「雨に唄えば」

  Singin' in the Rain

 (2002/01/14)


 サイレント映画黄金期のハリウッド。その中でも一際まばゆい輝きを放つ名コンビ、ジーン・ケリーとジーン・ヘイゲンの組んだ最新作のプレミア・ショーが、各界名士を集めて今まさに幕を切って落とそうとしていた。劇場前には車でやってくるビッグスターを一目見ようと、ファンたちが押すな押すなの大混乱。さまざまなスターたちとともにやって来たのはあのドナルド・オコナー!…と言っても誰も知らない。誰あろう、彼こそ今回の主役の一人、大スターのジーン・ケリーの大親友で一緒に苦楽を共にしてハリウッドまでやって来た男。今はケリー出演作の撮影現場で、ムード盛り上げのためにピアノ伴奏をして生計を建てているが、それでも今でもケリーの大親友であることには違いない

 そしてそこにやって来たのは銀幕の恋人たち、ケリーとヘイゲンだ! 会場の興奮も絶好調。大騒ぎの中、会場のMCは二人に結婚の予定を尋ねる。二人は共演作が相次ぎ、ゴシップ界ではもっぱら結婚も間近との噂が渦巻く渦中のカップルなのだ。だが、ケリーはその質問にはとぼけて答えない。何か言おうとするヘイゲンを出し抜いてファンに感謝を述べると、スターをめざす若い人達へのメッセージを求めるMCの問いに、かつてのオコナーとの下積み時代を思い出しながら語り出すのだった。

 「僕らがいつも心に決めたモットーがあります。それはディグニティー…気品だ。いつでも気品を忘れずに…」

 幼い頃からケリーとオコナーは芸を磨きながら一緒にやって来た。ケリーのスピーチとは裏腹に、実は場末の飲み屋で演芸場で、コントに歌に踊りに…柄の悪い客の罵声をものともせずにやって来た。やっとの事でたどり着いたハリウッドでも、最初はただの下っ端。それがスタントマンが倒れたことからケリーがチャンスをつかみ、次から次へと猛烈スタントをこなすことで監督からの信頼を得た。

 「ヘイゲン嬢は大スターにもかかわらず、僕に親しくしてくれた…」

 実際の彼女はかなりの性悪で、一介のスタントマン風情には実に冷ややか。共演できて光栄だと握手を求めたケリーなんか無視。ところが監督から大抜擢で、次作のヘイゲンの相手役に起用と決まったその時から、ガラリと態度を変える根性の悪さ。この時からケリーはヘイゲンを忌々しく思っていたのは言うまでもない。

 「今でも僕らのモットーは変わらない。ディグニティー…気品だ。いつでも気品を忘れずに…」

 そして映画も大成功。上映後の舞台挨拶もケリーの独壇場で、ヘイゲンに一言もしゃべらせないで引っ込んだ。しかし、それには訳があった。

 「なにさ!アタイに全然しゃべらせねえじゃんよ!」

 実はヘイゲン、性根も悪けりゃ口のきき方もなってない。おまけに悪声と三拍子揃った、サイレント時代だからこそ勤まっている映画スターなのだ。おまけに悪いのはそれだけでなくオツムの方もめっぽう悪い。今ではゴシップ雀たちの恋の噂を真に受け、ケリーに何だかんだと迫る困った女。いいかげんケリーも持て余してるのが本当のところだった。社長も手を焼くわがままスター女優を何とか車に押し込めると、次のパーティー会場にオコナーと別の車で出かけるケリーであった。

 ところが車が途中でエンコ。そこに「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」みたいにファンがどっと押しかけて身動きがとれない。折角のタキシードもビリビリ。オコナーと離ればなれになりながら何とかその場を逃げ出したケリーは、たまたま通りかかった女デビー・レイノルズが走らす車にずうずうしくも乗り込んだ。怒ったレイノルズは彼が何者か分からない。車を停めて警官にケリーを突き出したところで、彼が大スターであることを気づく大ボケぶりだ。

 とりあえず危ない奴でないと分かったレイノルズは、タキシードを取りに自宅に帰るケリーを車に乗せていく。車中ではちょっと可愛いレイノルズをからかって、大スター風を吹かせるケリー。ところが彼女は映画なんて関心がないとにべもない。そもそもケリー出演作もあまり見ていないとくる。聞けば、映画の演技なんて本物じゃない、口をパクパクさせてオーバーアクションでどれもコレも同じ。レイノルズは今、女優志望で演劇の道をめざして頑張っているという。そんな彼女には映画より演劇こそ本物だというわけだ。 これはケリーも大スターのプライドが傷ついた

 車から降りて彼女から別れても、彼女の言葉が気にかかる。パーティー会場にたどり着いても、俺は役者か、映画の芝居なんて芝居とは言えないんだろうかとオコナーに思わず問いつめる始末だ。

 そんな折りも折り、ハリウッドでは一つの事件が起きようとしていた。ワーナー・ブラザースが「ジャズ・シンガー」でトーキー映画を始めようとしているのだ。声が出る映画! 今日もこのパーティーの余興として、そのテスト・フィルムが上映された。だけど映画人たちはこんなものオモチャだと取り合わず、嘲笑を浴びせるばかり。どうせ一過性のシロモノに過ぎないとえらい自信で吹きまくっていた。

 そしてもう一つのパーティーの余興は…歌って踊るパーティー・ガールたちのミニ・レビュー。ところがこの女の子たちの中に、例のレイノルズ嬢が入っていたことをケリーは見逃さなかった。傷ついたプライドの腹いせに、彼女にまとわりついてイヤミを垂れ流すケリー。「ほう? これが君が言ってた、映画なんかより本物の演技の道ってわけかい?」

 これはレイノルズも痛いところを突かれてツラかった。だが、ここぞとばかり悪乗りでイヤミを続けるケリー。そんなやりとりが繰り返されたあげく、怒り心頭のレイノルズがケリーに投げたケーキは、何と見事にヘイゲンの顔に命中。パーティーは大混乱と相成った。

 そんな事があった後、ケリーは彼女を気にしてその行方を追ったが、仕事をクビになったとかで消息不明。それも何とあのヘイゲンが裏で手を回して辞めさせたとのこと。気に病むケリーを何とかもり立てようとするオコナーだが、彼の表情は曇るばかりだ。しかも問題はもう一つ起きた

 ワーナーのトーキー第一作「ジャズ・シンガー」が大当たり。観客はもはやサイレントを時代遅れのものとして受け付けなくなったのだ。スタジオで撮影中の映画もすべて制作ストップ。新規まき直しとなった。つまり、サイレントでなくトーキーとして制作することになったのだ。

 これは予想外に難事だった。スタジオを防音にしなくてはならない。マイクも性能が悪く、ちょっとでも役者が動いたら音を拾えない。何より役者が声を出すことに慣れてない。たちまちスタジオは大パニックだ。オコナーはこれにてクビを覚悟したが、社長は彼を音楽監督に起用して安泰。だが穏やかでないのは役者たちだ。

 そんな頃、撮影所をうろついていたケリーは、そこにエキストラその他大勢として起用されているレイノルズを見かけて狂喜乱舞。何とか彼女に追いすがって、今までの事を謝った。実は彼女もクビになったのはケリーの仕業と誤解していた。元々は彼女もケリーのファンで、映画もいっぱい見てたと白状するじゃないか。こうして何とか仲直りした二人は、ぐっと親密になっていったんだね。 社長も彼女を雇うことを決めて順風満帆。

 その頃トーキー作品として撮影再開していたケリーとヘイゲンの主演作の撮影は、予想以上の苦戦を強いられていた。そして何と言ってもその元凶はヘイゲンにとどめを刺す、近くの花壇にマイクを仕込んでも、顔を動かしてしゃべるため音がとぎれとぎれ。今度はドレスに縫い込めば、心臓の音まで拾う。そして何よりあの悪声とひどいしゃべり方は如何ともし難い。だが、それを言うならケリーだって五十歩百歩だ。長年のくせでセリフなんか覚えてこなかったから、監督にわがまま言って「愛してる愛してる愛してる愛してるぅぅぅぅ〜〜〜〜」なんてふざけたセリフに変えさせたりした。何をやってもうまくいかない監督ももうヤケクソ。

 こうしてとにもかくにも完成した作品は、観客の審判を問うべく秘かにスニーク・プレビューすることになった。つまり反応を見るために、こっそり試写を行ったんだね。案の定、評判は最悪。確かにヘイゲンは見れた…いや、聞けたものではない。だが、ケリーには自分の「愛してる」連呼がいかにバカげたものだったかが痛く応えてしまった。それは一番自分が分かる。今までの成功にあぐらをかいて、客と映画をナメた結果がこれだとイヤというほど分かっちゃったんだね。やっぱりレイノルズの言うとおりだった。あれは演技なんてもんじゃない。俺はとても役者なんて言えたシロモノじゃなかったんだ…。

 あまりに落ち込むケリーを見るに見かねたオコナーとレイノルズは励まそうとするが、事はそんなに容易じゃない。あの映画が公開されれば、スター生命も終わりだ。さぁ、どうする?

 そこでオコナーとレイノルズが窮余の策をひねり出した。映画はミュージカルにする。歌と踊りを付け加えてトーキー向きに作り替える。元々歌と踊りはケリーの十八番じゃなかったか? それなら出来るだろ?

 やった、これだとヌカ喜びしたケリーだが、すぐにまた元の落ち込みに戻る。俺はそれでいい。だが、あのヘイゲンの悪声はどうするんだ?

 そこで再びグッド・アイディア。全部吹き替えちまえばいいじゃないか。吹き替えは私がすればいいというレイノルズに、ケリーは彼女の将来性を考えて首をタテに振らない。だが、これ一本のみということで「やろう!」と思い切ることにした。さぁ、忙しくなるぞ! ケリーは彼女の励ましと助けに大感謝して、二人はぐぐぐっとアツアツ・ムードに突入だ。彼女を送った帰り道、ざんざん降りに雨が降ってこようとも、ケリーの心の中はあったかだったんだね。思わずどしゃ降りの中でも歌が出る。体が軽やかに動き出し、知らぬうちにステップを踏んでいる。

 「雨の中で歌って、雨の中で歌って、何てゴキゲンな気分だろう、僕はとってもハッピーだ…」

 このミュージカル版製作に社長も乗った。オコナーは殊勲者としてボーナスまで出た。早速レイノルズが吹き替えを担当しながら制作が進んでいった。彼女の歌声と美貌に会社も売り出しを約束した。すべては万事順調に見えたのだが…。

 やはりそうはいかないのが世の常。あの性悪ヘイゲンが奥の手を出した。何と契約をタテに社長に直談判。契約ではヘイゲンの振りになる情報は公表しないことになっていた。彼女はレイノルズの吹き替えは伏せたままで、今後もずっとヘイゲンの黒子としてコキ使うように脅したのだ。コレには気に入らなくともグウの音も出ない社長。

 やがて何も知らないケリーやレイノルズたちの思惑をよそに、ミュージカル版の新作が完成。プレミアも大成功。その幕の袖で、ヘイゲンがレイノルズ黒子計画を披露した。あまりの事にショックのレイノルズ。もう、どうすることも出来ないのか?

 「今日はアタイが挨拶するからねっ、文句ねえだろっ」

 その時、ケリーに妙案が浮かんだ。オコナーも社長もすぐにその狙いが分かった。ようし、そうまで言うならやってもらおう。何も分かってないヘイゲンは、張り切って舞台挨拶に臨んだ。

 すると案の定、客から声がかかった。「ここでその歌声を聞かせてくれよ!」「そうだそうだ!」

 こうなりゃ思うツボ。慌てて戻ってきたヘイゲンはレイノルズに生黒子を命じたが、それを止める者はいなかった。ケリーたちの意図を察していなかったレイノルズは、ショックに打ちひしがれながらも黒子を勤めるため幕の裏側でスタンバイ。やがてバンド演奏とともにヘイゲンの「ライブ」が始まった

 それっとばかりに幕につないだロープを引きに引くケリー、オコナーと社長たち。ヘイゲンの後ろの幕がサーッと開いて、そこに現れたのは歌うレイノルズ。な〜んだ、ヘイゲンの歌は口パクじゃねえか。あれじゃ日本のテレビに出た時のベイ・シティ・ローラーズと同じだぜ!

 満場の客は大笑い。もはやヘイゲンのアフレコ問題は誰の目にも隠せない。逃げ去るヘイゲンを横目に、ケリーとレイノルズはひしと抱き合うのだった。

 やがて陽光降り注ぐハリウッドに、ケリーとレイノルズ共演新作映画の大看板がデカデカと立ちましたとさ。

 

 誰も知らぬ者がいない、ミュージカル映画の金字塔。名作の誉れ高い映画でも、長い年月のうちには色褪せるもの多々あるけれど、この映画だけはいつ見ても何度見ても楽しさが損なわれることはないんだね。

 ロマンティック・コメディとしてまずよく出来ている。そしてミュージカル・シーンの見応えもある。あのあまりにも有名で、パロディにされすぎてもう結構と言いたくなる雨の中のダンス・シーンも、物語の高揚の中で改めてみるとやっぱりいい。自然にこっちもご機嫌な気分になっている。その他のミュージカル・シーンも素晴らしい出来映えで、ドナルド・オコナーが曲芸的な驚異のダンシングを披露する「メイク・エム・ラフ」、大がかりなセットに多数のダンサー従えてシド・チャリシーの特別出演まで得て展開する「ブロードウェイ・メロディー」、果てはデビー・レイノルズが可愛く歌って踊るパーティーのミニ・レビューから、修業時代のケリーとオコナーの回想シーンでのボードビル芸に至るまで、歌と踊りのあの手この手が惜しげもなくギューヅメの贅沢さ。これ一本あれば他はいらないとまで思える楽しさだ。

 加えてこの映画には映画ファンならぐっと来る撮影所の内幕ものの味わいがある。サイレントからトーキーへの転換期の大混乱が、いささかの誇張もなしに再現されている。それをそっくりそのまま見せれば、充分コメディ的な状況だったんだね。

 僕が一番好きなのは、どうってことないシーン。最後のプレミア・ショーでヘイゲンが口パクやってるそばから、裏の幕を引こうとケリー、オコナー、社長がぐいぐいとロープを引っ張る場面。この時の彼らの楽しげな表情と動作が何とも嬉しくなる。こんな取るに足らない細かい動作の一つひとつに、本当に面白い映画を見る喜びが溢れてる。そんなのがゴロゴロしてるんだよ、この映画には。

 この映画についてゴチャゴチャ言うのはヤボと言うものだろう。実際、僕がここで書いたストーリーも、どれほど実物の楽しさ伝えているか疑問だ。実は書くのよそうかとも思ったんだが、今回また見る機会があって、あまりの面白さについつい書かずにいられなくなった。これを読んだ「雨に唄えば」未見の方は、どうかこの映画こんなもんじゃないとお思いいただきたい。本物はこんなもんじゃないよ。読んだらこんな駄文はサッサと忘れてくれ。

 映画を愛して、映画に自らを捧げた先人たちの汗と涙が、ここにはいささかの陰りもなく笑顔で再現されているのだから。

 


Singin' in the Rain

(1952年・アメリカ)M.G.M.映画制作

監督:ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン

脚本:アドルフ・グリーン、ベディ・ラムデン

出演:ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナー、ジーン・ヘイゲン、 ミラード・ミッチェル

2001年12月23日・ケーブルテレビにて鑑賞


 

 

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