったらしい。つまりカッシングを立てたハマー・プロも、デビッド・チャンを立てたショウ・ブラザースも、それぞれ本気でつくってるのがこの作品なのだ。そうなればどちらも娯楽の殿堂と呼ぶに相応しい、サービス精神旺盛な大衆エンターテインメント映画の権化。面白くならない訳がないんだよね。いや、面白いに決まってる。

 まぁハマー・プロ作品にもショウ・ブラザース作品にも、それぞれ熱心なマニアがいるから僕がアレコレ言うこともあるまい。だが文字通り洋の東西を超えて、怪奇映画とマーシャル・アーツ映画のプロフェショナル同士がそれぞれの専門分野の力を出し合ったこの映画。それって同じ20世紀フォックスの怪物二種類を映画会社の都合でぶつけた「エイリアンVSプレデター」(2004)なんてシロモノよりも、よっぽど豪華で贅沢で映画的な興奮に満ちたお客さん思いの作品かもしれないよ。

 


The Legend of the 7 Golden Vampires (七屍金)

a.k.a.: The Legend of the Seven Golden Vampires,

7 Brothers Versus Dracula,

7 Brothers and a Sister Meet Dracula,

7 Brothers of Dracula,

7 Golden Vampires,

Dracula and the Seven Golden Vampires,

The Last Warning,

The Seven Brothers Meet Dracula,

Seven Golden Vampires : The Last Warning

(1974年・イギリス、香港)ハマー・フィルム・プロダクションズ、ショウ・ブラザース 制作

ワーナー・ブラザース映画 配給

監督:ロイ・ウォード・ベイカー

脚本:ドン・ホートン

製作:ドン・ホートン、ヴィー・キング・ショウ

提供:マイケル・カレラス、ラン・ラン・ショウ

出演:ピーター・カッシング、デビッド・チャン、ジュリー・エーグ、ロビン・スチュワート、ジョン・フォーブズ・ロバートソン、シー・スー、ロバート・ハンナ、チャン・シェン

2004年10月8日・輸入ビデオにて鑑賞


 

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