「宇宙からの色」

  Die Farbe (The Color Out of Space)

 (2019/09/02)



 ジョナサン・デイビス(インゴ・ハイス)という青年のもとにひとりの男が訪ねて来たことから、それは始まった。
 やって来た男とは、ウォードという刑事(アレクサンダー・セバスチャン・クルド・シュステル)。彼が訪ねて来た理由は、ジョナサンの年老いた父(パト リック・ピアース)の突然の失踪だった。ウォード刑事の調べによれば、空港からフランクフルト行きの飛行機に乗ったところまでは分かった。だが、なぜドイ ツを目指したかが分からない。実は、ジョナサンにはその心当たりがあった。彼の父親は、第二次大戦終結直後に軍医としてドイツに駐留していたことがある。父親とドイツを結ぶ接点は、そこにしかない。
 ジョナサンはマサチューセッツ州アーカムの図書館へと足を運び、そこで旧知のダンフォース先生(オラフ・クラトケ)と面会する。ダンフォース先生は、彼の父を若い頃からよく知る人物だ。当時のことを尋ねてみると、先生は複雑な表情になって回想する。
 「彼はドイツのババリア近くの森に駐留したんだが…帰国した時には人が変わっていたよ
 居ても立ってもいられなくなったジョナサンは、単身ドイツへ飛んだ。レンタカーを借りて、向かうは父親が駐留していたというドイツのシュワーベン=フラ ンケン地方。深い森の中を行く一本道を走ると、途中で通行止めに出くわす。その場にいた作業員(セバスチャン・シェーファー)にヘタクソなドイツ語で話し かけてみると、どうやらダム工事ですでに注水が始まり、先は交通止めだとか。仕方なく教えてもらった迂回路に入り、何とかかんとか目指す集落へと辿り着 く。
 だが、そこは人っ子ひとりいない
 閑散とした空き家が、そこかしこに並んでいる。だが、人けはない。死んだ集落だ。
 あちこち歩いてみるが、まるで活気というものがない。いいかげんジョナサンが諦めかけた時、とある店の扉の前で、ネコが一匹こちらを見つめているではな いか。そのネコの眼差しに誘われるように、店の扉を押して入るジョナサン。そこは…こちらもおよそ活気のないことには変わりないが、おそらくこの近辺でた だ一軒だけ…の居酒屋だった。店を切り盛りしているのは、太ったオバちゃん。早速ジョナサンはオバちゃんに父の写真を見せてみるが、「見たことがない」と 素っ気ない。店の中にいるまばらな客たちに聞いても、誰も彼の父親を見ていないという。前途多難。
 ところがジョナサンがちょうど入って来た老人とぶつかってしまったことから、話は急展開する。落とした写真を老人と拾い集めていた時、その少々荒んだ印 象のアーミン・ピアスケという老人(ミヒャエル・カウシュ)はジョナサンが持参した写真に反応した。ただし、彼が反応したのは若い頃のジョナサンの父親… デイビス医師(ラルフ・リヒテンベルク)が軍医だった頃の写真だった。アーミンは、まだ若い頃のジョナサンの父親に会っていたのだ…。
 それは第二次大戦が終わってすぐの頃、アメリカ占領軍はこの辺鄙な村にもやって来た。あの若きデイビス医師もその一員である。早速、村の中の一軒の家を自分たちの事務所として接収。ちょうどそこに、アーミンがやって来たという訳だ。
 アーミンは戦争から復員して来たばかり。そして、米軍兵士たちが接収したのは彼の家だった。呆然としているアーミンだったが、彼が複雑な表情をしているのは自宅が接収されたせいではないようだ。米軍兵士たちが近くの谷を見に行こうとしているのを知って、アーミンは怯えた顔で思わず口走る。 
 「あそこは行かない方がいい」
 しかしながら、洋の東西を問わずそう言われると行きたくなるのが人情。重ねてアーミンが「まだ、“あれ”がいるはずだ」などとつぶやくものだから、ますます米兵たちは見に行きたくなる。結局、アーミンを道案内にして、谷を見に行くことになってしまった…。
 思わぬところから自分の父親のエピソードが出て来て、ジョナサンは驚く。当然のことながら、彼も「谷に何があるのか」を知りたくなった。居酒屋でビールを引っ掛けながら、老いたアーミンの話はさらに以前の出来事にさかのぼっていく…。
 それは、米兵が来た日から何年も前の夜のこと。村のすぐそばの谷に、轟音とまばゆい光を放って隕石が墜ちた。翌朝、村人たちを伴って科学者(ジョナス・フォン・リンゲン)たちがやって来るが、そこには湯気を立てた巨大なクレーターが出来ていた。
 科学者たちがクレーターの中に降りて行くと、そこには隕石とおぼしき岩石状のものが ある。だが、それはいまだに高熱を放っていた。発見したのは、この谷間で農場を営むネイハム・ガーテナー(エリック・ラステター)。だが彼に言わせると、 見つけた時にはもっと大きかったという。ともかく科学者たちは欠片を採取し、バケツに入れてその場を離れる。だが、科学者の助手がうっかりバケツの取っ手 に触れると、あまりの高熱に手を離してしまう。隕石の欠片でさえ高熱を保ち、バケツの底に穴が開いてしまうほどだ。その日はバケツと欠片をそのままにして 後で取りに行こうと考えていたが、それは徒労に終わった。次にその場に来た時に、欠片は影もカタチもなくなっていたからだ。
 その後、何度か欠片を採取して、研究室で分析する試みが行われた。それなりに分析結果も出たのだが、分かったのは「これが隕石であること、高熱を保ったままであること、いつの間にか消えてしまうこと」…だけ。採取した欠片も、必ずすぐになくなってしまう。研究の指揮にあたった某教授(フリードリッヒ・シューラ)も、サジを投げるしかなかった。
 一度は隕石を叩いているうちに中に何か球体のモノが見えて来たのだが、カメラで撮影しようとモタモタしているうちにそれすら消えてしまった。
 さらには嵐がやって来て、止んだ後には隕石そのものまでなくなってしまった。これで証拠はまったくなくなった。教授たちはこの件を学会で発表したが、当然のことながら相手にされる訳もない。こうしてこの出来事は、人々の記憶から遠ざかっていくことになったのだが…。
 そんなある日、ネイハムがアーミンの家に多くのカゴを持ってやって来る。これから梨の収穫に行くというのだが、どうも今年の梨はかなりの豊作ら しい。喜色満面なネイハムの様子を見て、アーミンも収穫について行くことにした。すると、その「豊作」ぶりは予想以上。何より「実」の大きさが桁違いだ。 どれもこれも、見た事もないほど大きな実を結んでいる。興奮したアーミンは、思わず手に取った梨の実にかぶりついた。すると…。
 「変な味が舌に残るな…」
 アーミンの表情を見て不安になったネイハムは、自分でも実にかぶりつく。その瞬間、彼はアーミンの言葉がいささか控えめなものであったことを知った。ひどい味である。とても売り物にはならない。それでもこれは梨だけのことだろうと思いきや、トマトなど他の作物も同様だった…。
 そのあたりから、ネイハムだけでなくガーテナーの一家が村の人々の前に姿を現さなくなった。村の他の人々も、例の隕石の一件もあってガーテナー家のことに自然と触れなくなった。ネイハムの妻の具合が悪くなったという噂も聞いていたが、誰もあえてそれに触れなかったのだ。
 ある日、村の店にネイハムの息子が買い物にやって来たとき、村の男たちがそれとなく様子を聞こうとはしていた。どうやらガーテナー家の周辺には奇妙なことが起きているようで、「変な光が見える」「風もないのに木の枝が揺れる」…といったことを目撃しているようなのだが、男たちもそれ以上は聞き出せないし、どうしてやることも出来ない。何となく忌まわしい雰囲気だけは感じ取れるので、ただ押し黙るばかりだ。
 ガーテナー家と親しくしていたアーミンは、それでも何とか付き合いを続けようとしていた。そんなある日、ガーテナー家の前までやって来たアーミンは、そ こで立ってぼんやりしているネイハムの妻(マラー・シュナイダー)の姿を見かけた。それはまるで踊りでも踊っているような…見えない何かに手を伸ばしてい るかのような格好で、左右にカラダをひねりながら立ち尽くす姿だった。そんな彼女に近づいて行ったアーミンは、その顔を見て唖然呆然となってしまう。
 その頭の上に、見たこともない巨大なハチがとまっているではないか。
 慌ててそれを採ろうとしたアーミンだったが、ガーテナーの妻はまったく気にしていない様子。どう見ても彼女はマトモではない。そんなこんなしているうちにハチにも逃げられてしまったアーミンは、そこで家の中からネイハムに呼び止められる。
 どうにもガーテナー家のことが気になって、様子を見にやって来たアーミン。だが、当のネイハムは「大丈夫」と言い張るばかり。こうなるとアーミンも納得するしかない。自分の目で見た「あれ」も、何かの目の錯覚のような気がして来た。
 こうして村の人々も徐々にガーテナー家を遠まきにして、触れないようにしていくばかり。そんな中でも、異変はどんどん深刻な状況を引き起こしていくのだった…!
 

ラブクラフト原作をドイツで映画化した異色作

 まず、今回の映画を見るにあたっての背景から語らなくてはならないだろう。
 この映画「宇宙からの色」は、現在までのところ2019年8月9日にたった1回だけ劇場で上映さ れている。そして、これが「日本初公開」…のはずである。僕の知る限りではテレビでもやっていないし、ビデオやDVDも国内発売はされていない。ネット配 信もないんじゃないだろうか。どうやら輸入もののDVD・ブルーレイには日本語字幕がついているようなので、それを見たらしき人のレビューはいくつかネッ トで散見できる。だが、一般的にはみんなの目に触れていない作品のはずだ。
 僕が見たのは「カナザワ映画祭」の一環として東京・池袋の新文芸座で行われていた「大怪談大会」における上映で…である。「カナザワ映画祭」といえば、僕が2014年にウィリアム・フリードキン恐怖の報酬(1977) の完全版を見に行った映画祭である。この時はわざわざ金沢まで遠征して見に行った訳で、まさかその「出店」みたいなのを東京でやることになるとは思ってい なかった。そこでいろいろ上映する中に本作があったので、イソイソと見に行った訳だ。何で「カナザワ映画祭」が東京でやることになったのか、金沢でやらな い「カナザワ映画祭」って何なのか、札幌のYOSAKOIやら高円寺阿波踊りみたいなモノなのか(笑)。そのあたりの事情はまったく分からない。しかも「大怪談大会」と来る。チラシも往年の新東宝映画みたいな感じで、いささか「狙い過ぎ」だ。それでもSF映画の珍品が上映されるとなれば、僕は見に行かない訳にいかない。
 さて、僕が本作を見たいと思った理由はただひとつ。本作がH・P・ラブクラフトの小説の映画化ら しいと分かったからだ。そうは言っても、僕はラブクラフトについて詳しいとは到底言い難い。名前は知っているけれど、それほど作品は知らない…類いの人で ある。だからここでも、「あの」ラブクラフト…などとは書かない。そういうことは詳しい人が山ほどいてウンチクを並べるだろうから、そういう人に任せた い。
 ただ、僕も一時期SFやホラーの小説を乱読していた時期があって、そこでこの人の作品にも少々触れたりもした。だから、今回本作が上映されると聞いて劇場に駆けつけた訳だ。案の定、劇場に来ていたのは少々「アレ」な感じのお客さんばかりだった(笑)が、それは想定内だ。
 情けないことに本作の原作はかなり有名らしいが、僕は残念ながら読んだことがない。だが、ドイツでラブクラフト原作を映画化というだけで興味がそそる。タイトルも「宇宙からの色」である。何だか分かったような分からないようなタイトル…。
 それにしても、ドイツのSF映画というのは僕もあまり見たことがない。そもそもヨーロッパのSF映画はアメリカ映画ほど見る機会がない。だから、本作には大いに注目してしまった。そのことだけでも、絶対に見なければ…と思った訳である。

  

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 


地味なモノクロながら、それを逆手にとった異色作

 そんな期待を抱いて見た本作は…というと、グッと渋いイメージのモノクロ映画であった。
 モノクロのSFホラー映画…というだけで、何とも言えない風情がある。しかも、どんよりした陰鬱な気分になってくる。ただし本作のモノクロは、たぶん本来は陰鬱気分の醸成やらクラシックなムードを醸し出すために選択されたフォーマットではなかったはずだ。実は「ある目的」のために本作はモノクロ映画になっているのである。そもそも、正確にはモノクロ映画ではないのだ。
 パート・カラーといえばお察しの方もいらっしゃるだろうが、つまりはタイトルにもなっている「宇宙からの色」を表現するために選択されたフォーマットなのである。
 その「色」の色合いから、何となく黒澤明「天国と地獄」(1963)でのパートカラー使用を連想させられる。そして、全編自然に囲まれた環境で進む物語の中では、何とも違和感がある色合いである。いかにも「毒」のある色合いなのだ。
 ただ、本作がモノクロであることは「色」の表現のためだったとは思うが、結果的に思わぬ効果を上げている。本来の目的ではなかったかもしれないが、本作のSFホラー的なイヤ〜な雰囲気の醸成に役立っているのは確かだ。かつてのアメリカのSFテレビシリーズ「アウター・リミッツ」(1963〜1965)にも似た、怖〜いどんよりムードなのだ。低予算なこともモノクロゆえに多少ごまかされて、かえって素朴な怖さになっているあたりもうまい作戦だ。
 とにかく物語が進んでいるうちに、何ともジンワリとイヤ〜な気分が迫って来るあたりの語り口がうまい。アッと驚くショック描写や残酷描写、派手なビジュ アルなどはまったくない。そういう意味では極めて地味な映画なのだが、ジワジワと生理的な嫌悪感や恐怖が押し寄せてくる。特に、親しかった隣人一家が徐々 に壊れていくあたりの描き方が怖い。
 イマドキだと、それこそ放射能やら環境汚染などのメタファーと見ることもできるネタ。最近見たポール・シュレイダー魂のゆくえ(2017)にも通じる題材と見れなくもない作品だ。だが、そんな屁理屈をこねなくても、十分その気色悪さだけでおつりが来る。結構、恐怖映画として本格派なのだ。
 予算的には低予算だろうしこぢんまりとした作品なのだが、シケた安っぽさはない。SFXなども最小限で、すごい映像が見られる訳でもない。ひたすら地味 である。むしろ、こぢんまりしているからこそ見る者に「効いてくる」ホラーなのである。出演している俳優にも知った顔はひとりもいないが、そのせいもあっ てひときわ怖い映画に仕上がっている。
 監督はフアン・ヴーなる人物。何となく名前からして怖そう(笑)だが、この見慣れない名前の監督はどうやらドイツ生まれドイツ育ちのベトナム人らしい。その出自も異色ながら、映画は筋金入りのキッチリしたSFホラーでビックリである。で、作品数はまだわずかながら、どうやらSFやファンタジーのジャンル専門の人らしい。非常に異色で有望な監督が出て来たものである。
 ジックリジワジワ型のテンポで進むお話だが、終盤にパパパッとフラッシュバック的に「真相」が語られる仕掛けがある。ただし、エンド・クレジットの背景には1950〜1960年代あたりのアメリカB級SF映画にありがちな「オチ」が入ってくるの がご愛嬌。元々がその手の映画がキライじゃない僕はそれも含めて楽しんだが、見る人によってはそれまでのジックリ型の演出とユニークな作品世界がそこだけ B級映画的な凡庸さになっちゃったような違和感を感じるかもしれない。このあたりは見る人の好み…ということになるだろうか。その点だけは「???」とな る部分もない訳ではないが、全編通じて大変オリジナリティ溢れる作品を作ったことだけは間違いない。
 ともかく、フアン・ヴー監督には引き続きユニークな作品を作り続けてもらいたいものである。

 


Die Farbe (The Color Out of Space)
(2010年・ドイツ)
スフェレントル・フィルムプロダクシォネン 制作
監督・脚本:フアン・ヴー
製作:フアン・ヴー、ペーター・ティリッシュ
製作総指揮:ヤン・ロス
出演:マルコ・ライブニッツ(若きアーミン・ピアスケ)、ミヒャエル・カウシュ(アーミン・ピアスケ)、エリック・ラステター(農夫ネイハム・ガーテ ナー)、インゴ・ハイス(ジョナサン・デイビス)、ラルフ・リヒテンベルク(若きデイビス医師)、マラー・シュナイダー(ネイハム・ガーテナーの妻)、フ リードリッヒ・シューラ(教授)、ジョナス・フォン・リンゲン(科学者)、パトリック・ピアース(老いたデイビス医師)、オラフ・クラッケ(ダンフォース 先生)、アレクサンダー・セバスチャン・クルド・シュステル(ウォード刑事)、セバスチャン・シェーファー(建設作業員)

2019年8月9日・東京池袋新文芸座「カナザワ映画祭2019・大怪談大会」にて鑑賞 


 

 

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