「死の大カマキリ」

  The Deadly Mantis

 (2002/07/15)


 一つの作用というものは、必ず等しい大きさの反作用というものを生む。

 今まさに南氷洋付近の海上に浮かぶ島で、大きな火山の噴火が起きた。そこから遠く離れた北極圏では、まるでそれに呼応するかのように氷山が崩れだした。崩れて溶けだしたその大きな氷塊の中に潜むのは…。

 死の大カマキリだ!

 さて、アメリカ軍の防空体制は1950年代でもすでに鉄壁の守りを成していた。アメリカ本土からカナダ、そして北極圏に至るまで三層に張り巡らされた防空レーダー圏。そして北の最前線には基地が設けられ、北極を超えてアメリカ本土を襲ってくるいかなる敵も、漏らさずキャッチして迎え撃つ備えは完璧に配備されていた。あぁ、超大国アメリカが誇る素晴らしい防衛システム。

 そんなここ北極の前線の出張所。二人の兵士たちがレコードなんかかけてくつろいでいたところ、レーダーが何やら飛来する物体をキャッチした。気のせいか? いや違う。それはたちまち近づいてきた。そう言えば何やら耳障りなノイズが聞こえてくる。やがて窓が乱暴に開いて突風と雪が吹き込んできた。これは何だ!

 やがて北極圏を飛び回るアメリカ空軍の偵察機が、この前線出張所が破壊されているのを上空から確認。この知らせはすぐに北極圏を統括するアメリカ空軍基地に連絡された。知らせを聞いたパークマン大佐は、ただちに通信兵に出張所に連絡させる。だが応答はない。何やら胸騒ぎを感じたパークマン大佐は、ただちに小型機に乗ってこの前線出張所に向けて飛んだ。

 降り立った出張所の惨状は想像を超えていた。メチャメチャ。しかも二人の兵士はいない。パークマンと連れだってやって来た兵士は、歩いて基地まで行ったんじゃないっすか?…などとピントはずれなことを言って大佐ににらまれる。冗談言ってる場合ではないっ。見ると、すぐそばに何かが着地した跡があった。だが飛行機にしては滑走距離がなさすぎる。ヘリにしては回りの雪が飛ばされてない。しかもしかも、そこには何やら見慣れない巨大な爪跡のようなものが…。

 アメリカ空軍の輸送機が、今日も北極圏を飛んでいる。するとどこからともなく耳障りなノイズが聞こえてくる。パイロットがそれに気づいたちょうどその時、激しい衝撃が輸送機を襲う。うわぁ〜っ。

 またしても偵察機が、この輸送機の墜落を確認。パークマン大佐はまたまた現場に駆けつけた。輸送機はバラバラ。あのピントはずれのギャグを言ったパークマン大佐の連れも、今度ばかりは乗員の姿が見えないことに怯えきっていた。そんな機体の残骸にはボロボロになった乗員の帽子が。その時、機体の上に引っかかっていた何か大きな物体が落っこちてきたので、大慌てのご両人。な、なんじゃこりゃ〜?

 巨大な爪…なんだろうか、それとも牙なのだろうか? それはただちにペンタゴンに送られた。そう、北極圏の鉄壁の防空圏、それはペンタゴンと直結してもいる。ペンタゴンのフォード将軍はさっそく軍の上層部を集めて緊急会議を開いた。そこになぜか呼ばれた生物学の教授。なぜか? それはこの巨大な物体を調査するためだった。だが教授もこれが人工物ではなく、何か生物の一部分だということを指摘するのが精一杯だった。生物だって? この巨大さだぞ? だが教授はこの問いに答えることは出来なかったが、自分より適任者を見つけることは出来た。国立自然博物館のジャクソン博士だ。

 ジャクソン博士はロマンス・グレーの粋な紳士。今日も美人助手マージと一緒にいい感じで研究を進めていた。そこにペンタゴンの電話。なぜこの私にペンタゴンが呼び出しをかけるのか? ともかく取るモノも取らずにペンタゴンに出向く博士であった。

 ペンタゴンではフォード将軍と例の教授、そしてあの巨大な爪が待ちかまえていた。さすがジャクソン博士、この爪を一目見るや、たちまち明快に回答を出した。これは骨とかそういうものではない。これは固い殻に覆われている。そんな生物は昆虫とか…。なにぃ〜、こんなデカい虫だとぉ〜? しかもこの爪は緑色。するってえと…。

 博物館に帰った博士は思い悩むばかり。思わずいい仲のマージにもポロッと秘密を打ち明けちまう。北極圏で米軍が襲われている。そしてあの爪…。

 そんなことやってるうちにもヤツは情け容赦なく襲ってくる。今度は付近のイヌイット村を襲ってきた。みんな一斉に逃げ出してカヌーに乗って避難するが、どんなところにも要領の悪い奴はいるもんだ。カヌーに乗り損なってモタモタするうち、ヤツは鋭い牙で襲いかかった。

 死の大カマキリだ!

 新聞報道がなされる中、アメリカ軍もマスコミ対応に苦慮していた。一方、博物館でもジャクソン博士、教授、マージの間で白熱の議論が戦わされていた。いつの間にマージが仲間に入ったのかという話は、この際置いておいて、だ。昆虫、緑色、肉食…。だが、この大きさだぞ? 残された化石の中には巨大なトンボの存在を証明するものもある。どうやって今まで生き延びてきた? おそらく北極の氷の中に閉じこめられていたんでしょう。では博士は何だと思いますの? バッタ、イナゴ…いいや、違う。

 死の大カマキリだ!

 早速ペンタゴンはこれを正式にテレビ発表した。敵は死の大カマキリです。だが国民のみなさん、恐るるに足らず。わがアメリカ軍の鉄壁の守りが、この敵を必ず粉砕します。みなさんは平静を守っていただきたい。

 ジャクソン博士は北極のアメリカ空軍基地に出向くことになった。するとチャッカリとマージもお出かけの用意をしているではないか。キミ、一体何をしているのかね? だって向こうでは写真を撮影しやくちゃならないでしょう? 誰かカメラマンが必要ですわ。んなこと言って、キミは私について行きたいんじゃないのか? んもう、博士の意地悪ぅ。お・そ・ば・に・お・い・てっ…とか何とか、アダルトな会話の末にマージも北極に出かけることになった。

 女っ気なし、あるのはダッチワイフとエロ本だけの空軍基地。そこに降り立った美人助手マージは思い切り目立つ。それに何を勘違いしたか、マージも毛皮コートなんか着ちゃっておよそ活動的ではない。迎えるパークマン大佐もジャクソン博士と握手しながら目はマージに釘付け。もちろん基地の連中もみんな仕事をほっぱらかしてる。馬鹿野郎、仕事に戻れっとか怒鳴っていながら、そう言うテメエが彼女に夢中のパークマン大佐は、なぜかいつの間にか彼女の腰に手を回して基地内をエスコート。それを見ていたジャクソン博士も余裕で笑ってはいたが、内心は忸怩たるものがあった。

 夜はと言えば、基地内の娯楽室に登場のマージ。兵士たちのやんやの喝采を浴びて悪い気がしない。この女、根っからの目立ちたがり屋、チヤホヤされたがり屋。兵士にダンスなんか誘われて、モチいいわよぉ…なとと悪い気がしない。あらぁ、固くなってるコレはなぁに? 長いの太いの大きいの固いの…よりどりみどりだわぁ。やっぱりオトコはコレよね。これにはパークマン大佐も落ち着いていられないと内心決意を固めていた。この女、男なら誰でもいいのかよぉ…。

 そんなブッたるんだアメリカ軍の隙を見計らってか、闇夜に乗じてこの空軍基地に向かう巨大な影が一つ。それはもちろん…。

 死の大カマキリだ!

 博士は気の毒にも研究に没頭。そんな博士の気持ちを逆なでするかのように、ウフフアハハと楽しそうに部屋に戻ってくるパークマン大佐とマージ。フン、こんな事じゃないかと思ったよ。だから連れてくるのはイヤだと言ったんだ、あの尻軽女めが。今にもロマンスグレーの頭から湯気出しそうになりながら、紳士たるもの動揺を見せてはならず、大佐の前では余裕の笑顔見せてるから辛いところ。そんな博士の気持ちを知ってか知らずか、マージは棚のパイロットのヘルメットなんか見ちゃって、一体何をしに来たのか分からない。ところが窓から外を見てみると…。

 死の大カマキリだ!

 ヤツも窓から覗き込んでいたから、マージの悲鳴に驚いた。あわてて彼女に黙れとでも言うかのように、天井から腕を差し込んできた。ったくニンゲンのメスはこれだからイヤだよ、バリバリッ!

 大変だ、基地が壊されるっ。

 たちまち警報が鳴って、兵士たちが武器を片手に飛び出してきた。だが発砲してもまるで効果なし。かろうじて火炎放射器の炎だけはまいったのか、突然羽音もするどく空に舞い上がっていった。

 さぁ大変! ヤツはどこに行ったのか。偵察機があたり一帯を捜索するが見つからない。いいかげん見つからないので帰っていいかと偵察機のパイロットは通信してくるが、基地で座ってるだけのパークマン大佐は許さない。見つかるまで探してこい! ここで厳しいところをマージに見せて、俺の勇ましいところを見せつけておかなくてはな。

 だが、そんなパークマン大佐の見当違いな指令をよそに、大カマキリは海上に出て南下を始めていた。それは漁船からの被害連絡を受けて初めて分かった。だが、さすが軍人の鑑パークマン大佐は、それを聞いても慌てず騒がず。「やはりそうだったか。私も最初からそう思っていたよ」「まぁ素敵、さすが男らしい軍人さんだわ」 それを見て、さすがのジャクソン博士もマージに愛想が尽きた。この尻軽バカ女めが。

 かくして何のことはない。誰も失策を認めてないからそうとは見えないが、アメリカ軍が誇る鉄壁の防空網はまんまと破られた。アメリカ全土に警報が出された。みなさん、死の大カマキリがアメリカ本土をめざしています。冷静に! 目撃された方は軍までご報告を!

 ジャクソン博士とマージ、それになぜかパークマン大佐も、首都ワシントンD.C.のペンタゴン内に本拠を移した。だが大カマキリの行方は杳として知れない。用もないのにその場に居座って居眠りこいてるマージを見て、すかさずパークマン大佐が送っていくと申し出た。彼女に呆れ返ってるジャクソン博士にも、もはや異存はない。ハイハイ、お好きなようにやってくれ。後でどうなっても知らないぞ。

 なぜか車にムード音楽流しながら、眠る彼女の頭を自分の肩に預けて運転するパークマン大佐。ちょっと休んでいこうとか言っちゃおうかな。そんなことを思った矢先、ラジオが臨時ニュースを告げている。ワシントン郊外で列車事故が起こりました。詳報はのちほど…。

 そんなこんなしているうち、あっちで車の事故、こっちでバスが転覆。さすがにこれはただ事ではないと、色ボケしたパークマン大佐も気がついた。ワシントン全域には緊急警報が発せられる。さぁ大変。

 何とアメリカ軍がのんびりしているうちに、死の大カマキリは首都ワシントンD.C.にやってきていた。あのワシントンを代表するランドマーク・モニュメント、ワシントン記念塔によじ登る大カマキリ。だがこいつ、一体何のためにこんなものに上ったのか? まるで物見遊山としか思えない。 ここで観光を済ませた大カマキリは、またしても飛び立っていく。

 アメリカ空軍自慢のレーダー網が大カマキリの行方を追っていく。ヤツの目標は…ニューヨークだ! そうはさせじと派手な対空砲火が大カマキリを迎かえ撃つが、ヤツはビクともせずにブ〜ンと飛んでいく。ニューヨークが危ない!

 ここでパークマン大佐は立ち上がった。自ら最新鋭ジェット戦闘機に乗り込み、編隊を率いてアンダーソン空軍基地から飛び立った。飛行中の大カマキリに接近して、機銃掃射にロケット攻撃を浴びせる。だが、まるで効果なし。それどころか大カマキリ突然コースを変えて、真正面からパークマン操縦する戦闘機にチキンレースを挑むではないか。デカいとは言え、虫風情にすっかりナメられたパークマン。ここで退いては男がすたる。好き者マージにもありつけない。ええ〜い、真っ向勝負だ〜っ!

 ズバ〜ン!

 大カマキリとバーグマン機が正面衝突。バーグマンは慌ててパラシュートで脱出し、戦闘機は墜落。こいつのつまらない意地のおかげで莫大な費用の戦闘機が一機オシャカになった。大カマキリは…と言えば、さすがに今度ばかりはこたえたのか、フラフラとマンハッタンに向かって降りていくではないか。大変だ、一体どうなる?

 ところが大カマキリも今回の一撃に、しばらく一人になりたいらしい。あのスタローン主演の「デイライト」にも出てきたニューヨークの海底トンネルに潜り込んだまま出てこない。中で起きた自動車事故の火災のせいか、閉鎖されたトンネル入口からは煙が出ている。

 するとさっきまで戦闘機のコクピットにいたパークマン大佐が、今度は防護服に酸素ボンベ背負って登場。いやはやマメなこの男、またしても大カマキリ討伐隊を率いてトンネル内に入って行った。これだけやれば女の心はクギづけさ。こいつ公私混同のあまり、女の気を惹きたいがためにすでに戦闘機一機を鉄クズにしてることなんか忘れてる。

 煙で視界が悪いトンネル内。静まり返ったその中をどんどん進んでいくと、いたいた…。

 死の大カマキリだ!

 大カマキリは慣れ親しんだお友達のパークマン大佐見つけたら嬉しくなったのか、ズンズン近づいてくる。討伐隊の連中はもうすでに何度もやってて分かりそうなものなのに、またしても大カマキリに無駄に銃弾を浴びせてはジリジリ後退するのを余儀なくされた。

 だが今回はパークマン大佐にも勝算があった。

 彼は大カマキリに向かって毒ガス弾を投げつけた。爆発とともに猛烈な勢いでガスが発生。さしもの大カマキリもこれにはひるんだ。そこに2発目を投げつける。かわいそうな大カマキリは、ガスにもがき苦しんでヨダレを垂らしながら動かなくなった。

 大勝利!

 ガスが抜けてからトンネル内の現場にやってくるジャクソン博士、マージ、フォード将軍。カメラを持ってきたマージはおっかなびっくり大カマキリに近づいていくが、パークマン大佐もジャクソン博士も「もう大丈夫だ」と言ってお墨付を与える。彼女が大カマキリに近付いて写真を撮ろうとしている間、男連中はカマキリを調べるのに夢中。ところが彼女のすぐそばに横たわっていたカマキリの腕が、弱々しいながらも動くではないか。それを目ざとく見つけたパークマン大佐は慌てて彼女に飛びつく。

 「危ないっ!」

 マージに飛びついて鋭いカマのような腕から引き離したパークマン大佐。間一髪。弱っていた大カマキリはもう動かなくなった。だがマージを抱き締めたパークマン大佐は、一向に彼女の腰に廻した腕を緩めようとしない。なによイヤね。なぁ、いいだろ? なにがいいのよ? だからさぁ…などとつれない素振りしながらベタベタする二人を見ていてジャクソン博士もウンザリ。ケッ、だらしねえなぁ大カマキリのヤツ。もうちょっとだったのに…。本音はマージが助かって残念がってるジャクソン博士だったが、そんな表情を気取られないように二人のイチャイチャしたツーショットをカメラに収めてやる芸の細かさ。紳士たるもの、内心の動揺を人に詠まれてはならない。くそ〜、ホントだったら俺があの女とシッポリのはずだったのに…。

 この教訓はこうだ。いかに万全な防衛網を誇っていても、絶対の文字はこの世にはない。敵は狡猾で、しかも情容赦ない。一旦野に放たれたら止められない。そして脅威は決して去ったわけではない。ヤツは用が済んだオスはさっさと食い殺すとんでもない生き物だぞ、男性諸君。

 最初は甘い言葉で迫ってくる尻軽オンナ、それこそ真の「死の大カマキリ」なのだ!

 

 今までここで取り上げてきたSF映画のうち日本未公開作品は、大概がアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズあたりが製作の低予算ゲテモノ映画と相場は決まっているのだが、これはハリウッド・メジャーのユニバーサル製作。プロデューサーのウィリアム・エイランドはSF映画の古典的名作の1本とされる「宇宙水爆戦」をつくった人。だから、ユニバーサルとしてはB級の規模の作品ではあるのだけど、前述の低予算映画と比べればスケールが雲泥の差なんだよね。終盤のニューヨーク・トンネルの入口など、おそらく通行止めしてロケなんて考えられないだろうからセットでつくったのだろう。その一方で戦闘機と大カマキリのツーショット映像がないとか、マンハッタンに降りた後の大カマキリの暴れっぷりが出てこないとか、ちょっと残念なところもある。そこらへんはメジャーはメジャーでもB級なりの予算の限界なんだろうかね? でも、貧寒としたチープさがないところはさすがハリウッド・メジャー。

 この映画がそれなりに豪華に見える理由のもう一つは、どうもアメリカ空軍の全面協力を得ているらしいところ。当時の先端軍備を惜しみなく登場させる。まぁ、アメリカ軍が主役の映画なんだから当然と言えば当然。記録フィルムの流用も少なくはないが、実際に空母や戦闘機などを提供してもらって撮影した部分もかなりあるはず。流用フィルムにしたって、おそらくアメリカ空軍から提供されたものである可能性が高い。だから大カマキリ退治に次々出動するアメリカ空軍の戦闘機の場面だけでも、おそらくその道の趣味の人にはたまらないと思うよ。

 でも、それにしてもこの映画でのアメリカ空軍の描写は詳細を極める。大カマキリが登場する前に、北の守りのレーダー網はこのようにあって、それを支える北極圏の基地はこれだけあって…などと、何と地図まで使って説明する意味って何なのだろう? このくだり、まるで記録映画やら教育映画みたいなマジメさなのだ。

 しかも北極圏に変事が起った場合、その報告や連絡、さらに指示や命令は、こういうシステムを経てペンタゴンへ…な〜んてことまでクドクド説明する必要があるだろうか? しかも、それはリアルな映像の図解付きで…だ。何とも不思議。そしていよいよ大カマキリが本土をめざしてきたらプレス発表と、国民への呼びかけ。この映画って肝心の大カマキリとの激闘よりも、そうした軍のシステム絡みのことを説明するのにヤケに熱心すぎる気がするのだ。

 そこで考えてみるとねぇ…この映画が発表された時代というものを考えてしまうんだよね。1957年と言えば戦後の東西両陣営が、双方で核軍拡をエスカレートさせた頃のヤバ〜い時代。水爆実験はすでに1952年からスタートしている。そして何とこの映画の製作年1957年には、米ソ両陣営とも大陸間弾道弾(ICBM)の実験を開始している。核戦争というものが、かなりなリアリティを持って受け止められていた時代だろうと思うんだね。少なくとも軍関係者は危機感を持っていたと思う。「北極圏」の彼方からやってくる「謎」の敵、向かえ討つアメリカ空軍の防衛ライン…こう考えてみると、これって絶対当時のソ連の脅威のメタファーだって思わないか?

 では製作者側に反ソ主義者がいたのだろうか? いや。おそらくそうじゃない。これはハッキリ、アメリカ空軍がハリウッド・メジャーに娯楽映画のかたちでつくらせた、一種のプロパガンダ啓蒙映画であると断言していいのではないか?

 そうでないと、空軍の全面協力の大袈裟さが説明できない。あんなに詳細極まる防衛ラインの紹介をする意味が分からない。単に反ソとか戦争の恐怖だけをヒステリックに煽っているのでは意味がない。明らかにそれだけではなく、軍が国民に対して自国の防空システムはこうなっているのだと伝えようとしている意図があるはずだ。

 だが、映画では結果的に「北極からの敵」はアメリカ空軍が誇る鉄壁の防空ラインを次々突破。最終的にはアメリカ本土に警報を出さざるを得なくなる。これでは軍のプロパガンダにはならないんじゃないか…と思われる向きもあるだろう。確かにこれが「北からの脅威」に対してアメリカ空軍が絶対に守りきると、国民を安心し納得させる目的でつくられたのなら…。

 僕はこの点について考えてみたんだけど、前述の1957年という時点でアメリカ防空システムを見せる映画をつくる意図は、国民に安心感を与えるためではなかったんだと思うんだよね。たぶん軍から見ても米ソの状況はかなりヤバかった。事が起きた時どうなるだろうと考えた。そんな時にいたずらにパニクらないように国民に事前の情報を与えたい…そのためにこの映画はつくられたんじゃないかと思うんだよね。つまりソ連による本土決戦のシュミレーションだ。

 これを軍が国民に表立って言ったら大変なことになるよね。表だってはそんな事ありえないことになっているんだから。でも実際はいつ起きてもおかしくなかった。だから「その時」のために備えておきたい。国民に「備えさせて」おきたい。せめて心の準備だけでもさせておきたい。だからこの映画がつくられた…あくまで怪獣映画という空想の産物として。そうでも考えないと、あの執拗なまでの軍システムの詳細な説明は何だか分からない。

 そして、なぜ怪獣が大した必然性もなくワシントンD.C.を襲うのか…ということの説明にもなる。怪獣とくればニューヨークを襲わせた方がずっと絵になるではないか。だが、ニューヨークでの怪獣の活躍はほとんどない。そしてワシントンD.C.では、怪獣はなぜかワシントン記念塔をよじ登る。ジョージ・ワシントンを称えて建築されたこの構造物が怪獣に襲われる意味は? アメリカ「建国の精神」が汚される以外の何者でもないだろう。それ以外に、カマキリ怪獣がこんなとこを襲う理由なんてないのだ。この映画の公開当時のポスターの絵柄はやはりワシントン記念塔に登る大カマキリだったが、それは必然なのだ。

 そして、そのアメリカを襲う脅威のシンボルである怪獣がカマキリの姿をしていることにも、おそらくは重要な意味がある。鎚と鎌…かつてこれらをシンボルとして自らの国旗にあしらっていた国があった。その「鎌」こそ、この大カマキリの原点ではないのか。おそらく映画を見た人はもちろん、街でポスターを見ただけの人にも、ワシントン記念塔に登る大カマキリの姿が何かのインパクトをサブリミナル効果のように与えたはずだ。

 そう考えてみれば、この映画冒頭でナレーターがつぶやく、やけに抽象的なコメントも意味がある。「一つの作用というものは、必ず等しい大きさの反作用というものを生む」…1954年にアメリカがビキニ環礁で水爆実験をすれば、翌年にはソ連も行う…。そして映画では火山島の噴火が描かれるが、あれも見ようによっては何らかの人為的爆発によって噴火が誘発されたように見える描写なのだ。あれが核実験でないと受け取る方が、むしろ不自然というものかもしれない。

 しかしいい意味でも悪い意味でも、アメリカという国はすごいと思わざるを得ない。こんな緊迫感あふれるヤバいメッセージを国民に届かせようとするために、「怪獣映画」という手段を思いつくとは…。だってこのような記号は映画をよく観察していけば分かるとは言うものの、漫然とみていたらただの怪獣映画であり、その点においても結構よく出来ているもんね。実に真面目につくってる。いかにアメリカという国がメディアというものの影響力を重要視していたかの表われだろうし、実際にそれだけ大衆文化というものが力を持っていることの証明でもあるんだろうね。

 だけどねぇ、こんなにソ連の脅威に怯えて必死になって自分たちを守ろうとして…それなのに何で逆に彼らを挑発するようなマネばかりしていたんだろう? だっておかしいじゃないか。彼ら1957年の時点で分かっていたんだぜ。

 「一つの作用というものは、必ず等しい大きさの反作用というものを生む」…ってさ。

 

 

上記、「ワシントン記念塔」についてのリンクを張らせていただいた、ワシントンD.C.情報満載の大阪のみえさんのサイトです。

MIEX−みえっくす?

http://www.h5.dion.ne.jp/~miex/

 


The Deadly Mantis

(1957年・アメリカ)ユニバーサル映画

日本劇場未公開

監督:ネイサン・ジュラン

製作:ウィリアム・エイランド

脚本:マーティン・バークレー

出演:クレイグ・スティーブンス(パークマン大佐)、ウィリアム・ホッパー(ジャクソン博士)、アリックス・タルトン(マージ)、フロレンズ・エイムス(教授)、ドナルド・ランドルフ(フォード将軍)

2002年7月7日・輸入ビデオにて鑑賞


 

 

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