「水爆と深海の怪物」

  It Came from beneath the Sea

 (2003/12/29)


 人類は原子力の力を借りて、それまで不可能だった領域に次々と足を踏み入れるようになった。技術と英知の結晶・原子力潜水艦もその一つ。だが、それを持ってしても解決できない巨大な謎もいまだにあった。それは…。

 太平洋上を航行するアメリカ海軍の最新鋭原子力潜水艦。今回の航海はその試運転。いかなる作戦も任務も帯びずにひたすら海を行く航海は平穏そのもの。艦長のケネス・トビーは乗員の士気の緩みを気にしながらも、自らこの気楽な旅を楽しんでもいた。

 ところがそんな平穏を打ち破る事件が起きた。

 何者かが物凄いスピードで、この原潜を追いかけて来たのだ。ソナーで見てもレーダーでも、その姿は何らかの乗り物には見えない。クジラか何らかの生き物かと思っても、それはあまりに巨大だ。しかもスピードはどんどん増していく一方。最初は不思議がるだけのクルーだったが、だんだん笑ってる場合ではなくなってきた。

 その物体があまりに近づいてきたため、原潜を海底に潜行させて一気に振り切ることにする。だが、それでも一向に両者の距離は広がらない。むしろ近づく一方だ。

 そして、その物体は原潜を捕らえた。

 エンジンをフルパワーにしても、原潜はまったく進まない。舵をどんなに動かそうとしても、まるっきり身動き一つ出来ない。これは一体何者なのか?

 しかも突然艦内に高い放射能が検出される。一旦は原子炉から放射能漏れかと騒然となるが、どこも漏れた形跡はない。どうやら高い放射能は、原潜を捕らえた物体のもののようだ。

 結局機転を利かせて急浮上をかけると、その物体はようやく原潜を放した。こうして難を逃れた原潜は、なんとか再び海面に浮かび上がる事が出来たわけだ。

 こうして原潜は何とか急場を逃れた。トラブルが一段落してからダイバーが原潜の舵を調べると、そこには何やら奇妙な「モノ」が挟まっているようだ。

 こうして奇妙な事件で初航海を締めくくった原潜は、ハワイの母港に帰還してトラブルの原因を調べる事となった。

 舵に挟まっていた奇妙な「モノ」…それは海軍の施設内で入念に調べられる事になった。それはどうも生き物の一部分らしいと判断されたことから、海洋生物の専門家二人が急遽海軍施設に呼び寄せられる事になった。一人はこの道の権威とされるドナルド・カーティス博士、もう一人はやはりカーティス博士に劣らぬ大家のフェイス・ドマーグ博士だ。ことに後者のドマーグ博士は、そんな高名な科学者とは思えぬほどの美女。これには迎えたトビー艦長も気にならざるを得ない。大学の予算取りがあるので帰らねば…と立ち去ろうとしたドマーグ博士をトビー艦長は無理ヤリとどめたのは、果たしてこの「モノ」の研究に彼女が必要だったからか、それとも男としてのスケベ根性が働いたからだろうか。

 こうして来る日も来る日も「モノ」の研究が行われるが、二人の科学者が不眠不休で働いても正体は見えない。こうなるとド素人のトビー艦長も部屋の片隅で居眠りをするしかない。たまにドマーグ博士を休ませなければ…などと言いながら、連れ出しては慣れ慣れしく話しかけるトビー艦長は少々職権乱用の度が過ぎやしないか?

 それでも研究者同士という事もあって、ドマーグ博士とカーティス博士の親しさが目立つ。これにはトビー艦長致し方ないとは言え内心穏やかではない。ましてこの研究が早々に済めば、二人でエジプトに研究の旅に出ると聞いて、トビー艦長またしても勝手に焼き餅を焼くアリサマだ。

 それでも何とか例の「モノ」の結論が出た。海軍のお歴々を呼んできての結論発表は、しかし素人にはあまりに意外なものとなった。何と例の「モノ」はタコの一部だと言うのだ。それもとてつもなく巨大なタコ。そんな巨大なタコが、深い深海に生息していたのだ。それが水爆実験のせいで放射能を帯びた。その放射能のおかげでエサとしていた魚が捕らえられなくなり、飢えた巨大タコが住み慣れた深海を離れて出没したと言う。

 確かに最近、日本の漁船団が行方不明になったり、太平洋で奇怪な事件が続発してはいた。だが、そうは言っても巨大タコの仕業と来れば、海軍のお歴々はまるでピンと来ない。結局科学者二人の必死の研究は相手にされず、体よく追い返される事になったから憤懣やるかたない。

 だが、それは決して絵空事ではなかった。

 時を同じくして太平洋上で、貨物船が巨大タコの餌食となっていたのだ。乗組員の何人かは辛くも救命ボートで脱出したが、ほとんどは海の藻屑かタコのエサとなっていた。

 その頃レストランでは、トビー艦長がカーティス博士とドマーグ博士の送別会をささやかに催していた。これが終わればドマーグ博士はカーティス博士と去ってしまう。そう思うといても立ってもいられないトビー艦長は、これが最後のチャンスとばかりにドマーグ博士に迫りに迫る。ダンスの相手をさせるわ、隅に引っ張っていってキスするわ。思いの丈をブチまける。だがドマーグ博士もまんざらでもないようだ。これでこの女のハートはイタダキ…と思いきや、ちょっとした行き違いから気まずい雰囲気になるトビー艦長とドマーグ博士。もはやこれまで…とトビー艦長が立ち去ろうとした時、運命のいたずらはトビー艦長に味方したと言ったら不謹慎だろうか。例の貨物船遭難の連絡が入って来て、博士二人はまたしても足止めとなった。

 助かった貨物船の乗組員は、軍の病院で「巨大なモノ」を目撃した…と証言する。だがそんな話をマトモに受け取れない医師たちに精神異常扱いされたおかげで、みんなその事実を隠してしまった。ここで一役買ったのがドマーグ博士。彼女は女の色仕掛けをフルに使って、この乗組員から本音を聞きだしたのだ。

 「あれは巨大なタコだった!」

 この証言ですべてが変わった。海軍もタコ対策に本腰を入れた。海軍の特殊訓練と称して太平洋上を封鎖。艦船や飛行機を総動員して、タコの捜索に当たった。だがタコの姿は一向に現れない。そんな中で伝わって来た別の船の遭難報告を調べに、とりあえずカーティス博士は飛んでいった。そしてアメリカの海辺で魚の漁獲高が激減したという知らせに、今度はドマーグ博士が調査に乗り出した。トビー艦長がまたしてもうまい事言ってこれに同行したのは言うまでもない。

 問題の浜辺では、クルマに乗った一家が行方不明になっていた。地元の保安官に連れられて駆けつけてみると、その一家のクルマは砂浜に放り出されているではないか。しかも近くの砂浜には巨大な跡が…これはタコの吸盤の跡ではないか!

 知らせを聞いてカーティス博士が駆けつけると、けしからんことに調査と称してトビー艦長とドマーグ博士が水着でイチャついていたが、それはまぁいい。そんな彼らの目の前で、保安官が例の巨大タコに襲われたからたまらない。たちまち海岸線は厳戒態勢だ。

 こうして必死の捜索活動が行われる中で、海軍でも迎撃体勢が整ってきた。特に危ないとされたサンフランシスコ湾では、湾内にタコが入って来ないようにゴールデン・ゲート・ブリッジに防護ネットが張られた。このネットには電流が流れるから、さすがにタコも入っては来れまい。

 案の定、タコはサンフランシスコ湾に現れた。ネットで行く手を阻まれたタコは、ゴールデン・ゲート・ブリッジに絡みつく。それを迎え討とうと橋の上にやって来たカーティス博士がタコに襲われ、トビー艦長の活躍で何とか事なきを得たりと、もうてんやわんや。結局タコは橋を乗り越え、湾内に入り込んでしまった。

 さて、どこに現れるのか?

 人々が逃げまどい殺到したフェリー乗り場に、事もあろうにタコが出現した。食指を伸ばして次々と人々を餌食にするタコ。やがて食指は市内の奥深くへと伸びて行くではないか。

 風光明媚なサンフランシスコの街は、このおぞましい巨大タコに屈するしかないのか?

 

 俗に映画は監督のものだと言われる。キューブリック作品、コッポラ作品などと言われるのはそのせいだ。だがアメリカ映画の場合、それはプロデューサーのものと言われる事もしばしばだ。今で言うならジェリー・ブラッカイマーなどその典型だろう。昔のパニック映画で有名なアーウィン・アレンなどもそうだよね。

 あとはトム・クルーズなどのスターがそれと言われればそうだ。ウディ・アレンやクリント・イーストウッドなどもそうだが、こうしたスターは得てしてプロデューサーや監督を兼任している事が多いね。

 それ以外で「〜の作品」と言われる事があるとすれば、ごく希に脚本家が作者を代表する事もある。「グッバイガール」などを手がけたニール・サイモンなんかがそうだが、これは本当にめったにない。

 ましてそれ以外の職種のスタッフが映画を代表するなんて、まずは聞いた事がない。だから特撮マンとして「ハリーハウゼン映画」の作者と呼ばれるようになったレイ・ハリーハウゼンがいかに偉大な存在か、それだけでもお分かりいただけると思う。

 ハリーハウゼンは「キング・コング」(1933)の特撮を担当したウィリス・オブライエンのお弟子に相当する人。その特撮の真髄は、師匠譲りのストップモーション・アニメだ。ハリーハウゼン映画の特撮は後に「ダイナメーション」と称されるようになったが、それはすべて怪獣や神話伝説の生き物、そしてガイコツ軍団などが人形アニメで生き生きと動き出すシロモノ。いまやこれらの技術はCGの発達で過去のものとなったが、「ジュラシック・パーク」の登場まではストップモーション・アニメの独壇場だった。

 その「ダイナメーション」が売り物の「ハリーハウゼン映画」は、すべて彼とチャールズ・H・シニアというプロデューサーが手を組んで生み出されたもの。「シンドバッド」シリーズや「タイタンの戦い」でみなさまお馴染みの事と思う。で、この「水爆と深海の怪物」はこのハリーハウゼンとチャールズ・H・シニアが初めて手を組んだ記念碑的作品でもある。

 で、映画そのものだけど、1950年代という時代を反映してまたしても水爆実験が怪獣登場の引き金になっている。ただ、放射能で巨大化したんじゃないのが新味と言えば新味か。

 謎の怪獣と言っても正体を引っ張るだけ引っ張るほどのモノじゃない。さっさとタコと明かせばいいものをと思ってしまうんだが、やっぱりもったいつけるのが怪獣映画の王道なんだろう。で、ここでのハリーハウゼン特撮の出番は、実は意外なほど大人しい。もっと全面に出て大ダコが大暴れするかと思えば、結構控えめにしか出てこないから、往年のハリーハウゼン映画を連想すると肩すかしをくうかもしれない。

 それでも僕は、大ダコがサンフランシスコ市内深くにまで足を伸ばしてくる(文字通り足を伸ばしてる!)とは思ってなかったから、ちょっと驚いたし嬉しかった。ゴールデン・ゲート・ブリッジに絡みつくタコの足…という絵は有名でよく見ていたが、結局それどまりだと思っていたんだよね。だからタコがちょっぷりだけど建物を壊したりしてくれて、僕としては楽しく見られたよ。この映画の大ダコは予算の関係で6本足だ…というのは有名な話で、それが確認出来たのも個人的には嬉しかった。

 ただお話はかなり笑っちゃうシロモノだ。

 とにかくストーリーの中心が、女学者を巡る原潜艦長と男性科学者の恋のさや当てになってるのがオカシイ。ただし科学者の方はどこまでその気か分からなくて、どっちかというと原潜艦長が一人で熱くなってるからオカシサもひとしお。まぁ、女も女で色目使ったりしてかなり変だし、演じる女優さんも噴飯モノの演技なんで、マトモに語るのもどうかと思っちゃうんだけどね。でも大ダコの脅威が迫っているのに、軍人としてこんな事してていいのか…と思っちゃうほど、大事件をいいことにして原潜艦長が女学者に迫りまくるのだ(笑)。

 実際の話、これほどリメイク流行りの昨今のハリウッドならば、この映画を今こそ再映画化してはどうかと思う。それもガラッと趣向を変えてラブ・コメディとして。原潜艦長=マシュー・マコノヒー、男性科学者=ヒュー・グラント、女学者=ジュリア・ロバーツ…てなメンツでやったら結構笑えるんじゃないか。そんな事を大マジで考えたくなるほど、この映画の男女のやりとりへの偏重ぶりはバランスを崩してるし、かなりオカシイのだ。

 そもそも人も結構死んでいるし、サンフランシスコ市が危険にさらされている。海軍も全軍挙げて解決に乗り出しているその最中だ。あぁそれなのに…そんな事お構いなしで女のケツを夢中になって追いかけ回す原潜艦長は、ハッキリ言って便乗だし不謹慎だし職権乱用もいいとこ。アメリカ軍人ってこれでいいのかねぇ。

 もっとも外国に攻め込んで勇ましいところ見せようとするよりは、このナンパぶりの方がナンボか好ましい。そういう意味では冷戦下とは言え、アメリカ軍にも余裕があったいい時代だったのかもしれないね。

 


It Came from beneath the Sea

(1955年・アメリカ) コロンビア映画 製作

監督:ロバート・ゴードン

製作:チャールズ・H・シニア

脚本:ジョージ・ワーシング・イエーツ

特殊効果:レイ・ハリーハウゼン

出演:ケネス・トビー、フェース・ドマーグ、ドナルド・カーティス、イアン・キース、ディーン・マドックス・ジュニア、チャック・グリフィス、ハリー・ラフター、リチャード・W・ピーターソン

2003年12月21日・DVDにて鑑賞


 

 

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