It's SHAW Time Folks !

 「香港ノクターン」

  香江花月夜 (Hong Kong Nocturne)

 (2004/10/08)


歌って踊って恋する三姉妹の挫折と希望

 今夜も100万ドルの夜景を誇る大都会・香港の夜は更ける。瞬くネオンサイン、クルマのヘッドライト、ビル街の明かり。今まさに、ナイトクラブ「花都」で客に大受けのショーが始まった。それはオッサン奇術師と可愛い三人娘のショーだ。

 香港の美しい夜、それは恋人たちの天国。星空は見守っている、今夜も恋人たちの幸せを…。

 奇術師チアン・クォンチャオのバックで歌い踊るのは、その長女リリー・ホー、次女チェン・ペイペイ、三女チン・ピンの三人。ただしいまや、どっちがどっちの引き立て役か微妙なところ。実は客には三人娘の歌と踊りの方がバカ受けだったりする。少なくとも店の支配人はそう思っているようだ。三人娘に曲をつくってくれたピーター・チェン・ホーも、わざわざ客席に駆けつけてくれた。

 私はキラキラ輝く太陽、私は恋人たちを見守る月、そして私は夜空にまたたく星。私たちは月と星と太陽のトリオ…。

 ところが好事魔多し。客席から長女リリー・ホーに、チラチラ色目を使うニヤけた男レイ・ミンあり。また舞台が終わった後に父クォンチャオを待っていたのは、年甲斐もなく若い女ティナ・チンからの電話だ。それもカネを持ってきてくれとの催促。実はこのティナ・チンの隣にヒモのような男がくっついている事など、色ボケのクォンチャオは知る由もない。よせばいいのにクラブの支配人にギャラ前借りまでしたあげく、娘たちの分までフトコロに入れるだらしなさだ。

 楽屋では三人娘とピーター・チェン・ホーが歓談中。特に自分たちの歌舞団立ち上げを計画するチェン・ホーは、三人娘を熱心に誘う。そんなチェン・ホーの話に次女ペイペイは大乗り気だが、他の二人はイマイチ乗りが悪い。特に長女リリー・ホーは例の男の事で頭が一杯みたいだ。実はチェン・ホーはこの長女リリーがお目当てなのだが、そんな気持ちは全く通じてない。

 ともかくチェン・ホーは、これからゴーゴー・クラブへ繰り出そうと盛んに誘う。クラブではゴーゴー・コンテストもあるようだ。優勝すれば賞金も出る。ペイペイもその気になって、他の二人を何とか口説き落とした。「今夜は思う存分踊りまくりましょうよ!」

 さて早速出かけるか…と支配人にギャラを取りに行くと、何と父クォンチャオが独り占めして持っていったと言うではないか。これには三人娘も怒り心頭。憂さ晴らしも兼ねてゴーゴー・クラブに乗り込む事になった。

 ところが悪い事は出来ない。問題のゴーゴー・クラブに三人娘とチェン・ホー一行が到着すると、何と客たちの中に見知った顔が…。ギャラ持ち逃げの親父クォンチャオが、タカリ娘のティナ・チンと年甲斐もなく踊っているではないか。しかもこの女、例のヒモ男も同席させている。すっかり手玉に取られているのに、バカ親父クォンチャオはまったく気づいていない。これには三人娘も怒りを通り越して呆れた。

 さぁ、いよいよゴーゴー・コンテストだ。みんな一斉にフロアで踊りまくる中で、群を抜いて目立つのはやっぱり三人娘だ。それに対するはタカリ娘ティナ・チンとヒモ男。どんどん参加者が淘汰されて脱落する中で、この両者は最後までサバイバルしていった。こうなると両者一歩も退けないのが人情。ピーター・チェン・ホーとその仲間たちも、一生懸命三人娘に声援を送る。

 踊れゴーゴー! それゆけゴーゴー! やれゆけゴーゴー! ゴーゴーゴーゴーゴーゴー…!

 結局このバトルに決着をつけたのは我らが三人娘だ。タカリ娘はブチギレて、親父クォンチャオと共にその場を立ち去る。ともかく三人娘、大いに溜飲を下げた一夜であった。

 だが長女リリー・ホーもサッサとニヤけたレイ・ミンと去っていく。これにはチェン・ホーもいささか憮然とせざるを得ない。

 さてその場に残った次女ペイペイと三女のチン・ピン、そしてチェン・ホーと仲間たちは、現在考えているプランを熱心に語り合った。それは例の歌舞団結成のプランだ。もちろんペイペイは参加したくて仕方がない。みんなもスッカリ盛り上がった。テレビで番組を持とう…などと夢は勝手に膨らんでいく。そんな中で、三女がポツリと「私、バレエがやりたいな」…と漏らしたつぶやきも、みんなのノリノリの雰囲気の中でかき消されていく。「じゃあ名前は香江歌舞団に決定だ!」…って、それ「まんま」なんだけど(笑)。

 一方長女リリーは、レイ・ミンとの夜のドライブでシッポリ。レイ・ミンから結婚しよう…と持ちかけられ、指輪までもらってすっかり有頂天。彼は日本で店も持っていて、それなりに成功しているようなのだ。

 「一緒に日本へ行こう!」

 君は知らないかもしれないが、日本にはいい所がいっぱいある。君を連れて行ってあげるよ、新宿歌舞伎町だろう、札幌ススキノだろう、大阪の十三だろう、福岡の中洲だろう、あとは西川口だろう吉原だろう雄琴だろう金津園だろう…。この男の言ってるゴタクを注意深く聞けばよかったものを、リリーはすっかり舞い上がって気分は「タイタニック」ケイト・ウィンスレット状態。例え多少船が危なかろうと、船が沈もうと、アナタさえいればワタシは幸せ…。

 さて住まいのアパートへ舞い戻ったペイペイとチン・ピン。送って行ったチェン・ホーが、突然ペイペイに話があると言う。こういうシチュエーションでは、ペイペイが思わず心ときめかせたのも無理はない。二人はアパートの屋上へと上がっていった。遠くには香港の夜景が瞬く。

 僕が音楽の仕事をする事を、両親は反対している。でも、僕には自信があるんだ。そして好きな人と家庭を築きたい…。

 その「好きな人」が自分でない事を、ペイペイは察してしまった。

 彼は長女リリー・ホーが好きなのだ。コレにはペイペイ傷ついた。おまけに自分の気持ちを長女に伝えて欲しいだの、彼女に捧げた曲があるだの…チェン・ホーはどこまでもペイペイの傷口に塩を塗り続ける。しかもペイペイは、長女リリーが今どんな状況かも分かっているのだ。

 さて翌朝。ペイペイは断腸の思いで長女リリーにチェン・ホーの気持ちを伝えるが、あくまでリリーはつれない。「あの人はいい人よ、でもお金がない」…男たるもの、女に「いい人」などと言われていいことなど一つもない。これはハナっから勝負がついたも同然だ。そんなところに電話が一本。クラブ「金馬車」から出演の日取りについての相談だという。だが三人娘はそんな契約は聞いてない。今出演している「花都」だけで手一杯だ。しかも給料三ヶ月分…といえばダイヤモンド婚約指輪の相場だが(笑)、例の色ボケ親父クォンチャオはこの「金馬車」でもギャラ三ヶ月分を前借りしたと言うのだ。これにはさすがに三姉妹もキレた。

 よりによってそんな最悪のタイミングに朝帰りしてくる親父も親父だが、ともかく本人は場の空気をまったく読めずにご機嫌。三姉妹はこれには怒りをエスカレートさせる一方。こういう時には大人しくしてるに限るのに、親父は「キジも鳴かずば撃たれまいに」を地でいって「オマエらを育てたのは誰だ?」とか「オレの奇術でもってるんだ」とか言わなくてもいい事を連発。かくして三姉妹は、ここでハッキリと親父を見限った。

 「レイ・ミンさんと結婚して日本へ行くわ!」と長女リリー。

 「おー、上等だ。辞めたきゃ辞めろ! まだ二人いるわ!」と親父。

 「父さん、あたしも辞める」と三女チン・ピン。

 「父さん、私も」と次女ペイペイ。

 「ん〜? な、な、な、ナヌ〜?」と親父は突然のことに唖然呆然。

 運悪く、三女チン・ピンはバレエを志す男友達が出来たばかり。働きながらバレエ学校で学ぶと聞いて、すっかりその気になっていたのだ。次女ペイペイも、ハナっからチェン・ホーの歌舞団に入りたがっていたのは言うまでもない。結局三人娘は親父が止めるのも空しく、次々と部屋を出ていった。

 思い切り虚勢は張ったものの、さすがに落ち込む親父クォンチャオ。一人で部屋で悲嘆に暮れていたところ…。

 ゆっくりと扉が開き、次女ペイペイが戻って来たではないか。「私は…歌舞団に行くのはよすわ」

 さすがに一人ポツンと置かれた父親が気の毒だ。それに結局自分を愛してるわけでもないチェン・ホーの元へノコノコ行ったところで、一体何になると言うのか。部屋に入るや否や、親父の胸で泣き崩れるペイペイではあった。

 さすがにこれだけの事があれば、あのバカ親父も懲りるだろうと思いきや…。

 ナイトクラブ「花都」で、今夜もクォンチャオ親父のステージが始まった。だが親父の奇術を盛り上げるはずの歌と踊りは、今は次女ペイペイたった一人だけの寂しいステージだ

 太陽は沈んでしまった、星は眠っている、月が独りぼっちで照らすだけの寂しい夜…。

 さすがにペイペイ一人では、なぜか盛り上がりが欠ける。客の態度も心なしか荒む。おしゃべりして歌も聴いていなければ、踊りも奇術も見てなんかいない。

 あげくクォンチャオ親父がバカな契約を交わすものだから、慌ただしく掛け持ちせざるを得ない。三人娘が一人になっただけでもパワーダウンだ。見かねた「花都」の支配人も苦言を一言。「これじゃ出し物にならん!」

 あげく妙な入れ知恵をするものだから、親父はさすがに困惑する。はてさて一体どんな事を言われたものやら。

 クォンチャオ親父とペイペイが「金馬車」に到着すると、こちらの支配人も言いたい事がありそうだ。「うちはよそと同じステージじゃ困るぜ。契約不履行だ!」

 これには困った親父、苦し紛れにとんでもない事を提案する。さらに楽屋のペイペイにその「新企画」とやらを説明したが、これを聞いたペイペイは愕然。「そんな…私…」

 「オマエ次第だ。父さんを助けると思って頼むよ!」

 …というわけで、またまたステージが始まった。心なしかペイペイの表情は固い。さて一体どんな趣向の「新企画」が登場するのか?

 そんな客席にたまたまやって来たのは、あのピーター・チェン・ホーだ。その目の前で親父の前口上が始まった。

 「今からこちらの箱に入りましたこの娘が、合図と共に一糸まとわぬ全裸で隣の箱から現れます〜!

 場内騒然。それを聞いたチェン・ホーも唖然。ペイペイは暗い表情でうつむくばかり。そんな彼女を無理矢理箱に押し込むクォンチャオ親父。

 さて、ハイ〜!

 ペイペイの姿は箱から消えた。では隣の箱にペイペイが?…ところがそこにも彼女はいない。慌てたクォンチャオ親父は何度も何度も箱を開けるが、ペイペイの姿は消えたまま。ステージはメチャクチャ、客席はこれに大爆笑だ。

 案の定、ペイペイは楽屋に戻って泣きくれていた。クォンチャオ親父は何とか取りなそうとするが、彼女はもう耐えられない。「ハダカになれなんてあんまりよ!」

 そこに現れたのは、あのチェン・ホー。これにはペイペイも驚くやら恥ずかしいやら。「心配になって来てみたらコレだ。それでも父親か!」

 こう吐き捨てると、チェン・ホーは彼女を連れ出そうとする。これには親父も黙っていない。「待て待て! オマエは何の権利があって娘を連れ出す?」

 「彼女と結婚する!」

 これには当のペイペイもビックリ。だがチェン・ホーは、止めるクォンチャオ親父を振りきってペイペイを連れ出した。それでもペイペイは困惑したままだ。荷物を取りに戻ったアパートで、彼女はチェン・ホーに訴える。

 「いけないわ。冗談はもうやめにしましょう」

 だがチェン・ホーは一歩も退かない。事の始まりとなったアパートの屋上に上がり、ペイペイに自分の真意を打ち明ける。

 「憧れと愛とは別だ。今やっと分かった。愛していたのは別の女性だったんだ

 そして改めてペイペイに愛を打ち明けるチェン・ホー。これには彼女も大感激。夢見ていたが叶わぬものと諦めていた愛を手に入れ、感極まって夜空に向かって歌い踊るペイペイであった…。

 さてそんな一方で、散り散りになったみんなはそれぞれに辛酸をなめていた

 クォンチャオ親父はやっと自分がタカリ娘ティナ・チンに手玉に取られていたと気づくが、今さら後の祭り。もはやカネづるにならない男に用はない。タカリ娘ティナ・チンとヒモ男にさんざコケにされ、男泣きに泣くしかない。

 東京に向かった長女リリー・ローは、レイ・ミンとホテル・ニューオータニに泊まってすっかり新婚旅行気分だ。ちょっと出かけると言い出したレイ・ミンは、リリー・ローが持参した大金を借りて出ていく。だがリリーは、日本の映画関係者とのミーティングがセットされているのでご機嫌だ。実はそもそも日本の映画関係者とか広告関係者とかギョーカイ人そのものが、極めていかがわしいお下劣サイテーの生き物なのだが…。

 案の定、ミーティングに現れた男はどこか胡散臭い。オーディション話と聞いてきたのに、衣装の事を聞いても関心がないらしい。そもそも衣装は要らないと言い出す始末。しかも撮るのは35ミリのフィルムではない。では16ミリ?…いんや、8ミリだ。衣装はアンタのハダカだよ…。

 ダマされたと気づいた時にはもう遅い。あのレイ・ミンなる男、安物指輪でチャイナ娘をダマしては日本に売り飛ばす、けしからんブローカーだったのだ。おまけに有り金すべて持ち逃げされたではないか。

 一方、男友達の誘いでバレエ学校に入ったチン・ピンは、下働きの傍らバレエの練習に汗を流す。そしてこの日は、やっと初めてバレエ界のカリスマ的重鎮、ティエン・フォンの指導を受けられる日だ。

 このティエン・フォンなる人物、かつての事故で足が不自由になり、今は松葉杖に頼って歩く身だ。そんなままならなさが気性を歪めたのか、どうも偏屈で変人気質丸出し。この日も他に練習生がいっぱいいるのに、なぜかチン・ピンに目を留めると集中攻撃。「なってない」だの「変なクセがついている」だの「こんなヤツ入れるだけ無駄」だの言いたい放題。おまけに松葉杖でバシバシブッ叩くセクハラ虐待スレスレ指導。単に自分が踊れなくなった腹いせの根性曲がりとしか見えないが(笑)、周りの人間も唖然となるアリサマにチン・ピンはただただ泣き崩れるしかない。

 さて、意中の人チェン・ホーを射止めたペイペイは万事めでたし…と言いたいところだが、こちらも先行き多難。今日は仲間たちが二人の結婚を祝う日というのに、チェン・ホーの両親が押し掛けて来た。この両親、本来いいとこの御曹司であるチェン・ホーに、家業を継いでもらいたいと思っていたのだ。ならば今はセガレが言いなりの、アナタから言ってもらいたい。音楽は辞めて家に戻れ…と。ついでにあなたにも踊りは辞めてもらいたい。名家である我が家の嫁に踊り子なんざ困ります。…と、まぁ無神経で慇懃無礼なゴタクを言いたい放題。あげく自分の父親まで、「たかが奇術師」とナベツネばりのセリフでバカにされちゃあ、さすがのペイペイも悔しくて悔しくて我慢できない。どうしてナベツネとか堤義明とかNHKの海老沢などと言った権力者や成金は、どいつもこいつもアブラギッシュな顔して判で押したようなお下劣ぶりを発揮するのか。

 「奇術師や踊り子のどこが悪いんです? 私はパ・リーグの灯を消しません!」

 ついにキレたペイペイは、泣きの涙でその場を立ち去った

 そうなると…結局戻るのは親父と暮らしたあのアパート。だが、今はそこももぬけのカラ。そして心配したチェン・ホーが駆けつけてきた。「僕には君と音楽があればいいんだよ」

 だが折角お祝いに駆けつけてくれた仲間たちもスッぽかしてしまった。だがチェン・ホーは気にしない。二人が「ここぞ」という時にいつもそこにあった、このアパートの屋上で式を挙げよう。立会人は香港の100万ドルの夜景と夜空の星だ!

 すると、何の事はない。チェン・ホーの仲間たちが屋上まで押し掛けて、たちまち歌え踊れのドンチャン騒ぎになるではないか。

 その頃、下階の懐かしい部屋では、偶然長女リリー・ホーと三女チン・ピンがハチ合わせ。二人とも挫折を味わって、この家にシッポを巻いて戻ってきたのだ。中でも長女リリーは、あのチェン・ホーとやり直せないか…などとムシのいい事を思っていた。だが、たまたま屋上での大騒ぎを目撃。自分の立場を改めて知ったリリーは、三女チン・ピンに向かって言った。

 「私は遠くで二人の幸せを見守る。アナタもバレエに精進なさい」

 それだけ言い残すと、リリーは黙ってその場から立ち去っていった…。

 やがてしばらくして、ここは台湾の首都・台北。場末のキャバレーの喧噪の中、ステージに酔いどれて立つ長女リリーの姿があった。

 女、オンナ、おんな。オンナは所詮カネがすべて。男はそんなオンナの前にひれ伏すのみ…。

 歌も踊りも思いっ切り投げやり。だが、それも無理はない。何しろ客は荒んだ連中ばかりで、誰も歌なんか聴かずに彼女にむしゃぶりついてくる。ところがそんな彼女をステージから引っ張り出し、ホテルの一室へと連れ込んだ男がいた。あげくリリーにシャワーをぶっかけて目を覚まさせる。

 「どうせ私のカラダ目当て」と決めつけたリリーだが、この男はホテルに彼女を置き去りにして去っていくではないか。「気が向いたら『白蘭花』へ来いよ」…と捨てゼリフを残して。

 その夜のこと、ナイトクラブ「白蘭花」にやって来たリリーは、ステージを見つめて驚く。そこでは昼間の男がバンドを率いて、ノリノリでトランペットを吹きまくっている。彼は当代きってのトランペット奏者リン・ユンだったのだ。女優である妻と離婚して以来、彼はアジア各地を巡業して歩いていた。

 そんなリン・ユンはリリーに語る。君が才能を空費しているのを見ていられなかった。自らも失意のどん底だったが、俄然やり直す気になった…。

 「どうだ、オレと組んでショーをやってみる気はないか?

 それからリリーとリン・ユンが組んで演じるドラマチックなミュージック・ショーは、台北の夜の大きな呼び物となっていった。

 一方、歌舞団も順調そのもの。テレビのレギュラー番組が転がり込んできただけではない。テレビ局が開局記念番組の企画に、この歌舞団を大々的に起用したいと言い出したのだ。チェン・ホーの意気はいやが上にも上がる。ところがそんなある日、ペイペイの体調がなぜか悪化。医者に見てもらった彼女は、チェン・ホーにもう踊れないと告げる。当惑するチェン・ホーはペイペイを問いつめるが、彼女は微笑むだけだ。

 「分からないの? ニブい人ね

 それはペイペイの妊娠の知らせだった。

 また三女チン・ピンは一番下っ端のペーペーではあるが、バレエ学校の「白鳥の湖」公演に参加。相変わらずティエン・フォン先生はムチャクチャに厳しく当たるが、もはやそれに怯む彼女ではなかった。

 実際、ティエン・フォン先生とて彼女が憎くて当たっている訳ではなかった。それどころか、遙かに歳が離れた彼女に愛情さえ抱くようになっていた。だがそんな感情を素直に出せない。それと「愛のムチ」的感情がない交ぜになって、チン・ピンをシゴきにシゴく日々だったのだ。

 ある日練習のしすぎで倒れたチン・ピン。そこにティエン・フォン先生もたまらず駆けつけた。事ここに及んでチン・ピンに真意を伝える先生。「君はツラさをバネに伸びてくれると思ってた!」

 それを聞いたチン・ピンは嬉しさ百倍。またしても絶え間ない練習に汗を流し、やがてプリマとして大活躍するに至った

 やがて台北でリリーとユン・リンが働くクラブに、あの親父クォンチャオがやって来る。香港で食い詰めたクォンチャオ親父は、行き場を失ってここ台北まで流れて来たのだ。あげく、いまだに「香港の奇術王」なんて虚勢を張っている。「歌と奇術を組み合わせれば、客にウケますよ!」

 だがリリーはそれが父親とは知らず、クラブの支配人が持ちかけた話を一蹴。「手品なんかコリゴリ。ウンザリだわ!」

 勢い余って文句を言いに来たリリーは、そこであの父親クォンチャオとハチ合わせだ。さすがにお互いビックリ仰天。

 「手品はウンザリか?」「だってホントだもの」「恨んでるのか?」「もう恨んでなんかないわ」…故郷を遙か離れた台北の地で、何たる運命の引き合わせか感激の再会を果たした父娘。

 その年のクリスマス、リリーとリン・ユンによるクラブの特別ショーのプログラムに、奇術が加わった事は言うまでもない

 そんなリリーの元に、あのペイペイから手紙が来る。それは帰国の誘いだ。思えばリリーもいろいろあった。独力で成功をつかみ父とも和解して、今が潮時かもしれない。彼女はリン・ユンに帰国を申し出た。そしてこれを機に、二人で家庭を持とうと呼びかけた。

 だが、リン・ユンはそれに同意しない

 愛しているからこそ、別れる。それがリン・ユンの、ショービジネスに生きる男としての信念だった。二人はお互いに想いを残しつつ、別々の道を歩み始めるのだった…。

 こうしてリリーとクォンチャオ親父は香港に戻った。出迎えるペイペイとチェン・ホー夫妻、それに今は立派なプリマに成長したチン・ピン。長くつらい日々を乗り越え、またあの懐かしい面々が顔を揃えた

 さぁ、これからだ。笑顔で新たな飛躍を心に誓う一同だったが…。

 

この作品成立の興味深い背景とは?

 この作品は確か2002年の東京国際映画祭において、大酔侠(1966)、北京原人の逆襲(1977)など一連のショウ・ブラザース作品デジタル・リマスター・バージョン上映で披露されたもの。その時にもすごく見たくてウズウズしていたのだが、都合が合わずに断念したという経緯がある。その時なぜ僕がこの作品を見たかったかというと、何しろ日本の井上梅次監督がショウ・ブラザースに呼ばれて撮った「ミュージカル」(!)作品だからね。これは見とかない手はないだろう。映画ファンなら誰だって食指がそそる作品だと思うよ。

 しかも「大酔侠」を見てヒロインのチェン・ペイペイ(鄭佩佩)にシビレまくった後で、彼女がこの作品にも出ていたと知るや…僕はこの映画を見なかったことを大いに悔やんだよ。

 だからその後DVDが出たのは、本当にありがたかった。見たい気持ちを抑えるのが大変だったね(笑)。

 何しろスウィングガールズ感想文にも書いたけど、僕は芸道モノやら音楽映画って大好きなんだよね。それが香港製ミュージカルとくれば、見るなと言う方が無理だ。おまけにヒロインはあのペイペイ(笑)。ホントに期待しちゃったよ。

 さて、それはともかくこの映画だが…最初は極めてミーハーに見たいと思っていたのだが、調べてみると非常に面白い位置づけにある作品でもあるんだね。以下、僕が調べた事やら受け売りやらを交えて、アレコレ並べてみたい。

 まずはどこから語ったらいいだろうか? やっぱり井上梅次監督から語った方がいいだろうかね? 邦画に詳しくない僕も大した事は語れないが、この人って新東宝を皮切りに邦画大手をすべて渡り歩いている人なんだね。比較的若い方だったら、テレビの2時間サスペンス・ドラマで天知茂主演の「明智小五郎シリーズ」を撮っていた人と言えばお分かりいただけるんじゃないだろうか? そして音楽モノにも強い。何しろ代表作があの石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」(1957)だからね。“おいらはドラマー、ヤクザなドラマー”…って主題歌で知られる例の映画だ。このネタって渡哲也主演・舛田利雄監督でリメイク(1966)されてるけど、井上監督自身がマッチこと近藤真彦主演のたのきん映画としてまたまたリメイク(1983)しているんだよね。で、このマッチ版「嵐を呼ぶ男」が今のところ劇場映画では最新の井上作品という事になるらしい。

 で、この井上監督を香港に呼んだのが、今回の撮影も担当している西本正という人。クレジットでは「賀蘭山(ホー・ランシャン)」と中国名で表記されているが、実は僕は、この人のことはずっと前から知っていた。いや、それって全然自慢にも何にもならないよ。だって僕と同世代の映画好きだったら…あるいは単に男の子だったら、たぶんかなりの人たちが西本カメラマンって存在を知っていたと思う。なぜなら、西本って人はあのブルース・リーを撮ったカメラマンだったから。

 ローマ・ロケによる「ドラゴンへの道」(1973)、そして何よりリーの遺作「死亡遊戯」(1978)のクライマックス・シーンの撮影を手がけた人物として、西本氏の名前はあの当時かなり知られていたはず。そもそもこんな日本人カメラマンが香港で仕事をしていた…という事自体がユニークだった。だから「知られざる」…って事では必ずしもなかった。ただし西本カメラマンの仕事そのものは、ブルース・リーとの2本を除いて日本で見られる事はなかったんだよね。だから、そういう意味でもこの作品は貴重だ。

 そうそう、実は「大酔侠」の感想文では書き漏らしたんだけど、あの作品も西本カメラマンによる撮影なのだ。だから西本って人は、キン・フーの出世作を撮影しブルース・リーの最後までファインダーから看取った人って事になるわけ。香港映画の一時代そのものみたいな人なんだよね。

 で、この人が香港に呼ばれた理由って、どうもカラー作品やシネマスコープの技術を香港に導入するためだったらしい。元々はあの新東宝で、中川信夫監督などと仕事をしていた人だという。そのままなぜか香港に腰を落ち着ける事になっちゃったみたいなんだけど、この人はその後香港に日本の映画人を次々呼び寄せて、技術的なノウハウを伝えていこうとしていたみたいなんだよね。そんな流れの中でこの作品の井上監督やら日活の中平康など、そして例の「北京原人の逆襲」の特撮スタッフなども日本から呼ばれて来た。その先達として、日本と香港の映画界の橋渡しをしてきた人らしい。

 ところが西本氏いわく…どうも井上監督とはうまくいかなかったようで、最終的にはケンカ別れしちゃったようなんだけど…(笑)。ともかく井上監督は井上監督で、香港の水が性にあったのか以後もショウ・ブラザースの下で作品をつくり続ける事になる。

 ひとつだけ不思議だったのは、他の香港入りした日本映画人がすべて中国名で仕事をしたのに対し、井上監督だけは「井上梅次」名義で仕事をしたこと。これは腰掛けでやってないというアピールだったのだろうか?注1

 それはともかく、井上監督が手がけた香港ショウ・ブラザース作品は…何と撮りも撮ったり1972年までに17本! そのうち5本が日本で井上監督自身が撮った作品のリメイクだというから、まぁ多少はお手軽だったんだろうけど「それにしても」…の量産ぶり。実は先に挙げた「嵐を呼ぶ男」も、「青春鼓王/King Drummer」(1967)として香港リメイクしてるというから恐れ入る。実はこの「香港ノクターン」自体、自身の監督した松竹作品「踊りたい夜」(1963)のリメイクだそうだ。

 「踊りたい夜」のストーリーを調べてみると、多少の違いはあるものの基本的には同じようだ。三姉妹は長女・次女・三女の順に、水谷良重・倍賞千恵子・鰐淵晴子という顔合わせ。…とくれば、何となく各人の俳優の個性というかポジションが分かると思う。われらがチェン・ペイペイは、ここでは倍賞千恵子という位置づけだ。まぁ、その健気な役回りから言って分からないでもない。

 ところがこの映画の役者の序列は、実はチェン・ペイペイが筆頭ではない。彼女の夫になる作曲家の役、ピーター・チェン・ホー(陳厚)なる男優がトップだ。誰だ、このピーター・チェン・ホーって? 

 日本では香港映画ってのはカンフーから入って、いわゆる香港ノワールあたりから現在に至っているんだけど、古い作品ってのは「香港映画ファン」を自認する人々にもほとんど省みられてない。武侠映画あたりならまだしも、現代劇中心の俳優さんとなると皆無と言っていい。だからほとんど情報がないんだよね。

 雰囲気から言って、「ワーキング・ガール」(1988)で実質的な主演のメラニー・グリフィスよりもハリソン・フォードが序列トップになったり、「アンカー・ウーマン」(1996)でミシェル・ファイファーよりもロバート・レッドフォードの名前が上になる…という感じに見える。そういう格なりキャリアを持つ男優ということなのだろう。

 この人の出ている映画を調べていくと、例えば最も古いところでは何と香港・日本合作の「海棠紅(かいどうこう)」(1955)なる作品がある。これなんかでも、どうもこのチェン・ホーはいいとこの御曹司役なんかやっているみたい。何となくどんな役者か分かってくるよね。あとはグレース・チャン(葛蘭) なる女性歌手の主演作「曼波女郎(=マンボ・ガールの意)(1957)という作品にも共演している。ちなみにグレース・チャンの歌はあのツァイ・ミンリャンのミュージカル仕立ての作品Hole(1998)で大々的に使われていた…と言えば、「あぁ、アレね」とピンと来られる方もいるかも。まぁ、要はそういう音楽モノも強い俳優ということだろう。何と1962年には当時の妻で大スターだったというロー・ティ(…と読むのだろうか? いくつか読み方があるようだが漢字表記では「樂蒂」、英語では「Betty Loh Tih」あるいは「Betty Le Di」)と共に、日本の東映と香港ショウ・ブラザース合作の「香港旅情」なる映画にも主演するはずだったらしいのだが、これは残念ながらお流れになったようだ。実現してたら、高倉健や三田佳子と共演したはずだったそうだが…。

 また、「香港ノクターン」の大成功によって井上梅次がショウ・ブラザースで連発する事になるミュージカル仕立てのコメディに、このピーター・チェン・ホーは次々と起用されていくんだよね。このあたりからも、彼の持ち味が何となく伺えよう。

 一見すると、ちょっと頼りなげで育ちが良さそう。作曲家という役柄から言って知性派なのだろう。アメリカ映画で言えばジェームズ・スチュアートあたりのタイプであろうか。スチュアートにはちょうど音楽モノ「グレン・ミラー物語」(1954)もあるし…。あるいは都会風ミュージカルやコメディが多いと見られるそのフィルモグラフィーから、フレッド・アステアのセンなのか。ともかく、そのあたりのイメージが一番近いような気がする。

 ただ正直に言うと、イマドキの感覚から言ってあまりスターとしての魅力は感じないんだけどね(笑)。チェン・ペイペイはじめ女優陣は今でも十分通用すると思うが、男優の方はどれもこれも…ちょっとトニー・レオンとかアンディ・ラウと拮抗できるとは思えないもんねぇ。このあたりの落差ってどうして起きたんだろうかね?

 で、長女役のリリー・ホー(何莉莉)は…というと、問題の(笑)「青春鼓王」にも出てるし、「英雄十三傑」などのチャン・チェ監督作品「水滸伝」(1972)でデビッド・チャンやティ・ロンと共演(これには何と日本から丹波哲郎やら黒沢年男も参加!)もしている。女007みたいなスパイを演じる映画「鐵観音/Angel with the Iron Fists」(1967)なんてモノまであるから楽しそう。ともかく、セクシーな女優ということなのだろう。この人の代表作というと…同性愛絡みでスキャンダラスな題材を扱った時代劇「愛奴/Intimate Confessions of a Chinese Courtesan」(1972)ということになるようだ。この人どこか肉感的なムチムチしたイメージがあるし、今回の役もちょっと色気づいたところがあるので、これはいかにも頷ける。

 三女役のチン・ピン(秦萍)については詳しくは分からない。DVDの解説書に出世作と書かれたジミー・ウォング主演の「江湖奇侠/Temple of the Red Lotus」(1965)は、香港で出たショウ・ブラザースDVDのリストで見る限りでは武侠モノらしい。だが単にいろいろ題名だけ並べても、何の意味もないからこのへんでやめておこう。

 この上記主演者たちのうちチェン・ペイペイを除く三人はそのまま、井上監督のミュージカル仕立ての作品「釣金亀/The Millionaire Chase」(1969)にも出ている。おそらく「香港ノクターン」の好評を受けた第二弾か三弾かって事なんだろう。というのは、この「釣金亀」のスチール写真を見ていたら、やっぱり「香港ノクターン」みたいに三人娘によるステージ場面があるんだよね。リリー・ホーにチン・ピンは分かるとして、あと一人は誰かと思っていたら、何とこれがブルース・リーの死を看取ったとされる「愛人」ベティ・ティン・ペイ(!)。僕はこの人の名を30年ぶりぐらいで目にしたよ(笑)。ブルース・リー・ブーム到来当時は、彼女の名前を映画雑誌に見ない事はなかった。その出演作を見た人は誰もいないのに、日本じゃすでに「スター」だった(笑)。ここで中学生時代に見た「スクリーン」「ロードショー」のゴシップ情報と映画史が見事に幸福な合致を見たという訳で、ちょっと僕はクラクラしてきちゃったんだけどね(笑)。

 それはさておき…この「釣金亀」にペイペイだけが出ていない理由は、彼女が武侠モノのスターとして大成功しすぎちゃったって事もあるんだろうか? こうなると、彼女が井上監督と「香港ノクターン」と前後して撮っていたアクションものと思われる作品「諜網嬌娃/Operation Lipstick」(1967)が、すごく貴重な作品に思えてくるのだが…。

 脇の役者さんたちを見てみると、ちょっとオイシイ役どころの天才トランペッター役リン・ユン(凌雲)って人は、先ほどから何度も題名が出てくる「嵐を呼ぶ男」香港バージョン=「青春鼓王」の主演者でもある。…となれば、当然、裕次郎=渡=マッチの役柄だったのだろう。確かにちょっと「日活」っぽいワルぶった雰囲気もあって、「なるほどな」と思わせるよ。どっちかというと小林旭の方に近い気がするが…。

 あと、何ともおかしかったのが…ピーター・チェン・ホーの相棒の振り付け師として、何だかモーニング娘の仕掛け人の「つんく」(笑)みたいなヤツがチラチラ出てくるのだが、「こいつ絶対どっかで見た事があるよなぁ」と思っていたら…。何とチェン・ペイペイとは共演済み、あの「大酔侠」のタイトルロール…必殺・中村主水の大先輩みたいな昼行灯の「酔いどれ猫」役を演じた男ユエ・ホア(岳華)ではないか! こいつこんな所で一体何をやっているのか(笑)。ホントに「つんく」ソックリなんで、映画の題材が題材だけに笑ってしまった。

 …というわけで、長らく僕の知ったかぶりと受け売りの話にお付き合いいただき、大変申し訳ない。だが、そういうバックグラウンドを知ってた方がこの映画の豪華さが分かるし、置かれたポジションが分かるような気がする。加えて当時の香港映画の事情ってやつが、ほんのちょっと伺えるような映画でもあるんだよね。だから、僕自身の覚え書きを兼ねて、あえてここに綴らせていただいた。香港映画マニアの方なら笑止千万かもしれないが、これらはみんな受け売りで僕自身はまったく香港映画には詳しくないので、どうか何とぞご容赦いただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画を見てから読んで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛みと哀しみを経て、真の「完全燃焼」の歓喜へ

 さて肝心の作品はどうか…と言えば、ハッキリ言ってそんなモノを堅苦しく語るのもバカバカしい。何とも無邪気で楽しい作品なんだよね。

 とにかくバックステージもの、芸道ものとしてちゃんと出来ている。ミュージカルとしても本格的な作品だ。歌も踊りも衣装も装置も結構やってくれるのだ。

 音楽はこれまた日本から出稼ぎの服部良一。当時流行のゴーゴーあたりも交えて、何とも楽しく盛り上げている。正直に言うと劇中でテーマ・ソング的に使われている曲(「外国の月が丸いのも、野の花が香しいのも…」と歌われる歌)はあまり面白みがない(笑)。だが、冒頭のナイトクラブで歌われる曲のくだりは…三人娘の踊りといい、それに合わせた親父の奇術のピタッと決まった段取りといい、まさしく見ている者にとって至福の時と言っていい。「香港の夜は恋人たちのもの…」という最初の歌から、自分たちを「太陽と月と星」になぞらえた“三姉妹のテーマ”とでも言うべき歌へとメドレーしていくあたり…何とも甘美なオープニングを見るためだけにでも、僕はこの映画を何度も見てもいいよ。

 ところでここで余談だが、先に触れた曲の中でで三人娘を「太陽と月と星」に例えたのは、ひょっとするとこの映画のオリジナルな発想ではないかもしれない。

 というのは、この時代よりちょいと前の世代にあたるユー・ミン(尤敏)という大スターの主演作で、「星星、月亮、太陽」(1961)という作品が存在してるんだよね(ちなみにこのユー・ミンって女優さん、日本でも人気があって宝田明と共演したりしていたようだが…)。これってどうも三人の女性を主人公にした話らしい。ひょっとしたら中国では、三人娘を「太陽・月・星」って呼ぶパターンが習慣的にあるのではないか? 残念ながら僕は中国事情に詳しくないから分からないが、どうもそんな気がする。

 閑話休題。当の三人娘を演じる女優さんたちは…というと、まぁキレイどころ三人が揃っているのはそれだけでも華やかと言えるが、正直言ってチェン・ペイペイ以外の二人は少々キツいところもない訳ではない。これは決してペイペイ贔屓で見ているわけではないよ。

 三女のチン・ピンは何しろ歌って踊って芝居っていう余裕が全然ないみたいで、終始表情は硬いまま。視線はあさっての方向へ向いているし、踊りもやっとこやってる感じでギコチないんだよね。危なっかしくて、見ていてハラハラしてしまう。

 長女役のリリー・ホーは歌も踊りも無難なのだが、何せ肉感的ムチムチ体型なので男性ダンサーと絡むと苦しくなってくる。彼女を抱えたり持ち上げたりって趣向が出てくると、どうも相手役がヨロヨロしてしまうんだよね(笑)。ちょっと体重オーバーだったのだろうか(笑)?

 例えば劇中でリリー・ホーは「男と女は所詮はカネよ」ってな歌をうたいながら、マドンナの「マテリアル・ガール」ビデオクリップと似たような趣向のミュージカル・シーンを見せている。…ということは、その元ネタであるハワード・ホークスの「紳士は金髪がお好き」(1953)に出てくる「ダイアモンドは女のベストフレンド」の場面と同趣向って事になるんだけどね。タキシードの男たちを従えてタカビーに唄い踊るあたりなんか、モロに狙いがミエミエ。ところがここでリリー・ホーは、最後に男たちの上に乗っかってゴキゲンにふんぞり返るのだが、乗っかられた男性ダンサーたちの方は思わずグラッとカラダを揺らしてしまうのだ(笑)。

 まぁ…リリー・ホーの太め体型も問題あったのかもしれないが、それだけじゃ彼女が気の毒だ(笑)。その他の場面を見てみても、香港の男性ダンサーって人材の層が薄かったって可能性はある。何となくひ弱っぽくて体型的にも貧弱な雰囲気がするし、見てくれもスタイルも踊りもかなり難がある感じだからね。

 そこへいくと、さすがにチェン・ペイペイは歌も踊りもひとつ頭飛び抜けている感じだ。スターとしてのオーラが云々…って事を言えばファンの贔屓目とも言えるが、踊りとその表現力では三人の中でもピカイチ。先ほど「踊りたい夜」での倍賞千恵子と符号するような書き方はしたものの、庶民性と健気さはともかく、このキュートで健康的なセクシーさは出ただろうか? まぁ、当時の倍賞千恵子…特に「踊りたい夜」での彼女を見ていないので、このあたりは何とも言えないんだけどね。

 そもそもチェン・ペイペイはダンスをやっていた人らしいので、この映画のミュージカル・シーンはお手のものだったようだ。ならばもっとこっちの作品もやって欲しかったのだが…それがなかったようなのはまったく残念しごくだ。映画後半に見せる新妻の上品なお色気といい、やっぱり彼女が人気が出てしまうのも無理はないと思う。アイドル的な魅力があるんだよね。

 三人娘がバラバラになって、それぞれに挫折して試練を味わって…それがいよいよ和解して、再び力を合わせていく。絶望から歓喜へ…そのドラマ自体に力強さがあるから、ご都合主義が気にならない。しかも「いよいよ」って時にもう一回決定的に突き落とすようなショックがあるから、見ている側はスッカリ応援したくなってしまう。この最後のショック場面のくだりは、一同の楽しい再会…新婚夫婦の幸福…親父と三人娘の楽しい団らん…と来て、窓の外のいきなりの嵐が描かれていく…という、実に味のある演出が行われていて秀逸。僕はこれには「なかなかうまいなぁ」とマジで感心してしまったよ。

 そういう「うまさ」は随所にあって、チェン・ペイペイとピーター・チェン・ホーの「愛の現場」として、必ず背後に香港の夜景が見えるアパートの屋上が繰り返し出てくるあたりの段取りの妙もいい。

 また、劇中バレエの先生の幻想として出てくるちょっとハイブロウなバレエ場面は、何となくジーン・ケリーの「巴里のアメリカ人」(1951)終盤を飾る前衛バレエ・シーンを思わせるものがあるよね。井上監督ってこういう演出もやるんだねぇ。ちょっと驚いた。

 だが最も素晴らしいのは、この映画が終始一貫ショービジネスに生きる人々の心意気をうたいあげている事だ。

 バラバラになって自分の道を探しにいった三人娘は、それぞれが愛に傷つき挫折する。だが、それを乗り越え、喜びも哀しみも痛みも歌と踊りに昇華させようとする。本当に見事な芸道精神なわけ。

 特にそれが顕著なのは、長女リリー・ホーと天才トランペッターのリン・ユンの恋模様のエピソード。結ばれる事を望むリリー・ホーに対して、リン・ユンが語る言葉が象徴的だ。

 僕らショービジネスの人間の事は、他の世界の人々からは理解出来ない。普通の人々が休む時に僕らは働き、他の人々を楽しませながら自分は涙を流す…。

 リリー・ホー自身、劇中でこうつぶやいているのは重要な点だ。「いつだって歌っている時だけは幸せよ」

 これってまさにフランソワ・トリュフォーのアメリカの夜(1973)にも描かれた、ショーマンシップの最たるものではないか。「香港ノクターン」の登場人物たちの生き方は、「アメリカの夜」で映画監督役を演じたトリュフォーが、ジャン・ピエール・レオに語りかける言葉とピッタリ呼応するのだ。

 しっかり仕事をするんだ。本物の人生なんて不完全なものだ。それにひきかえ映画は淀みなく流れる。僕ら映画と出会ってしまった人間は、映画あってこそ生きていけるんだ…。

 引き合いに出しては申し訳ないが、残念ながら韓国映画ラスト・プレゼント(2001)にはこれが欠けていた。芸の道に魅せられた人間の持つ業というか、やむにやまれぬ思いが描かれていなかった。だが芸の道を志す人間に、こうした凄味が感じられなければウソだろう。そこの部分だけでも、僕は「香港ノクターン」って「ホンモノ」だと思うんだよね。

 痛みや哀しみを経て辛酸をなめつくしたあげく、後はどんどん気分が高揚してくる歓喜が待っている…。それはあの記録映画永遠のモータウン(2002)が持っていたような、一見卑俗なものこそがホンモノの高みをめざせるのだ…という飛翔感とでも言えばいいのだろうか。

 この映画の最後のヤマ場のショー場面は、だからヘタな芝居場は要らない。ただ怒濤のようにショー場面をてんこ盛りで見せていけば、それだけで伝えたい事は全部伝わる。その時、他愛もなく可愛らしい香港娯楽映画は…それ以上の美しく輝く「何か」にまで昇華している。この映画のエンディングのハイテンションに熱い盛り上がりを見ていると、僕にはそうとしか思えない。

 それは芸の道…ショービズやクリエイターの仕事やアートやらにすべてを捧げた者だけが知っている、真の「完全燃焼」による歓喜なのだ。

 

 

<注1>井上梅次監督の名前の読み方について、「旅荘 愛のさざなみ」せんきちさんより以下のご指摘いただきました。そのまま、ここに転載いたします。

邵氏でメガホンをとった日本人監督の中で、なぜ井上梅次監督だけが中国名を使わなかったのかという点に関して、そのヒントとなるようなコメントが、『跨界的香港電影』(2000年、康樂及文化事務署)所収の「專訪井上梅次」(聞き手:邱淑〔女亭〕氏)の中に見えます。

曰く、「邵氏は私に中国名を名乗らせようとしたが、私はいつも自分の本名を使った」というもので、井上監督としては、いついかなる場所においても、あくまで「井上梅次」という名前で仕事をしたかったということなのでしょう。

 

 

 

<参考>

旅荘 愛のさざなみ

http://www.geocities.jp/haosenkichi/

ピーター・チェン・ホーなどに関する情報は、こちらのサイトの記事を参考にさせていただきました。サイト管理者・せんきちさん、どうもありがとうございました。

 

Hong Kong Cinema - View from the Brooklyn Bridge

http://www.brns.com/

 

「香港への道:/中川信夫からブルース・リーへ」

西本正/山田宏一・山根貞男(筑摩書房)

 

 


香江花月夜 (Hong Kong Nocturne)

(1966年・香港)ショウ・ブラザース 制作

日本劇場未公開

監督:井上梅次

製作:ラン・ラン・ショウ

脚本:井上梅次

出演:ピーター・チェン・ホー、チェン・ペイペイ、チン・ピン、リリー・ホー、リン・ユン、ユエ・ホア、チアン・クォンチャオ

2004年10月27日・DVDにて鑑賞


 

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