「すべての終わり」

  How It Ends

 (2019/02/18)



 それは、まるで遥か彼方の宇宙空間のような混沌。だが、そこには脈打つような力強い動きがあった。これぞ、まさに生命の小宇宙…。
 実際には、それは宇宙空間ではなかった。ある女性が産婦人科医の手でお腹にスキャナーを当てられて、エコー画像を診てもらっているところ。女性の名はサム(カット・グラハム)。その傍らで固唾をのんで見守っているのは、婚約者のウィル(テオ・ジェームズ)である。
 ここは西海岸の街シアトル。病院を出たウィルは、サムにその緊張ぶりを見透かされてしまう。ウィルはこれから仕事でシカゴに飛んで、そのついでにサムの 両親のもとへ赴くことになっていた。その際に、サムと結婚することを告げようというわけだ。だが、サムの父親トムはすこぶる付きの気難しさで、元からウィ ルはよく思われていなかった。過去に顔を合わせた時も、毎度のようにイヤな思いをしていたのだ。それでなくても気が重い。しかも今回は、すでにサムを妊娠 させている…ということも告げなくてはならない。そんな浮かない顔のウィルを、サムは「きっとうまくいく」と励まして送り出した。
 その日の夕方、ウィルはシカゴにいた。仕事の打ち合わせを終えて、一路、市内の高層マンションにあるサムの両親の家へ。サムの母親ポーラ(ニコール・ア リ・パーカー)は明るく迎えてくれたが、問題はやはり父親…。案の定、トム(フォレスト・ウィテカー)はおっかない顔をしてテレビの前に座っていた。
 海兵隊上がりの筋金入りであるトムは、いろいろな意味で威厳があり過ぎ。弁護士のウィルとは何から何まで対照的だ。そもそも話が合う訳がない。取り付く 島もない雰囲気に耐えかねたウィルはついついその場に置いてあったモーターボートの模型を話題にするが、それは触れてはいけない鬼門だった。実はウィルと トムとはかつてこのボートで一悶着あったのだが、ウィルはウッカリそれを忘れていた。そんな訳で、会って早々にますます気まずくなる二人であった。
 そんな緊張状態は、夕食時にますますエスカレート。トムはウィルの生活設計や収入のことなどで次々難癖をつけてくるので、さすがにウィルもキレた。サム が家を出たのはトムの束縛から逃れたかったからだとズバリ直言したので、その場の空気はたちまち氷点下。結局、ポーラが割って入って、その夜はお開き。散 々な結末となった。
 翌朝、空港に隣接するホテルのベッドにひっくり返っていたウィルは、スマホの着信音で目を覚ます。電話はサムからだった。昨夜の失敗にヤケ酒をあおった らしいウィルだが、サムに図星を言い当てられて渋い顔。しかも、寝坊したため飛行機の時間まであとわずか。慌ててサムと話しながら身支度をするウィル。
 だが、突然スマホの向こうで激しいノイズが聞こえて来るではないか。
 「どうした?」と尋ねると、サムは驚いた顔で「いきなり停電」と答える。さらにノイズが立て続けに聞こえて来て、サムは「何か変よ」と怯えきっている。さすがにこれは尋常ではないと気づいたウィルだったが、さらに激しいノイズとともに画面が乱れたあげく、ついに通話は切れてしまった。慌てて何度もサムを呼び出すが、まったく応答がない。
 しかたなくホテルを出て空港にやって来たウィルだが、搭乗口に着くや否やシアトル行きは遅延とのアナウンス。しかも、出発便の掲示板は次々とキャンセルを表示するではないか。慌てたウィルは空港ロビー内の軽食屋に入ってテレビを見ると、ニュースで「南カリフォルニアで大規模な地震が発生したらしい」と 報じている。停電のためかロサンゼルスはじめ西部との連絡も不通で、さらにヨーロッパでは突然の熱波で死亡者続出との報もある。だが、そのニュース自体が 途中で途切れるに至って、ウィルも事態の重大さを感じずにはいられない。空港を出たウィルは、タクシーで市内へと引き返す。行き先は、昨日行ったサムの両 親の家だ。
 停電でエレベーターも止まったマンションの階段を上がり、やっと例の部屋に到着。トムとポーラも状況を深刻に受け止め、避難の支度をしていたところだ。トムはウィルからサムとの通話の様子を聞き、さらに厳しい表情を見せる。そんな折りもおり、窓の外を2機のF-22戦闘機が凄まじいスピードで飛び去った。どう見ても普通の状況ではない。
 「空港に戻ります」と言うウィルに、トムは「現実を見つめろ」と即座に告げた。数時間前に西部で何かが起き、3200キロ離れたこの街まで停電、さらにF-22が出動…これで電力の回復など待っている場合か…。
 「クルマで行く! 一緒に来るか?」
 ポーラはクルマでひとり息子の家へ避難し、トムとウィルも別のクルマに乗り込んだ。ここからシアトルまで、長い旅路が始まったのだ。
 街中はどこも避難のクルマで大渋滞。もちろん電話は通じないし、GPSも使えない。とりあえず必要なモノを手に入れておこうと、ガソリンスタンドの駐車 場にクルマを停める二人。そこは、すでに多くの人々で騒然としていた。こんな非常事態でカードも使えず、すべて現金払いである。
 トムは必需品を調達するために店に行き、その間、ウィルがクルマにガソリンを給油する。すると、いささかお色気過剰な女が近づいて来て、ウィルに「乗せ てくれない?」と微笑みかけるではないか。そのキナ臭さ満点の女にウィルが「やめておくよ」と答えたとたん、「今何て言った?」と女は態度を急変。待って ましたとばかりにガラの悪いゴロツキ二人が、ウィルに近づいて来た。たちまち一触即発である。
 そこに割って入ったのが、戻って来たトムだ。連中の狙いはカネ。そんな連中に「カネならトランクにある」と告げて、さりげなくクルマのトランクを開く。すると…。
 トムは一瞬の隙を突いて、トランクから銃を取り出す。その銃でゴロツキどもを威嚇だ。慌てたゴロツキどもは、一目散に逃げ去るしかない。「行け、振り向くな! このチンピラどもが!」
 こうして再びクルマで出発したトムとウィルだが、車内の空気は一気に冷え込んだ。黙りこくるウィルにトムはつぶやく。「何か文句あるのか?」
 弁護士であるウィルは、銃など持ったこともない。そもそも必要がない。だからウィルは憮然として、そんな物騒なモノを持って来たトムに抗議する。だが、トムはそんなウィルの抗議を断固としてはねつけた。
 「クルマを奪われたらどうなる? そこでゲームオーバーなんだぞ!

 

タイトルでハッタリかませた終末SF

 先にオーソン・ウェルズの遺作風の向こうへ(2018)、宇宙人侵略ものSFエクスティンクション/地球奪還(2018)…の感想文でも述べたように、僕はネットフリックスの「お試し」加入で何本か見てみることにした。本作もそんな中の1本である。
 前にもグダグダ言ったので長々と繰り返すつもりはないが、僕はネットフリックスで劇場公開作品を見る気は毛頭なかった。一度見始めたら長く拘束されてしまうドラマ・シリーズも真っ平御免である。だから、見るとなったらネットフリックスのオリジナル作品だ。
 そもそも「お試し」をしてみようと思ったのも、オーソン・ウェルズの「風の向こうへ」が見たいがため。それ1本だけ見たらどうでも良かった。さすがにそれじゃもったいないので、あと何本か付き合いで見てみようかということになった訳だ。
 そうなると、やはり大好きなSF作品ということになる。幸か不幸か、ネットフリックスのオリジナル作品にはやたらとSF映画が多く、その大半が宇宙人侵略ものや終末ものっぽい作品である。ハッキリ言うと、レンタルビデオ屋にゴマンとあるジャンルである。
 しかし、この手のジャンルはほとんどがB級以下の作品と相場が決まっている。ガッカリするかって? …いやいや、僕はこのジャンルが大好物だ。愚作なら愚作で楽しめる。少なくとも、見ていて苦痛にはならないのだ。
 そんな訳で、「お試し」期間終了間際に僕が駆け込みで見た映画の1本が、この作品である。
 タイトルがスゴい。「すべての終わり」である。すべてが終わっちゃうのである。ローランド・エメリッヒだってここまで思い切ったタイトルは付けない(笑)。なまじっかな事ではここまでのタイトルは付けられないだろう。ならば、SF映画好きならこれは見なくてはいけない。
 しかし、そうなると一体なぜ「すべてが終わっちゃう」のだろうか。宇宙人の侵略か、偶発核戦争か、ゾンビの大発生か疫病か、太陽の異変か隕石の激突か地球の変動か、豪雨か寒波か熱風か、はたまた洪水か大地震か。あと、他にどんな理由があるだろう。
 ともかく平凡な日常が突如一変して、とてつもない異変が襲って来たら僕は大喜びだ。そして、文明が崩れ去った後の廃墟が見たい。それこそが僕の見たいものだ。「すべての終わり」とハッタリかましたタイトルを付けているんだから、相当なモノは見せてくれるに違いない。
 本作を選んだ理由のひとつは、主演者のひとりがフォレスト・ウィテカーであるということだ。それなりの俳優が出演している。そうそうハンパなことはして いないだろうという予想がつく。ただ、このウィテカーという人はやたらに脇に回った作品が多いので、それほど「品質保証」にはならない(笑)。それでも、 「馴染みの顔」が一人でも入れば、とりあえず最後まで飽きずに見れるだろうという訳である。

安定安心の「王道」パターンは設定されているのだが

 そんな大した期待もなしに見た本作、全体はほぼ2時間弱の長さだが、前述のストーリー展開の終わりで20分程度が経過。上記のストーリー紹介は、まだ映画の「さわり」の部分でしかない。
 この後はご想像の通り、ウマの合わない舅と婿がツラ付き合わせてのアメリカ横断地獄巡り。終末SFの味付けで見せるロード・ムービーだ。当然、お楽しみは道中で見せる異常な状況と、目的地に着いて判明する「異変」の正体である。
 本作では、「異変」の正体が分からない状態でドラマがスタートする。異変と同時に通信が途絶え、停電が起きる。アメリカ西部に何が起きたか分からない状 態で、愛する婚約者のいるシアトルへの主人公の旅が始まる。だから、本作をロード・ムービーの形式で作ったのは、ドラマの設定としてはうまい発想だ。目的 地に近づくにつれて、ナゾが少しずつ解けていくに違いない。主人公たちと共に、僕ら観客もまた「異変」の正体について理解していく…というドラマ構成のは ずだからだ。
 また、登場人物がウマの合わない舅と婿…というのもなかなかいい設定だ。いがみ合っている二人の男が、地獄巡りのような異常な状況に放り込まれるのであ る。下手をすれば二人の間に一触即発の状況が生まれるかもしれない。また、いがみ合う二人が困難を乗り越えて和解へ…という、ハリウッド映画の「王道」パ ターンに持っていくこともできる。どうやったって面白くなるパターンだ。おそらく劇中で海兵隊上がりの舅が圧倒的なサバイバル・スキルを発揮して婿が尊敬 の念を持つだろうし、婿もまた困難を乗り越えて逞しく成長できるだろう。そして和解…である。
 あとは、クルマが目的地に近づくにつれて見えてくる「異変」の度合いである。そこでSF的に「いい絵」を見せてくれればオッケー。スケールの大きなカタストロフ…それさえ見せてくれれば文句は言わない。このジャンルの映画はそういうものだからである。
 しかし、残念ながら本作はそんな展開にはならない。むろん、欲得にかられる暴徒やら自警組織やら、終末ものジャンル・ムービーにありがちな要素は散りば めてある。その上で、ロード・ムービーなどの前述した「王道」パターンも設定されている。にも関わらず、本作はそれらをあまり活かせていないのである。

  

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 


無理があり、無駄が多すぎなドラマ展開

 冒頭はストーリー紹介を読んでいただければお分かりのように、なかなかいい感じである。
 婚約者と電話で話している途中で異常な現象が起きたあげく、通話が突然中断される。空港に行けば、どんどんフライトがキャンセルされる。テレビでは異変 の断片的情報をニュースで流していたが、それすらも中断。街は停電して、上空には戦闘機が飛んで行く…。大いに空前の大パニックを予想させる滑り出しであ る。そこまでは婿舅のヒリついたやりとりを見せられてちょっと気が滅入っていたので、見ているこちらとしては大いに気分がアガる。よしよし、どれほどスゴ いことが起きたんだ? 早くその全貌を見てみたい!
 だが、それも先ほどの冒頭部分まで。映画が始まって20〜30分で、そんなワクワク感は沈滞してしまう
 まず、当初に期待されていたようには、舅トムのサバイバル・スキルは発揮されない。せっかく舅が元海兵隊員という設定にしてありながら、それはほとんど 活かされない。始まってすぐの時点でクルマで事故ってしまい、トムがあばら骨を折る大ケガをしてしまうからだ。そのため、徐々に半病人みたいな状態になっ て大活躍とはいかなくなる。結果、トムが元海兵隊員としての凄腕を見せる場面はなくなり、インテリ対マッチョという対立軸がボヤけてしまって、いがみ合う 二人のロード・ムービー感が薄れてしまった。これは本作のドラマ展開をかなり弱くしていると思う。
 そのためか、本作では途中で新顔を道中に加えることになる。先住民居留地で出会った、リッキー(グレイス・
ドーヴ)という若い娘がそれだ。クルマの調 子を見てもらえるエンジニアとしての彼女の腕が欲しい舅婿の二人と、西海岸に行きたい彼女の希望とが一致。リッキーは二人の旅に同行することになる訳だ が、正直言って彼女がここに参加する必然性はそれほどない。これが本作の最大の疑問点だ。
 なぜか分からないが作り手は話がもたないと思ったらしく…すべてはトムが途中で半病人になってしまうが故の苦肉の策とも思えるのだが、だったらなぜそん な展開にしたのか…と理解に苦しんでしまう。おまけに、このリッキーという娘がドラマ的にもほとんど活躍しない。二人と一緒に行動している期間も短く、唐 突にキレていなくなってしまうというムチャクチャな設定である。その後、これが何かの伏線になるということもなく、彼女も二度と登場しない。なぜこの娘を 物語に登場させたのか、訳が分からない。ただただ、後味が悪くなるだけである。
 後味が悪くなると言えば、婿のウィルの不注意で通りがかりのクルマを事故らせたあげく、そのクルマに乗っていた人たちを負傷させたまま置き去り…とか、 イヤ〜な気分になるエピソードが多い。確かに「世も末」な状況を見せたいからだろうとは思うが、主人公の過失で無駄に命が失われるというのはいかがなもの か。この事故のエピソードが胸くそ悪いだけに、その後にガソリン泥棒に遭って深追いしたあげくその泥棒を殺すことになったところで、前のエピソードほどイ ヤな気分にならない。むしろ当然の報復だという気持ちになる。だから、このガソリン泥棒のエピソードでリッキーが嫌気がさして去って行くというのがピンと 来ない。嫌気がさすというなら、その前のもっとひどいエピソードの時に去るべきだろうという気持ちになってしまうのである。
 リッキーが去った後は、また舅婿の二人きりとなる。ついには二人が和解してクルマの中で笑い合うという一幕もあるのだが、そこまでのやりとりが不完全燃 焼なために思ったほど盛り上がらない。一番いい場面なはずなのに、完全に不発なのだ。しかも和解したと思ったらすぐにトムが死んでしまうので、ますます気 勢が上がらない。
 だが、そこまでのドラマ部分の不備は、まだマシな方かもしれない。一番マズいのは終盤にシアトルに着いた後、ウィルが婚約者サムと再会してからだ。サム は隣人の男に助けてもらい、郊外にある別荘で匿ってもらっていた。ところがこの隣人の男、一連の「異変」について陰謀論まがいの自説を唱えていて、どうも ウィルには胡散臭く思える。おまけに、どうもサムに横恋慕しているらしいと来る。そんなこんなで不信感を募らせたウィルがこの隣人と二人きりになると、案 の定この男はウィルに襲いかかるではないか。しかし、いまやサバイバル・スキルを上げたウィルの敵ではなく、あっという間に返り討ちにされてしまう。
 このあたりの説明を読んでいただければお分かりの通り、どうもこのお話の運び方は強引である。結果的にこの隣人の男が馬脚を現したから「悪人」として片 付けられているが、ちょっとばかり「陰謀論」を唱えたからといってウィルが異様に敵視し始めるのが見ていて違和感バリバリ。見ている側としてはそこまで嫌 わなくてもいいんじゃないの…という気分になる。まぁ、内心では「おかしな奴」と思っていても、婚約者を助けてもらっておいて、その場でズケズケ指摘する 必要はないだろう。それは日本的な「空気読む文化」であちらは違うと言われるかもしれないが、もしそれがアメリカ流というなら馬鹿げているとしか言いよう がない。そこでわざわざ反論するメリットがどこにもない。婚約者の前でいいカッコしたかっただけにしか見えないのだ。
 そもそも…後述するが「異変」の正体だってハッキリしないのだから「陰謀論」のひとつも唱えたくなるし、それが間違っているかどうかだってウィルが云々 できるものじゃないだろう。結局、自分の婚約者がこの隣人とずっと二人きりでいた…ということに嫉妬しているようにしか見えない。物語上では隣人が先に手 を出したのでウィルが片付けた…正当防衛であるという話になってはいるが、その場にいないサムの身になってみればどっちが悪いか分かったものではない。む しろ観客の僕にしてみても、ハッキリ正当防衛の場面を見せられているにも関わらず、ウィルに都合いいバージョンを見せられているだけ…のような気がしてし まう。非常に不自然だし収まりが悪い場面なのだ。
 しかも、隣人殺しの直後に非常に都合よく大変動が起こって、その場を慌ただしく退散することになる。だから、余計に「ドサクサ紛れ」の印象が強いのだ。これってどう見てもウィルの方がおかしいんじゃないの?
 それを言ったら、大体がこの隣人絡みの場面ってすべて必要だったのか…という気分になってしまう。まるっきりナシでも問題なかった…いや、まるっきりな い方がよかったとはいえないだろうか。元海兵隊の舅トムと一緒にいたり困難に遭遇したりすることでウィルが成長したというより、心の狭いインテリが変に銃 を振り回すことを覚えただけ…という印象にしかならないのだ。
 そんな訳で、お話の設定やら展開やらに不自然で無理な部分、無駄な部分が多過ぎる。だから見ているこちらとしては、どうしてこうなっちゃうんだろう…と首をかしげざるを得ないのである。

「異変」の状況ぐらいは知らせて欲しい

 そんな訳でケチをつけまくった本作のドラマ展開ではあるが、実は本作にはもっと困った点がある。肝心要、この手の作品で一番のキモの部分である「異変」の描き方だ。こちらの方が問題は遥かに大きい。
 前述したように、本作では「異変」がどんなものだったのか…が、しかとは描かれない。冒頭の空港場面のニュースでチラチラと語られたり、街が停電になっ たり携帯がつながらなくなったり、婚約者両親の住むマンションの窓から戦闘機が飛んで行く様子が見えるだけ。そのニュースで語られているのも不確かな情報 で、カリフォルニアで大地震が起きた「らしい」とかヨーロッパで熱波が発生した…という話が語られるのみで何ら確証はない。カリフォルニアで大地震が起き たからといってシカゴまで停電になるのか、ましてヨーロッパが熱波に襲われるか? 
 後は道中の途中で無線でのウワサ話(どこかから攻撃された可能性を云々したりする)を傍受したり、遠くで軍用機が墜落する様子や妙な雲が発生しているのが見えたり…。軍が出動しているのに、何ら正式発 表がない。無政府状態ということなのだろうか。シアトルに近づいた頃に火山灰らしきものが降ってくるが、道路には渋滞したクルマの列が残され、車内にいる 人々はみんな死んでいる。死体は損壊の痕などは見られないので、一体何で死んだのかは分からない。ナゾである。シアトルは完全に壊滅して廃墟となってお り、人っ子ひとりいないというのも不自然である。
 普通に考えると地震か噴火ということになるのだろう。カリフォルニアには有名なサンアンドレアス断層があり、何か起きてもおかしくはない。カリフォル ニア・ダウン(2015)みたいな映画もある。だが、それだとヨーロッパで熱波…みたいな話がよく分からなくなる。映画の中の話を厳密に突き詰めても しょうがないと言えばその通りだが、それにしたって分からなすぎなのだ。これって2012(2009)みたいな状況なんだろうか。
 別に「異変」の理由が分からなくてもいいのかもしれないが、それにしたって「首都消失」(1987)じゃあるまいし、どういう状況になっているかぐらい はちゃんと観客に知らせて欲しいものだ。確かに何も「インデペンデンス・デイ」(1996)みたいに世界中の状況を中継みたいにして逐一見せる必要はない。だが、最 後まで何が何だか分からないというのではこの手の映画としてはさすがに不親切だろう。
 実際に「異変」に直面した場合、その場にいる人々にとっては身の回りしか分からないのだから、ナゾまたナゾになるのは分からないでもない。リアリティか らいえば、確かにその通りだ。個人的なミクロな視点から、大災害や災厄を描こうとした…のならば、こういうスタイルになるというのも分かる。
 しかしこちらはそんな状況で、ずっとシアトルまで付き合わされているのである。せめて目的地に着いたら、「それが何なのか」をある程度は教えてもらえな いと困る。それが起きた理由などはどうでもいいから、「異変」のど真ん中で何が起きたのかを見せてもらえないとスッキリしない。
 そもそも「異変」の状況をじっくり見たいこちらの気持ちに、この映画は応えてくれない。先に挙げた空港の場面…出発便の掲示板で次々キャンセルが出て行 くあたりやニュース映像など…みたいな要素がもっと見たい。被害状況にしたって、死に絶えた道路に灰が積もっている描写ぐらい。あとは、シアトル市街の廃 墟を遠景のマットペインティング(あるいはCG?)と小規模のセットで見せているだけだ。正直言って食い足りない。
 それもこれも、やはり予算がないということなのだろう。だからドラマの中心をロード・ムービーの部分に持ってきた訳だ。それなら大してカネはかからな い。最初の脚本段階から、これは低予算の終末SFという企画だったのだ。大物役者はほぼフォレスト・ウィテカーだけ。それもドラマの中盤で退場してしま う。実質上の主演であるテオ・ジェームズダイバージェント(2014)に出ていた若手俳優だが、やはりそれではキャスティングが弱体なのは否めな い。本作は、そもそもそんな規模の映画なのである。
 しかしそれにしたって…低予算だろうが何だろうが、どんな「異変」が起きたのかぐらいはちゃんと知らせてもらえないとやりきれない。カネがなくたって、描く方法はいくらでもあるだろう。
 本作は西部から全速力で逃げて来たウィルとサムのクルマが後方から迫ってくる大規模な火砕流(?)をやり過ごし、何とか逃げ切ったところで幕…となる。 これが果たして火砕流なのか何なのか…ということも問題だが、あまりにも唐突で素っ気ない幕切れで、一応サムを救出するという目的は果たしたはずなのにな ぜかその「達成感」みたいなものも感じられない。見ているこちらとしてはシアトルまでの道中に延々付き合わされたのに、いきなり閉め出されたような宙ぶら りんな気分になる
 ネット上での本作の評判を見てみたら案の定ボロクソだったが、その最大の理由はこのブツッとスイッチを切ったみたいな素っ気ない幕切れ のせいだろう。「あれっ、ホントにこれで終わり?」と思わず声に出して言ってしまいそうな、唖然とするエンディングなのである。
 ネットフリックス・オリジナル映画に期待した僕が馬鹿なのかもしれないが、完全にタイトル負けの作品。ここは「すべての終わり」というより、「それを言っちゃあオシマイよ」とでも言うべきなのだろうか。

 


How It Ends
(2018年・アメリカ、カナダ)
シエラ・ピクチャーズ、ポール・シフ・プロダクションズ 制作
監督:デイビッド・M・ローゼンタル
製作:ケリー・マコーミック、パトリック・ニュウォール、ポール・シフ、タイ・ダンカン
製作総指揮:ニック・メイヤー、マーク・シェイバーグ、ブルックス・マクラーレン、イアン・ディマーマン、ダニエル・ベッカーマン
脚本:ブルックス・マクラーレン
出演:テオ・ジェームズ(ウィル)、フォレスト・ウィテカー(トム)、カット・グレアム(サム)、ニコール・アリ・パーカー(ポーラ)、グレイス・ドーヴ(リッキー)、マーク・オブライエン(ジェレマイア)、ケリー・ビシェ(メグ)

2019年1月29日・Netflixにて鑑賞


 

 

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