「恐怖の酷寒地獄/雪山宇宙研究所の謎」

 (別題名「白い恐怖」)

  A Cold Night's Death

 (2002/05/27)


 

おことわり:今回はすべてのストーリーを公開しています。

 

 

 

 それは真夜中に起きた。場所は標高4100メートル、豪雪に埋もれたタワー・マウンテンの山頂研究所のこと。そこにたった一人で研究のため派遣されていた科学者が、パニックに襲われて無線で助けを求めてきた。だが、ほどなく通信はとだえた。悪天候のため研究所にも近づけず、空しく5日が過ぎる。天候の回復を待って、後続の研究員がヘリで山頂研究所をめざすことになった。

 この山頂研究所は、宇宙開発における人間の耐久性を研究するために設けられたもの。中ではさまざまな種類のサルたちを使って、極限状況におけるプレッシャーを調べるために動物実験が繰り返されていた。

 例の連絡を絶った科学者は、その前に恐怖におののきながらとぎれとぎれな通信を送っていた。だが、その言葉も「ナポレオン」だの「アレキサンダー大王」だの意味不明な文言だけ。山頂研究所で一体何が起こった分からないまま、一行はヘリで山頂をめざしていた。

 吹雪の中をヘリが山頂へと到着する。後続の科学者ロバート・カルプとイーライ・ウォーラック、それにヘリのパイロットのマイケル・C・グウェインは、おそるおそる山頂研究所のドアを開ける。

 すると研究所内は人けがまったくない。その静まり返った様子にも驚かされたが、もっと驚くべきはその散らかった室内だった。誰かが荒らし回ったようなひどい散らかりよう。慌てて飼育室に駆け込むと、ヒーターが切られていてオリの中のサルたちはみな凍死寸前だ。一匹放し飼いになっていたチンパンジーのジェロニモも、あわや死ぬ寸前まで衰えていた。

 さらに驚くべきは電気室だ。なぜか窓が開けっ放しになって、室内は雪だらけで恐ろしい寒さ。そこに、例の科学者が通信機の前に座ったまま凍り付いて死んでいた。

 この寒さにも関わらず窓が開けっ放し。電気室のドアはカギもかからず、いつでも出られる状態にあった。なのにこの科学者は、部屋からも出ずに極寒の中で凍死した。一体なぜだ?

 結局科学者は気が狂って、部屋に閉じこめられたと錯覚して窓を開けて脱出しようとした…と無理やり結論づけたものの、もちろんそんな事で説明がつくはずもない。 この科学者は死の間際までテープレコーダーに録音していたようだが、テープを聞こうにも凍り付いているため再生するには解凍の必要があった。

 とりあえずパイロットは科学者の遺体を回収して帰途についた。こうしてこの山頂研究所には、ロバート・カルプとイーライ・ウォーラックの両科学者が残り、研究を続けることになった。

 そのカルプ、正直言ってこんな研究所には来たくもなかった。ウォーラックが志願したから自分もつき合わされるハメになったとボヤきにボヤく。ウォーラックが研究所の当番を決めようと言い出したときも、そのマメぶりにイヤミを言うだけ。ウォーラックは本来書斎の人で、人里離れた研究所で誰にも邪魔されずに研究出来ることを喜んでいた。しかし外向的なカルプはこんな退屈な場所はウンザリ。だから自分はビリヤードなんかやって怠けながら、料理も掃除もウォーラックに押しつけた。ただ、研究所で使用する水を確保するために、外から雪をかいて給湯室に投げ込む仕事だけは引き受けた。自分が研究所行きを志願したことでカルプが怒っていると察しているウォーラックは、そんなカルプの一方的な言い分を聞くことで、何とかカルプの気もちを納めようとしていた。ついでにウォーラックは、科学者が死んだミステリーの調査もカルプに頼んだ。そうすりゃカルプだって退屈しのぎにはなるだろう。

 ほどなく暖かさが回復してきたので、飼育室のさまざまなサルたち…「ジュリー」とか「アレー」などと命名されたチンパンジーやらオランウータンやら多種多様なサルたちもチンパンジーのジェロニモも、みんな元気を取り戻した。そこで以前のように、サルたちを使った実験が再開された。食事を減らしていく実験、寒さを体感させる実験。チンパンジーのジェロニモだけは放し飼いにして、特別扱いにした。

 極限状況を体験させる実験を続けるうち、サルたちはお互いに対立して争うようになった。それを見て怯えるチンパンジーのジェロニモ。

 さらに給湯室でカルプが水をつくっていたところ、いつの間にか部屋のドアにカギがかかっていた。その時カギを持っていたから閉じこめられずに済んだものの、カルプはこの研究所にただならぬ気配を感じていた。だが、ウォーラックはまるで取り合わない。カルプの考えすぎだと一笑に付すだけだ。

 ある晩、カルプは騒々しい物音で目が覚めた。飼育室のサルたちが大騒ぎを始めたのだ。呼んでも起きないウォーラックを置いて、飼育室に駆けつけるカルプ。その時、彼はあの電気室のドアがかすかに開いているのを見逃さなかった。

 電気室に入ると、誰も触れていないはずの計器が作動していることに気づいた。おかしい。さらに部屋の寒さに気づくと、何と窓が開きっぱなしになっているではないか。窓を閉めようと悪戦苦闘するうち、今度はドアがいつの間にか閉じようとしていた。間一髪ドアを開いて事なきを得たが、またしても部屋に閉じこめられそうになった。ドアの外には誰もいない。だが、もしここで閉じこめられていたら…これはあの科学者の二の舞ではないか。

 翌朝、今度は発電器が停止した。このままでは研究所が凍り付く。あわてて発電器を直してホッとしたものの、一体誰がやったのか疑問が残る。これはオカシイと指摘するカルプに、意外にもウォーラックがキレた。ウォーラックは昨夜カルプが起き出したことを知っていたのだ。明らかにカルプを疑うウォーラック。こうなると、今まで溜まりにたまった不満も手伝って怒りが爆発した。そんなウォーラックにあくまでカルプは、この研究所には「何か」がいると主張する。だがウォーラックは、カルプが科学者の死の真相を追求して考えすぎたあまり、錯乱状態になったと決めつけた。

 両者の関係はひたすら険悪なものとなった。カルプを疑い、彼が主張する謎をバカげていると言い張るウォーラック。しかしカルプは、そんなウォーラックがこの研究所に来て以来、あの電気室に立ち入らないことに気づいていた。君も科学者の死に不審を抱いているのではないか? 図星をズバリと指摘されたウォーラックは、さらに感情をこじらせてその場を後にする。

 その深夜、またしても物音に眼を覚ますカルプ。起き出して研究室にやって来ると、あのウォーラックが深夜にも関わらず動物実験を繰り返していた。憤るカルプにウォーラックは、真相を掴んだと迫る。その血走った形相にカルプはイヤ〜な予感に襲われた。

 案の定、ウォーラックは被害妄想に取り憑かれていた。これまでの変事は一切合切、カルプの仕業と決めつけた。君の実験対象はサルじゃない、この俺を使って人体実験をしていたんだ! 完全にキレたウォーラックには今何を言っても逆効果だ。カルプはとにかく明日話し合おうとその場を納めるしかなかった。

 ところが翌朝、今度はシャワーが止まった。水道がやられた。給湯室を調べると雪を溶かす装置が止まっている。おまけに研究所の品々がとっ散らかって食料も大半がダメになっていた。またまたウォーラックがキレた。「俺がシャワーを浴びようとするとこれだ!」またしても全てをカルプのせいにして、ヒステリックにその人間性まで責める荒れようだ。ところが激しい物音が! 慌てて駆けつけてみると、あのチンパンジーのジェロニモが暴れているではないか。こいつが全ての元凶か。ジェロニモを放し飼いするのは危険だと気づいた二人は、このチンパンジーをオリの中に閉じこめた。

 こうなると攻守逆転。気まずそうに謝罪するウォーラックだが、もうカルプは口をきく気もなくしていた。改めて雪をかき、水をつくりにいくカルプ。そんな彼の「シャワーでも浴びな」という言葉が、ウォーラックの気持ちを逆なでしているとも気づかず…。

 ところがウォーラックが飼育室を覗くと、あのチンパンジーのジェロニモがいなくなっている。慌ててそこら中を探すと、何とジェロニモは無惨な死体になって戸棚に隠されていたではないか。

 一方、外で雪かきをしていたカルプは、作業中にふとある事を思い出した。死んだ科学者が残した謎の言葉…ナポレオン、アレキサンダー…みんな征服者の名前だ。そして飼育室のサルたちの名前を思い出してみると、「ジュリー」はジュリアス・シーザー、「アレー」はアレキサンダー大王…それらもみんな征服者からつけた愛称ではないか。サルたちが敵だったのか!

 寒さと気圧にぐったりしながら急いでカルプが室内に戻ろうとすると、なぜか扉にカギがかかっている。このままでは凍死だ。慌ててカルプは重たい体を無理やり引きずりながら、給湯室の雪の投げ込み口から何とか研究所内に入り込んだ。

 だが、そんな凍えるカルプを待っていたのは、血塗れのチンパンジー・ジェロニモの死体を抱いたウォーラックだった。しかもピストルを構えている。彼はまたしてもカルプが錯乱して、ジェロニモを殺したと思い込んでいたのだ。違う違う、俺じゃない!

 俺たちがサルに恐怖を与えると、奴らも俺たちに恐怖を与えた。俺たちがサルから食料を奪うと、奴らも俺たちから食料を奪った。俺たちがサルに寒さを与えると、奴らも俺たちに寒さを与えた。奴らは俺たちに報復しているんだ。それが分からないのか?

 だが、ウォーラックを説得しようと迫るカルプを、怯えたウォーラックはピストルで射殺した。

 撃った直後に激しく後悔にさいなまれるウォーラック。そこに突然、先日のウォーラックとカルプの激しいやりとりが聞こえてくる。君が俺を実験台にしてたんだ! バカな、俺はやってない! 君には人間性ってものがないのか!

 慌てて音のする電気室に飛び込むウォーラック。 すると目の前でテープレコーダーが回っている。あの一部始終がテープに録音され、それが今再生されているに違いない。だが、一体誰がそれを録音し、そして今誰が再生しているのか? ふと寒さに気づくと、何と窓が開いている。ウォーラックは必死に窓を閉めようとするが、窓には何か仕掛けられているのかまるで閉じない。しかも背後に振り返ってみると、ゆっくりとドアが閉じるではないか。ウォーラックがドアに飛びつき開けようとしても、ドアにはカギがかけられていた。部屋に閉じこめられたウォーラック。窓は閉じられない。否応なしに厳しい寒気が吹き込んでくる。

 いまやウォーラックは、自分が罠にハマったことを実感した。あの死んだ科学者が陥ったのと同じ罠に。

 ドアの窓からは、サルのアレキサンダーがじっと室内を見つめていた…。

 

 この映画は僕がかつてテレビで見て録画していたものだ。そして、これはアメリカ本国でも劇場公開はされてない。あくまでテレビ放映用に製作された、俗に言うテレビムービーという類の作品だ。

 日本でもアメリカでもテレビでの映画放映が盛んになると、まもなく極度のソフト不足に悩まされることになった。2時間もの放映時間をもたせられて、それなりの視聴率をとれる映画は、テレビにとって優良なソフトであることは言を待たない。だが、それをすべてのチャンネルで毎日のように放映されれば、すぐにソフトが枯渇することは時間の問題だった。この問題にテレビ局や映画会社はテレビムービーを製作することで対応しようとした。制作費も規模も小さく、スターも格を落として製作されるテレビムービーだが、それでもそれなりに商売にはなった。そこで1970年代にはかなりのテレビムービーが製作されることになったわけだ。そうなると一つひとつの作品はアイディア勝負、面白さ勝負になってくる。また、比較的リスクも少ないとあって、新人監督の登竜門ともなった。スティーブン・スピルバーグなどもこのテレビムービーから出世した一人であることは、ご存じの方も多いだろう。彼の出世作「激突!」がテレビムービーだったことはよく知られているし、同じようにアメリカではテレビ放映され、日本では劇場公開された作品も少なくない。

 こうしてアメリカでは映画放映のソフト不足がテレビムービーの繁栄をもたらした。翻って日本では…残念ながら良質なB級映画の受け皿たるテレビムービーといった方向には向かず、現在氾濫する2時間サスペンス・ドラマを生んだのだから不思議だ。そこらへんがわが国の限界なのだろうか。

 今回はストーリー紹介もオチャラケずに逐一書いたのも、この作品に目にした人は限られているだろうし、今後も見る機会はほとんどないだろうからだ。だが、見た時の印象が強烈だっただけに、今回改めて取り上げることにした。もし仮に見る機会があったなら、ぜひそのチャンスを逃さないでほしい。オチが分かっていても、必ず見る価値がある作品だからだ。

 この作品も、低予算の小規模作品の典型。何しろ舞台は山頂研究所だけ。出てくるのもB級スター二人だけのほとんど出ずっぱり。安いと言ったらこれほど安い企画もないだろう。冒頭でヘリが研究所に到着するくだりも、スタジオで撮影しているためにヘリの窓にスタジオのライトが映り込んでしまうほどの安っぽさだ。

 だが、テレビムービーはアイディア勝負と前述したように、この安い作品がなかなか緊張感に富んで面白いのだ。まず、雪と悪天候と標高4000メートル以上の山頂であるという悪条件で、外界から全く遮断された場所であるという設定がいい。登場人物がたった二人でセット一つだけで進行するドラマだということも、予算上の都合なのだが雰囲気を盛り上げる。そして、終始鳴り続けている電子音楽が不気味。音楽というより効果音という感じで、まるで怪談の幽霊登場時にヒュ〜ドロドロと鳴出す音みたいに気色悪い。これだけで十分に恐怖の下地は出来ている。

 正直言って真相はそんなに驚くべきものではない。だがそれでも、人間二人が徐々に追いつめられていく様子は何とも怖い。それも二人は異常な人間というわけではない。極限状況に追い込まれるに従って、徐々に異常性がむき出しになる。その狂い方が、二人が本来持つ性格…外向性と内向性、攻撃性と保守性に根ざしたものだというところが怖いのだ。何かに追いつめられた時、人間が信じられない凶悪ぶりを発揮するのもこんなことからだろうと思わされる、それは極限の怖さだ。

 何かトラブルがあった時、人間同士が対立したときの構図…我が身に立ち返った時、思い当たる点が多々あるだけに、その恐怖は絶大なものになる。

 本当に怖いのは、人間そのものなのだから。

 


A Cold Night's Death

a.k.a. The Chill Factor

(1973年・アメリカ)スペリング=ゴールドバーグ・プロ、ABC制作

テレビ放映のみ

監督:ジェロルド・フリードマン

制作:ポール・ジャンガー・ウィット

製作総指揮:アーロン・スペリング、レオナード・ゴールドバーグ

脚本:クリストファー・ノッフ

出演:ロバート・カルプ、イーライ・ウォーラック、マイケル・C・グウェイン

2002年5月11日・ビデオにて鑑賞(1986年9月5日・テレビ東京放映時に録画)


 

 

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