「ロスト・ワールド」(1925年版)

  The Lost World

 (2003/03/24)


 ここはロンドンのとある新聞社。今まさに社屋ビルの一室では、お偉いさんが今一番ホットなネタについて語り合っている。

 著名な科学者チャレンジャー教授が、事もあろうに「恐竜生存説」を打ち出したのだ。

 この新聞社ではこのチャレンジャー教授の「新説」をさんざコキ下ろし、思いっきり笑い者にしていた。そのため取材に行った記者が、何人かチャレンジャー教授に襲われケガをしている。このチャレンジャー教授、打ち出す学説も型破りなら、その言動も八方破れな怪人物だったのだ。

 そこにやって来たのが新人記者のマローン。彼は編集長に、チャレンジャー教授への取材を直訴していたのだ。まだペーペーのマローン。彼は婚約者の手前いいとこを見せる必要に迫られていた。そこで「危険」なチャレンジャー教授への取材に挑戦したがっていたのだ。

 とはいえこのマローン、いささかオッチョコチョイでドジ踏むばかり。それでも社のお偉いサンたちは、他に志願者がいなかったこともあって、マローンに取材を命ずることになった。ついては、まずチャレンジャー教授の講演会に潜り込め!

 教授の講演会場は多くの野次馬で賑わっていた。だが、記者は立ち入り禁止。一体どうやって中に潜り込むのか。

 するとマローンはそこに旧知の顔を見つけた。無類の冒険家として知られる紳士、サー・ジョン・ロクストン卿だ。ロクストン卿も教授の説に興味を示し、冒険家の血が騒いだのか。

 「何で高名な科学者の教授が、こんな自分の名を汚すような事を言うんでしょうね」と、単純素朴なマローンはつぶやくが、世界をまたに駆けて冒険を続けてきたロクストン卿の意見はちょっと違っていた。

 「この世にはとんでもない秘境がまだまだある。そこでは何があるか分からんよ」

 さて講演会は始まった。しかし案の定、教授の説をバカにした聴衆がヤジを飛ばして、怒号渦巻く大騒ぎだ。現れたチャレンジャー教授は、髪を逆立てアゴヒゲがモジャモジャの貫禄十分な人物。いきなりのハイ・テンションで、自説を堂々とまくし立てた。

 「そんなに疑うなら、わしの探検にぜひ参加していただきたい!」

 これに真っ先に名乗りを上げたのは、学会を代表してチャレンジャー教授に意義を唱えるサマリー教授だった。「あんたのペテンを暴き立ててやる」

 だが、この名乗りにチャレンジャー教授はご機嫌だ。科学者の参加があるとは上等ではないか。

 さらに名乗りを上げたのは冒険家のロクストン卿。そしてこれを見ていたマローンも黙ってはいなかった。「僕も連れて行ってください!」

 「連れて行かんでもないが…君は一体誰だ?」

 「僕は新聞記者で…」

 …とマローンが言い終わる前に、烈火のごとく怒ったチャレンジャー教授は壇上から駆け下りて、マローンに掴みかからんと大興奮。天敵の新聞記者と聞いては、チャレンジャー教授も放ってはおけない。慌ててマローンは会場から逃げ出し、講演会は大混乱に陥った。

 ひとまずこの一幕で講演はお開き。疲れ切ったチャレンジャー教授は、タクシーで自宅に帰った。だが、その後を、あのマローンがつけていたのは言うまでもない。自宅を突き止めたマローンは、窓からチャレンジャー教授の家に忍び込んだ。

 だが、運悪くすぐに教授に見つかるマローン。今度は逃げ切れない。マローンに掴みかかったチャレンジャー教授は大暴れ。二人してもつれ合ったまま、もんどり打って外の通りに転がり出た。

 そこに通りかかった警官が、もつれ合う二人を引き離す。教授の度重なるご乱行に慣れきっていたのか、警官はマローンを心配して一方的に尋ねる。「教授を訴えるか?」

 だがマローンはそうしなかった。忍び込んだ自分も悪い…と否を認めたのだ。このフェアな態度に思わず相手を見直すチャレンジャー教授。彼は「探検の話がしたい」と言うマローンを連れて、改めて彼を家の中に迎え入れた。

 そこにやって来たのはロクストン卿だ。彼もチャレンジャー教授とはいろいろ意見交換していたのか。さらに現れたのが可憐な美女ポーラ・ホワイト。そして教授の口から飛び出した話は、マローンの好奇心をくすぐるに十分だった。

 このホワイト嬢の父親は科学者で、南米の某所を探検していた。彼女も父親の助手として探検に参加していたが、めざす奇妙な台地を前にして父親と離ればなれになった。父親はそれ以降消息を絶っている。手元に遺されたのは父親の日記帳のみ。

 その日記帳を見て、マローンは息を呑んだ。

 まずはその切り立った奇妙な台地の絵、そしてどう見ても恐竜としか思えない、奇怪な巨大生物の絵が描いてあるではないか。

 ホワイト嬢は何としても父親を助けるべく、再度台地を訪れたがっていた。だが、チャレンジャー教授はこの探検のために私財を投じ、それでもまだまだ金額は足らなかった。

 この話に興奮したマローンは、自分の社の独占取材ということで探検費用を出させると言った。これにはさすがのチャレンジャー教授も感激。思わずそれまで敵視していたマローンの手を取った。父の消息を探せると大喜びするホワイト嬢。そんな彼女にロクストン卿はさりげなく近づき、こうつぶやくのを忘れなかった。「あなたのために探検に同行する、私の気持ちは分かっているだろうね?」

 だが、その言葉にただ困惑するのみのホワイト嬢。

 はてさて探検隊は出発。チャレンジャー教授、ロクストン卿、ホワイト嬢、マローンに、サマリー教授を加えた彼らは、カヌーに乗って南米奥地へと入って行く。彼らが例の台地を臨む場所に到着したのは、間もなくのことだった。

 すると、彼らの目の前で信じられないことが起こった。今まさに台地の奥から、一匹の翼竜が飛来してきたではないか。ほんの一瞬のことではあったが、この事は彼らに探検の正当性を確信させるに十分だった。確かにあそこには太古の生物がいる!

 さて、どうやって台地に渡るか。そこは周囲から隔絶した場所。だが、台地に隣接するかたちで、比較的登りやすく見える尖った岩場があるのが眼にとまった。そのてっぺんには高く天に伸びた木が一本。

 「あれを台地側に倒して即席の橋をつくろう!」

 ガイドたちを台地下のキャンプに残して、早速岩場に登った一行。計画通り木を切り倒して台地に渡る橋をつくり、一人また一人と台地に降り立つ。

 すると!

 早速巨大な首長竜の姿が目の前に現れた。驚嘆する一同。だが、予想外の事態が起きた。首長竜は探検隊がつくった木の橋を、彼らの目の前で断崖から突き落としてしまったのだ。

 もう外界に戻れる道がない!

 探検が始まったばかりで愕然とした彼らだが、ともかくこうなると前進あるのみだ。彼らは台地の奥地へと踏み入っていく。

 行く手に現れる数々の恐竜たちは、彼らを驚嘆させ続けた。中でも他の種類の恐竜たちに戦いを仕掛けては殺す肉食竜のどう猛さ。そこはまさしく野生の王国だった。

 そして、探検隊は気づかなかったが、彼らの後を秘かに追い続ける猿人の姿が…。

 やがてマローンとホワイト嬢の間には、お互いに対する熱い感情が生まれた。そんな若い二人を見て、ロクストン卿は自分の思いを諦める気持ちになった。そして同じ頃、ホワイト嬢の父親の死も確認された。

 その頃下界のキャンプでは、ガイドたちが探検隊を救おうと長い長いナワバシゴをつくっていた。たまたま入った洞窟が台地の外壁に通じていることを知ったロクストン卿は、下界のキャンプに大声で知らせた。そのナワバシゴを何とかこの洞窟の出口まで引っ張って来れないか。そんな時活躍してくれたのが、キャンプのペットである小猿であった。小猿はナワバシゴを結びつけられ、台地の外壁を登っていく。無事洞窟の入口までたどり着くと、そこからはナワバシゴで一気に降りられることとなった。

 折りもおり、台地では火山活動が活発化した。溶岩が流れ火の雨が降り、恐竜たちが次々と逃げまどっていく。探検隊にも危険が迫っていただけに、このナワバシゴで避難路が確保出来たのはありがたかった。

 こうして探検隊は一人また一人とナワバシゴを降り始めた。そして最後の一人マローンが降り始めたところに…。

 あの猿人が洞窟に現れ、ナワバシゴを揺らしてジャマし始めるではないか!

 ゆらゆらと台地の外壁にぶら下げられるマローン。今にも彼は振り落とされそうだ。このままでは危ない。地表に降り立った探検隊は、ライフルで猿人を射撃。猿人は銃弾に倒れて、マローンは無事下界に降り立つことが出来た。まずはめでたし。

 降り立った探検隊は、台地の麓にある沼地にたどり着いて驚いた。何と首長竜一頭が、この沼地にハマったまま動けなくなっている。この首長竜は例の肉食竜との戦いの末、台地から転落してこの沼地にハマってしまった。落ちたところが沼地の泥の中だったので、首長竜は命を失わずに済んだのだ。

 「これは何よりの証拠だ、こいつをロンドンに持ち帰ろう!」

 かくして舞台は再びロンドン。チャレンジャー教授の凱旋講演会が開かれていた。

 「首長竜が今、港に運ばれたところです。もうすぐこちらに運ばれて来るでしょう!」

 ところがそこに首長竜の運搬に携わっていたマローンから電話が入った。何と運搬途中の梱包の仕方がマズく、首長竜は縄をほどいて逃げ出したと言うのだ。

 講演会の聴衆は、またチャレンジャー教授のヨタ話とバカにしていた。だが、次の瞬間にはロンドンは大パニックに陥った。

 首長竜がロンドン市内に侵入してきたのだ!

 たちまち街中大騒ぎ。首長竜を確保しようにも、何せ相手はデカくて近寄れない。群衆も逃げまどうばかり。建物が破壊されたりしたあげく、首長竜はロンドン橋を渡りだした。だが、橋はさすがにこの重みに耐えかねた。

 ミシミシと音を立てて崩れ落ちるロンドン橋。首長竜はテムズ川に転落して、そのままスイスイと泳いで消えて行ってしまった。

 これには学術上の貴重な資料がなくなった…と落胆するチャレンジャー教授。だが教授の偉業は、必ずや人々の記憶に残るに違いない…。

 

 これは当然のことながら、スティーブン・スピルバーグが発表した「ジュラシック・パーク」の続編、「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」ではない。映画史上に名高いSF映画の古典だ。何しろモノクロ・スタンダードで、もちろんサイレント映画。恐竜はすべてストップモーション・アニメーションで描かれる。そのアニメ特撮を担当したのはウィリス・オブライエン。この作品の後で「キング・コング」(1933)を担当して、ストップモーション・アニメの父となった人だ。そして「シンドバッド」シリーズや「タイタンの戦い」で有名なレイ・ハリーハウゼンの師匠スジに当たる特撮マン。ハリーハウゼンは何より、自作がスターや監督の名ではなく、特撮マンである彼の名で客を呼べるほどに有名になった希有な人だが、それもそのはず。こんな偉大な人のお弟子さんだったんだもんね。ストップモーション・アニメの王道を行く人の所以だ。

 この作品はご存じの通り、有名なサー・アーサー・コナン・ドイルの古典SF小説「失われた世界」の映画化だ。この作品はその後「タワーリング・インフェルノ」のプロデューサーとなったアーウィン・アレンによって「失われた世界」としてカラーで再映画化された。だけどその時には恐竜特撮はすべてトカゲを使って、ミニチュアによるライブ・アクション撮影されていたんだね。

 その後も「恐竜の島」など、ポツリポツリと恐竜映画はつくり続けられて来た。だけど、どれもこれも稚拙な特撮と小さい予算のB級映画の域を出なかった。そういう意味では、映画史を見渡してもA級大作の恐竜映画というと、この「ロスト・ワールド」とその再映画化「失われた世界」、そしてスピルバーグが乗り出した「ジュラシック・パーク」の諸作のみということになってしまう。まぁ、ごく近年に至るまでSF映画と言えばキワモノだったし、何しろ恐竜を表現する方法も稚拙なものでしかなかったのだ。それも無理はないだろう。

 「ジュラシック・パーク」DVDを見てみると、スピルバーグですら最初はストップモーション・アニメによる恐竜特撮を考えていた。実際にフィル・ティペットによるストップモーション・アニメの試作フィルムまで存在している。制作途上でCG技術の向上に気づき、表現方法の大転換を余儀なくされたわけだ。でも、それがなければ基本的にはこの「ロスト・ワールド」とやってることは変わらなかったはずだ。何十年も前のモノクロ・サイレント映画と変わらないんだよ。特撮ってSF映画って、実際はついこの前までそんな状態だったんだよね。

 だから、「ジュラシック・パーク」の続編に「ロスト・ワールド」の名前が冠されるのは、明らかにこの作品へのリスペクトがあるわけ。そうなると、スピルバーグ「ロスト・ワールド」のエンディングに、どう考えても作品のバランスを崩すかたちで恐竜のロサンゼルス上陸シーンが挿入されている意味がよく分かる。

 僕もこのサイレント「ロスト・ワールド」を改めて見るまでは、あれはローランド・エメリッヒによるアメリカ版「ゴジラ」の牽制として行われたものと思っていた。企画の成り立ちからしてロクなものにならないと思ったスピルバーグが、エメリッヒに忠告したにも関わらずアメリカ版「ゴジラ」制作が強行された。これに怒ったスピルバーグが、「ゴジラ」の気勢をそぐかたちで自作の「ロスト・ワールド」エンディングにアメリカの大都市を襲う大怪獣の姿を描き出した…というあの話だ。事の真偽は分からないものの、スピルバーグ版「ロスト・ワールド」には当初ロサンゼルス場面は用意されておらず、製作過程で彼のたっての願いで追加されたと聞き及ぶに至って、僕もこれはどうもホントだろうと思ったんだね。

 だが、元々彼がリスペクトしているこの元祖「ロスト・ワールド」に、恐竜のロンドン襲撃場面が大きな見せ場として登場しているのだ。これはどっちかと言えば、スピルバーグの元祖作品へのリスペクトの一環と考えたほうが良さそうだ。

 というわけで、歴代「ロスト・ワールド」を検証していくだけでちょっとした特撮映画史、SF映画史になり得るところが、この作品の真の偉大さかもしれない。

 原作となったコナン・ドイルの小説は、この後に「毒ガス帯(「地球最後の日」と言った方が一般的には知られているかもしれない)」、「霧の国」などを生むチャレンジャー教授シリーズの第一作。このチャレンジャー教授のちょっとアブないキャラクター(今時のヒット作「猟奇的な彼女」ふうに言えば「猟奇的な教授」かな?)は、個人的に言うと小松左京の「日本沈没」に出てくる田所博士(映画では小林桂樹扮す)に引き継がれているようにも思える。まぁ偏屈で無茶なんだけど憎めない科学者の典型だ。

 登場キャラクターもあらすじも、基本的には原作を踏襲している。素朴な性格のマローンが主人公で語り手であるあたりも原作通りだ。もっとも、原作はかなりの長編なのに、映画はセリフによる説明が困難なサイレントで長さも1時間弱。当然かなり単純化されてしまうのは致し方ない。原作では、探検に同行するサマリー教授が最初はチャレンジャー教授に懐疑的な態度をとり続け、恐竜の存在を確認するやキッパリと態度を改める。そんな科学者としてのフェアな態度が読者にすごく好印象を与えるので、割愛されているのが残念なんだけどね。またチャレンジャー教授のおっかないけど憎めない個性ももっと深みがある。まぁ、それはサイレント映画に求めるのも酷な話なんだろう。

 そして原作と映画の最大の相違点は、ヒロインの存在。キャスト表の筆頭に出てくる「主役」のベッシー・ラブ演じるポーラ・ホワイト嬢は、原作にはまったく出てこない。探検に同行なんてしない。これはたぶんロマンスも色気もない映画では商売にならないと、わざわざ追加したところなんだろう。だから探検の最中何度も唐突に、彼女のどアップ・ショットがアイドルのプロモーション・ビデオよろしく挿入されるんだよ(笑)。これって何ともおかしいね。当然ロクストン卿と主人公マローンの恋のさやあても本来はない。原作ではマローンにグラディスなる婚約者がいて、彼女の気まぐれかつワガママに振り回されたあげくに主人公は冒険に駆り出されていく。マローンが台地の探検の最中に発見した湖の命名者となる時、「グラディス湖」なる名前をつけて教授たちにからかわれるくだりもある。結局、冒険を終えて帰国したマローンがこのグラディスを訪ねると、彼女は帰らぬ婚約者を捨ててサッサと別の男と結婚していたというオチまでつく。

 だが映画をよく見てみると、実はその冒頭でマローンが婚約者の存在をチラつかせている。ホワイト嬢と恋に落ちた時も、婚約者のことが話題にのぼる。何よりキャスト表を見ると、その5番目(何と探検隊の一員サマリー教授より上だ!)には「グラディス・バーガーフォード」なる役名がクレジットされているではないか。

 にも関わらず、映画のどこを見てもマローンの婚約者グラディスが出てくるくだりは見当たらない。これはどういうことなのか? 一旦は撮影されたものの、公開時にカットされたのか? 現存するプリントには欠落箇所があるのか? 常にストップモーション・アニメ場面だけが取りざたされて、およそ「主人公の婚約者」の存在が問われることもない作品ではあるだけに、誰もがこの疑問を見落としているのではないか?

 そんな些細なナゾが残るあたりも、古典で伝説的な作品である所以かもしれないね。

 

 


The Lost World

(1925年・アメリカ)ファースト・ナショナル・ピクチャーズ制作

監督:ハリー・O・ホイト

脚本:ウォルターソン・R・ロサッカー

出演:ベッシー・ラブ(ポーラ・ホワイト)、ルイス・ストーン(ジョン・ロクストン卿)、ウォーレス・ビアリー(チャレンジャー教授)、ロイド・ヒューズ(エド・マローン)、アルマ・ベネット(グラディス・バーガーフォード?)、アーサー・ホイト(サマリー教授)、マーガレット・マクウェイド(チャレンジャー夫人)

2003年3月22日・DVDにて鑑賞


 

 

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