「北京原人の逆襲」

  猩猩王 (The Mighty Peking Man)

 (2004/11/08)


伝説の北京原人は本当に生きていた!

 ここは香港大学図書館。ふんぞり返ったガハハ・オヤジの実業家クー・フェンは、取り巻きを引き連れながら得意満面に語っている。話題は今から15年前、ヒマラヤ山中に出現した巨大な猿人・北京原人について…。それは当時世界を震撼させた衝撃のニュースだった。

 ヒマラヤ山脈奥地のその貧しい村は、ある日凄まじい地震に襲われた。家々が倒れ激しい地割れが起き、彼方に見えていた雪山が大音響と共に崩れ落ちると…そこに現れたのは、毛むくじゃらの巨大な猿人…そう、かの北京原人だ。北京原人は大暴れして村を踏みつぶし、近くの遺跡を破壊して猛威を振るった…。

 「もしこいつを捕まえられれば大儲けだわな」

 ガハハ・オヤジのクー・フェンは、早くも捕らぬ狸の皮算用。そして取り巻きのうちの一人は、北京原人を捕獲する探検隊にとっておきの人材がいる…と持ちかける。冒険家、探検家として経験を積んだ男だ。

 「なぁに、ヤツは今失恋して落ち込んでいるから、話を持ちかければすぐ乗るさ!」

 案の定、酒場で飲んだくれてるその男…ダニー・リーは、持ちかけられた話にすぐ乗った。これで何ともスンナリ話は進み、ダニー・リーとクー・フェン率いる探検隊は意気揚々とインドへと辿り着いた。

 早速現地でクルーを募り、奥地へと乗り込んでいく一行。だが探検隊を指揮するはずのダニー・リーは、何だかずっと影が薄い。野営でみんなで焚き火を囲んでも、なぜか隅っこに縮こまっているのだ。見かねた仲間が声をかけると、やっぱり失恋の痛手が響いていたようだ。

 かつてダニー・リーは、恋人シャオ・ヤオとの仲がうまくいっていると思っていた。歌手としての成功を夢見る彼女を応援もした。だがある日、ダニー・リーはシャオ・ヤオが自分の弟とベッドを共にしているのを目撃してしまう。シャオ・ヤオはテレビ・プロデューサーである弟を、何とか抱き込みたいと思っていたのだった。まぁ、人間は所詮カネだ。世の中すべてカネなんだよ。ショックを受けたダニー・リーは、二人の前から姿を消してしまう…。

 仕方がない。それが女というものだ。

 「これで北京原人を発見したとなれば、アンタの名前も世界に轟くさ!」と、仲間はダニー・リーを励ましてこう言う。実際のところダニー・リーも、今は北京原人発見を夢見て自分を慰めるしかなかった。

 さて探検隊がさらに奥地へ入っていくと、ある集落が目に入ってくる。だが、なぜかこの集落には人けがない。そしてどこからともなく地響きが…。

 象の大群が押し寄せてくる!

 象たちは集落に突っ込んでくると、家々を片っ端からなぎ倒す。隠れていた住民たちも慌てて姿を見せるが、逃げ遅れて踏みつぶされる者、家屋の下敷きになる者…もうてんやわんや。ダニー・リーたちは銃で必死に応戦するが、まるで歯が立たない。

 やがて象たちが走り去った後には、踏みつぶされた家々と血まみれになった人々の死骸が散乱していた。にも関わらず、ダニー・リーはさわやかに宣言する。

 「よし、出発だ!」

 さらに歩いていくと、今度は草原でトラが登場。慌てふためいて逃げたクルーたちは底なし沼にハマって沈んでしまうし、別のクルーの一人はアッという間にトラに噛みつかれた。ダニー・リーは何とか引き離そうとするが、トラはクルーに食いついて離れない。しばし格闘したあげく、クルーの足を噛みきってしまう。やっとトラを倒した時には、クルーは虫の息だ。

 ダニー・リーは救急箱を出そうとするが、クー・フェンは冷ややかに銃を構えた…。

 バ〜〜〜〜ン!

 何とクー・フェンは傷ついたクルーを射殺してしまったのだ。これにはダニー・リーは激怒して、思わずクー・フェンをブチのめす。だがクー・フェンはまったく悪びれず、「どうせ助からないし薬の無駄」と吐き捨てるだけだった。

 さらに切り立った岸壁を上っている途中で、ザイルがはずれて隊員やクルーたちが転落。さすがに事ここに及んで、クー・フェンも探険にイヤけが差し始めた。だが、元々の冒険家の血が完全に蘇ったダニー・リーは、さらに前進することを主張。ともかくその夜はテントを張って、一同で野営することになった。

 ところが夜中ダニー・リーが寝静まった後で、クー・フェンと他のクルーたちはみんなコッソリとテントから去ってしまった。もちろんもう探険はウンザリというわけだ。そうとは知らぬダニー・リーだけが、テントに一人でグースカ眠っていた。

 翌朝目が覚めたダニー・リーはすぐに事情を察したが、さほど気落ちした素振りもなく一人で元気に出発。青空の下、のんびりと野原を歩いていると…。

 いきなりでっかい手にムンズとつかまれた!

 何とウワサに聞いた巨大な猿人…北京原人が、自分を手で握っているではないか。北京原人が手を離したため地面に放り出されたダニー・リーは、必死に茂みへと隠れる。だが北京原人はどんどんダニー・リーを追いかけてきた。慌てたダニー・リーは、転倒して岩に頭を打って失神。あわや北京原人に踏みつぶされようとしていたところ…。

 「あ〜あ〜あ〜〜〜!」

 ツタにぶら下がってジャングルの彼方から、何と肌も露わな金髪美女が現れるではないか!

 この金髪美女は驚いたことに、ダニー・リーを襲おうとした北京原人を止めた。そして原人の手のひらにダニー・リーを乗せ、自分ももう一方の手のひらに乗っかった。原人はまったく彼女の言いなりだ。

 誰も知らないヒマラヤの奥地。滝から澄んだ水が流れ落ちる切り立った岸壁の洞穴の奥に、北京原人はダニー・リーをゆっくりと横たえた。そこには毛皮とワラで簡単な寝床がこしらえてあり、果物も豊富に置いてあった。意識を取り戻したダニー・リーはビックリ。さらにそこに現れた金髪美女を見て、二度ビックリだ。

 彼女は自らをイブリン・クラフトと名乗った。それにしても、こんな場所になぜ金髪美女がいるのだろう? そんなダニー・リーの疑問に、クラフト自身が答えてくれた。彼女は「両親に会わせる」と、彼を近くの森の中へと連れて行ったのだ。

 そこには、かなり昔に墜落して大破したセスナ機があった。そして中には二体の白骨死体が…。クラフトはその白骨を「自分の両親」だと言う。

 それは今から十数年前のことだった。クラフトの両親は幼い娘を連れて、嵐の晩にセスナを飛ばせていた。案の定、途中でトラブッてセスナは墜落。両親はその時に死んで、幼いクラフトだけが生き残った。そんな彼女を育ててくれたのは…。

 あの北京原人だったのだ!

 それからずっとこのジャングルで暮らして来たクラフト。だからおっかなそうなトラもヒョウもお友達。木登りも大の得意で、スイスイ登って果実を落としてくる。な〜んてご機嫌になっていたのが油断だったのか、クラフトの太股に、いきなりヘビがカブリと噛みついた!

 「キャ〜ッ!」

 これに怒ったヒョウが憎っくきヘビに飛びついて八つ裂きにしたのはいうまでもないが、そんな事をしても噛まれたクラフトは助からない。すかさずダニー・リーはクラフトに飛びついて、そのムチムチ太股にかぶりつくように口を付けた。チュパチュパ毒を吸い出しつつ、クラフトの股ぐらに顔を押しつけるダニー・リー。恩着せがましく善人面していながら、実はセコくオノレの願望を満たす助平男だ。

 仕方がない。それが男というものだ。

 それにしてもこんなあっけなくやられるようなクラフトが、今までどうやって一人で無事やってこれたのか…などと、余計な事を考えてはいけない。もちろんダニー・リーだって、そんな事はこれぽっちも考えない。すぐに象もその場に心配そうにやって来る。ダニー・リーは象の背中にクラフトを乗せて、住みかである洞窟まで運んでもらうことにした。

 だがあれだけ毒を吸い出しても、クラフトの容態はまだまだすぐれない。こうなるとダニー・リーも打つ手がない。すると洞窟の入口に、バサバサとたくさんの木の葉っぱが落ちてくるではないか。

 見るとあの北京原人が、心配そうな表情で見下ろしていた。このたくさんの木の葉っぱは、北京原人が取って来たもののようだ。すると…これはひょっとして「薬草」か何かではないか?

 ダニー・リーはこれらの木の葉を刻んでスリつぶし、クラフトの傷口にそれを刷り込みつつ、ドサクサに紛れてあちこちタッチし放題。こうしてクラフトは徐々に快方へと向かった。

 やがて病いの床から全快したクラフトは、喜びのあまりダニー・リーと抱き合ってしまう。抱き合った拍子に、ついつい色気づいてそのまま寝床へと倒れ込んでしまう。

 それからというもの…辺りの野山を仲良く駆けるダニー・リーとクラフトの二人の姿があった。滝つぼで水遊びをしながらジャレ合ったり、洞窟を愛の巣にして抱き合ったり…。そんなダニー・リーとクラフトの様子を伺いながら、洞窟の外では北京原人がもだえ狂っていた。それは愛する者を奪われたが故の哀しみであろうか。北京原人の目には涙が光っていた。

 仕方がない。それが女というものだ。

 あまりに北京原人が嫉妬に狂って暴れる時には、クラフトが洞窟の外に出てきて原人を慰めた。その巨大な手のひらにクラフトが甘えてくれただけで、原人はたちまち大人しくなってしまう。そんな原人の気持ちを知り尽くしているが故の、クラフトのスリスリ作戦ではあったのだが…。

 仕方がない。それが女というものだ。

 そしてダニー・リーはクラフトをうまい事言いくるめて、北京原人を連れて香港へ行くことを納得させてしまう。そんな事が相手のためになるのかどうかという考えは、ダニー・リーの頭にはまったくなかった。

 仕方がない。それが男というものだ。

 結局、クラフトはダニー・リーに惚れた弱みでこれを承諾。ダニー・リーと一緒に行けばいいことがあると、クラフトは完全に思い込んでしまった。行きかがり上、北京原人もクラフトに惚れた弱みで一緒についていく事になってしまう。北京原人を香港に連れて行くのが、ダニー・リーの願いなのだ。今のクラフトには、北京原人がどうなるかを考える余裕なんてまるでなかった。

 仕方がない。それが女というものだ。

 ヒョウちゃん、さようなら。トラちゃん、さようなら。象くん、さようなら…。かくして山を下りたダニー・リー、クラフト、そして北京原人は、インドの都会にやって来た。北京原人の姿にインドの人々は唖然呆然。人々の反応に北京原人も興奮するものの、クラフトに厳しく言われれば大人しくせざるを得ない。理不尽ながらどうする事も出来ない北京原人は、仕方なくその場でフテ寝を決め込んだ。

 仕方がない。それが女というものだ。

 やがてダニー・リーは、いまだインドに滞在して酒池肉林を楽しんでいたクー・フェンを見つけた。クー・フェンも北京原人発見を知るや、俄然元気が出た。「よ〜し、こいつを貨物船に乗せて香港へ連れてくぞ!」

 というわけで、北京原人を乗せた貨物船は一路香港へ…。

 しかし「北京原人を乗せる」…と言っても、コトはそう言葉通りにはいかない。首輪をハメられ手かせ足かせをハメられ、全身を太いクサリにつながれて甲板に縛り付けられた状態だ。そんな北京原人を見つめて、クラフトは今更ながらに事態に気づき始める。「クサリはイヤがるの、放してやって!」

 ところがガハハ成金オヤジのクー・フェンは、まるっきりクラフトの言うことに耳を貸さない。「あいつが暴れちゃ船が危ないんだヨ」

 クラフトが気落ちして船室へと戻ってくると、あのダニー・リーが待っていた。彼女に贈り物だと言うのだ。「文明世界ではね、女はみんな服を着ているもんだ」

 日本の場合、むしろ女は服を脱ぎたがるヤツも多いのだが、ひょっとしたら日本は文明世界ではないのかもしれぬ。まぁ、それはともかく…どうもダニー・リーもクラフトの気持ちがまるで分かっていない。

 仕方がない。それが男というものだ。

 さらにクラフトが着替えをしようとしたその時、クー・フェンが部屋にズカズカ入ってくる。ジロジロとクラフトの肉体をなめるように眺めた末に、クー・フェンはダニー・リーを船のバーへと誘った。「さぁ、祝杯だ! オマエだってこれで歩合のカネが入ってくるぞ」

 まぁ、人間は所詮カネだ。世の中すべてカネなんだよ。昔のオレの女だって、カネが目当てで去っていった。

 クー・フェンとダニー・リーが船長たちと一杯やっていると、船員が血相変えて飛び込んでくる。それは行く手の天候について…何と台風が接近中だというのだ。

 船長は何とか迂回して様子を見ようと主張する。だが例によって例のごとく、クー・フェンはまっすぐ香港へ行く事を主張。イヤがる船長を契約をタテにとって無理強いさせた。まぁ、人間は所詮カネだ。世の中すべてカネなんだよ。

 こうして嵐の中、船は無理矢理荒れ狂う海を突っ走っていく。案の定、船は岩礁に乗り上げ、どうにもこうにも動かなくなってしまった。

 そんな嵐の甲板に飛び出したのは、北京原人の身を案じるクラフト。彼女は縛られた北京原人を自由にしてやろうと、クサリを固定する装置に飛びついた。彼女のやろうとしている事に気づいたダニー・リーもこれに協力。かくして北京原人のクサリははずれ、何とか上半身だけでも自由になった。

 「船を岩礁から放して!」

 北京原人は自由になった手で岩礁を力一杯押し、船は何とか脱出する事が出来た。こうして船は無事に香港へと到着したのである。

 北京原人を甲板に乗せて、香港港に意気揚々と入ってくる貨物船。その様子を見た香港の人々は、口々に驚きを隠せない。「ゴリラだ、巨大なゴリラがいるぞ!」「あいや〜!」

 ダニー・リーはクラフトに香港の街を見せて得意満面だ。「アレが香港で一番高い建物…コンノート・センター・ビルだよ」

 北京原人には、すでに晴れの舞台が用意されている。香港スタジアムでのお披露目だ。

 さてダニー・リーは上陸するや、あの弟と連絡を取った。何といっても実の弟だし、自分もこうしてサクセスした今ではわだかまりもない…はずだ。そこで弟に連絡すると、向こうも会いたいとテレビ局に誘って来た。そこでダニー・リーはクラフトを連れ、テレビ局へと駆けつける事にする。

 テレビ局では弟がダニー・リーを大歓迎。だがクラフトを見るや複雑な表情を見せる。だが鈍感なダニー・リーは何も気づかない。さらにその場を物陰から見つめるあの女…シャオ・ヤオの存在にも気づかなかった。

 案の定、シャオ・ヤオはこっそりダニー・リーを呼び出し、楽屋でヨヨと泣きを入れる。「バカだったわ、弟さんとは別れたの、またやり直しましょう」…てな調子で見え透いた言葉を連発。今度は北京原人発見でメンコの数が増したダニー・リーの方にまた戻ろうと必死だ。終始一貫、徹頭徹尾、テメエの得しか考えていないジコチューの権化。まぁ、人間は所詮カネだ。世の中すべてカネなんだよ。

 仕方がない。それが女というものだ。

 するとだらしない事に、ダニー・リーもそんなシャオ・ヤオにぐらついてしまう。どうせ女の本音はカネと分かっているのにダマされる。あげく抱きしめてキスする始末。アタマよりアソコが先に反応してしまう。

 仕方がない。それが男というものだ。

 だがそんなザマを、あのクラフトが見てしまった! しまった、マズイ、待ってくれ…と慌てふためいてみても、クラフトはジャングル仕込みの俊足で香港の街に消えていく。ダニー・リーは止めるシャオ・ヤオを突き飛ばし、我に返ってクラフトを追いかけてはみたが…もはや手遅れ。覆水盆に返らずだ。

 その頃、北京原人は香港スタジアムにいた。満場の観客の前で見せ物扱い。クサリにつながれ、数台のダンプカーに引っ張られる情けない姿。何が悲しくて香港くんだりまで来て、こんな目に遭わなきゃならないのか。見せ物扱いはあまりに哀れだ。

 そんな哀れを催す北京原人の姿を、クラフトは偶然テレビで見てしまう。そうなるとクラフトはいても立ってもいられず、香港スタジアムへと乗り込んだ。

 彼女がスタジアムに着いた時には、ちょうど見せ物が終わったところ。可哀相に原人は巨大なオリに入れられ、クサリにつながれた哀れな姿。おまけに原人の世話係と来たひにゃモラルもへったくれもなくて、原人を小突いて憂さ晴らしというテイタラクだ。慌てて止めに入ったクラフトまで突き飛ばす世話係だが、それはチト調子に乗りすぎた。自分の事はともかくクラフトがイジメられると、原人はさすがに黙っちゃいないのだ。

 あまりにあんまりな姿に涙するクラフトだが、今さらどうする事も出来ない。しかもそこに成金オヤジのクー・フェンが現れ、何だかんだとクラフトを連れて行ってしまった。抵抗すりゃいいのに、何でクラフトは丸めこまれて連れ去られてしまうのか。

 仕方がない。それが女というものだ。

 スタジアムそばのビルの一室にクラフトを連れ込んだクー・フェンは、ブランデーなんぞを無理矢理飲ませて彼女に襲いかかる。やっぱり最後はこれか。あくまで抵抗するクラフトは、逃げようとする時に窓のカーテンを引っ剥がす。これによって北京原人には、窓の中での出来事が丸見えになってしまう。

 ン? クラフトをひっぱたいて押し倒したクー・フェン…こいつは許せねえ!

 もうこれ以上は、仕方がないじゃ済まされねえぞ!

 そうなると北京原人はありあまるパワーを総動員。アッという間にクサリは引きちぎり、オリをブチ壊してオモテに飛び出した。

 巨大で怪力で怒り狂った北京原人が、大都会・香港の真っ直中に解き放たれてしまったのだ!

 

ミニチュア特撮の一種の「到達点」としての作品

 日本では和製カラテ映画の併映作品として上映されたこの作品が、香港映画…さらにアジア映画としては極めて珍しいSFスペクタクル作品であるということは、ロスト・メモリーズ感想文にも書いた通り。言うまでもなく、ハリウッドによる「キングコング」リメイク(1976)の便乗作品なのは明らかで、お話はモロに「そのまんま」だ。そして日本の「ゴジラ」シリーズの特撮スタッフが参加したという事も、みなさんご存じの通り。なぜかクレジットには「李義之」「徐炳光」という二人の「効果」担当の名前が書いてあるんだけどね。それともこの二人は、特撮スタッフという事ではないのだろうか?

 実は今回DVDで初めて知ったんだけど、この「北京原人の逆襲」の特撮には2つの日本特撮チームが加わったらしいんだよね(DVDに添付されている小冊子での、監督ホー・メンホアのインタビューによれば、3つのチームということになるが…)。最初はどうも「大魔神」などを手がけた大映の特撮スタッフが参加していたようで、それが数々の事情から作業が進まずに途中交代となったとのこと。ホー・メンホア監督によれば手際が悪く能率も悪かったための途中降板という話だが、実際には撮影途中で構想が二転三転、ある程度撮影したところでやり直しとなったようだ。

 DVDの映像特典には、最初の特撮スタッフによる古いバージョンの北京原人の映像が収録されている。その映像を見る限りでは、当初はもっと人間的な外見だった。まさに「北京原人」と呼ぶに相応しい姿をしていた訳だ。これならばこのタイトルも納得出来ないでもない。ところが途中でもっと「キングコング」スタイルに軌道修正され、現在僕らが見ることが出来る巨大ゴリラ怪獣の姿に変更されてしまった。まぁ、パクるんだったら徹底的にやれと言うことなんだろうか。

 面白いことに…修正される前の北京原人の姿って…僕がかつてテレビで見た雪男イエティ(1977)…これまた「キングコング」便乗のイタリア映画…に、見た目ソックリなんだよね(当サイトの思い出のテレビ駄菓子屋映画の項を参照のこと)。このへんの類似性については、便乗作品同士が刺激し合っていたからなんだろうか? ひょっとしたら「北京原人の逆襲」の前に「イエティ」が出てしまって、やるならいっそ完全にゴリラ怪獣にしてしまおう…と変わったのかもしれない。このへんの事については、今となってはもはや真相は藪の中だ

 そんな訳で「キングコング」パクりをモロ出しにしてしまった「北京原人の逆襲」だが、他の「キングコング」便乗作品と比較してみるとデキはかなり上の部類だと思う。

 先に挙げた「イエティ」などは、まるっきり低予算丸出しのお寒い作品でしかなかった。特撮さえ満足に出来てなかったからね。他にも「エイプ」(1977)というアメリカ・韓国合作のゴリラ怪獣映画があるようだが、これまた内容もかなりお寒いところに、合成が出来なかったのか特撮と実写場面がまったく絡まないというシロモノ。これは立体映画だということだが、相当デキの方はひどいらしい。ハッキリ言って、僕もあえて見たいとは思わないね。

 それに比べると、「北京原人」は香港映画として潤沢な予算を注ぎ込んだ作品なのは間違いない。何しろインドに長期ロケというだけでもお金がかかっている。いかにギャラが安かろうと、ヨーロッパからわざわざイブリン・クラフトなる金髪女優を呼んで来ている。そして先ほどの日本特撮スタッフの招聘だ。

 かつてのアジア映画界の中では、日本の特撮技術はトップレベルのものだった。そもそも前述「ロスト・メモリーズ」感想文で語った通り、アジア映画にSF映画というジャンルの作品そのものが極めて少なかった。だから特撮技術を根付かせるような土壌も必要性もなかった…と言うのが本当のところだろう。そこで、韓国の「大怪獣ヨンガリ」オリジナル版(1967)に大映スタッフが呼ばれたり、後には北朝鮮の「プルガサリ」(1985)に東宝スタッフが呼ばれたり、その他にも台湾やら韓国の特撮がらみの映画に日本の特撮スタッフが呼ばれるケースが多々あったと聞いている。この「北京原人」もそんな当時の傾向の延長線上にあったわけだ。

 しかも当時の日本の状況は…と言えば、映画界は完全にドン底状態だったという。大映は倒産したし東宝も「ゴジラ」シリーズが一時終焉を見ていた。当然特撮の仕事が不足していた事もあって、スタッフたちも腕を振るう機会が少なくなっていた。そんな彼らにとって、「北京原人」は決して単なるやっつけ仕事ではなかった。本気になってやらざるを得ない仕事だったわけ。

  DVD添付の冊子によると、監督として立ったホー・メンホアもショウ・ブラザースで「西遊記」(1964)を撮ったりして、特撮映画にある程度の造詣のある人物だったらしい。そのあたりでこの「北京原人」に起用されたのは言うまでもない事だろう。このあたりの事情はDVDの受け売りで申し訳ないが、ともかくそういう意味でもすべてにおいて満を持した作品ではあったはずだ。

 実際のところ、冒頭のヒマラヤの寒村の地震場面こそトホホな出来映えだが、後半の北京原人による香港攻撃場面はかなり凄まじい。結局は着ぐるみを使ったミニチュア特撮…と言ってしまえばそれまでだが、逆に言うとミニチュア特撮で出来る極限の贅沢を追求しているかのような、何とも見事な豪華セットに注目だ。とにかくここで建てられている香港の市街地のミニチュアセットのディティールの素晴らしさたるや…何とも緻密な作りだし、破壊した時の重量感がスゴイのだ。洗濯物が干してあったり建物の中に家具があったり、ホントにミニチュアがリアルなんだよね。あれにはビックリした。

 しかもセットをつくったスタジオ自体がかなり広大なようで、ヘリの見た目でカメラが上空から街全体を俯瞰するショットなんてスグレものの映像もある。かなり高いところから見下ろしても撮影出来るくらい、セットがバカでかくて広い範囲に建て込まれているのだ。これには度肝を抜かれたよ。これには相当カネをかけてるんじゃないだろうか? ショウ・ブラザースはかなり本気で、明らかに「大作」として取り組んでいるはずだ。

 唯一の違和感はスタジオ内のライティング。さすがに野外にオープンセットをつくる訳にはいかなかったんだろう。ピッカンピッカンにライトを当てちゃってるが、こればっかりはどうしようもない。ただし、それも場面が夜になるや否や、当然のごとく気にならなくなる。そうなるとセットがとにかくしっかり建てられているから、リアリティも俄然増してくるというもの。素晴らしいスペクタクル場面の連続になってくるんだよね。

 今後はどうしてもCGが特撮の主流となってくるだろうし、ミニチュア特撮が全面的に使われる映画も少なくなるだろう。そう考えてみると、この映画自体が極めてメモリアルな重要性を帯びてくる。いつかミニチュア特撮の一種の「到達点」として、「金字塔」的に見なされる日が来るのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッタもん映画が偶然描き出してしまった「恋愛の真実」

 そんな香港映画には珍しいSFパニック・スペクタクル大作ではあるが、正直言ってお話はかなりメロメロだ。マトモな脚本を想像していたら、かなり面食らうこと請け合い。

 何しろ冒頭から、北京原人は「いるに決まっている」という事になっている(笑)。そしてアッという間に北京原人捕獲のための探検隊が編成され、アッという間にインドへ旅立つ。ならば、何で15年も放置されていたのか…なんてヤボは言いっこなし。ここで象の大群やらトラやら底なし沼やら断崖絶壁からの転落やらが息つくヒマなく盛り込まれ、30分も経たないで北京原人登場となるからスゴイ(笑)。

 探険の途中も、キズついたインドのクルーをいきなり銃で撃ち殺しちゃったり(人権問題はどうなってるのか?)、探険隊長のはずの主人公が女との別れ話でグチグチ言ってたり…とまぁ、ヨレヨレの展開。特に探険隊長である主人公は、この後もかなり難アリのキャラクター。精一杯カッコつけて突っ張ってるけれど、何も考えてないアホとしか見えないデタラメぶりだ。それはこういう映画を見る上で言わない約束なんだろうけど、やはり見ていて少々恥ずかしくなってしまうのは如何ともし難い。

 北京原人が出てきてからも、女ターザン(!)もどきが登場してきてビックリ。そして彼女が登場するや、見ている側のこっ恥ずかしさもエスカレートだ。何しろいきなりスローモーションで野山を駆け回る二人…だよ(笑)。滝つぼで全裸で水遊びする二人って場面も出てくる。そこに甘ったるい英語の歌がかぶるという念の入れよう。イマドキ…いや、この映画の製作された1970年代だって普通はやらねえだろう。こりゃ見ていてホントに照れくさくなってケツがかゆくなるよ。

 何考えてるのか分からない主人公を演じているのは、ブルース・リーそっくりさんとして売り出したというダニー・リー。何とフィルモグラフィーを見ると、この作品に先立って特撮ヒーローもの(!)「中国超人インフラマン」(1975)なんてのにも出てるというから…「そういう位置づけ」の人なんだろう(笑)。問題の女ターザンを演じているイブリン・クラフトって女優さんは、これまで僕は一発屋だと思ってたんだけど、他にも作品があるんだね。しかも香港でももう一本出ているというから驚いた。ところで前にこの作品をテレビで見た時には、女ターザンの名前が「サマンサ」ってなってたはずなんだけど、この映画では「アウェイ」という名になっている。あの「サマンサ」ってのはどこから出てきた名前なんだろうか?

 ともかく彼女、本当にターザンよろしく「あ〜あ〜あ〜」と声を出すんだよね(笑)。一体なぜかは分からないが…。この金髪美女は、映画全編にわたって際どい衣装でウロウロするからかなり目の毒だ。

 いろいろなジャングルの動物とお友達…というあたりは、「シーナ」(1984)のタニヤ・ロバーツの先輩格とも言えるだろうか。主人公と出会ってからジャングルの楽園で恋愛感情を知っていくあたりは、「青い珊瑚礁」(1980)のブルック・シールズや「ブルー・ラグーン」(1991)のミラ・ジョボヴィッチ、あるいは「パラダイス」(1982)のフィービー・ケイツを連想させるところもある。

 しかし実際のところこのヒロインの発想の原点は、動物とお友達だったり男を知らずに一人ぼっちで育っていたり…というあたりからも、禁断の惑星(1956)のアン・フランシスにあるんじゃないかと思っているのだがいかがだろうか? 

 「禁断の惑星」でアン・フランシスを男手一つで育てた父親ウォルター・ピジョンは、実は潜在意識の「怪物」の正体でもあった。これに対して「北京原人の逆襲」で女ターザンを育てた「父親代わり」の存在は、巨大モンスターの北京原人そのものだ。このように両者のヒロインはいずれも「モンスター」に育てられ、外部から来た男(「禁断〜」では宇宙船船長、「北京原人〜」では探検隊隊長)に魅了された事から悲劇が起きている。これって意外に見過ごされている点だが、単なる偶然ではないんじゃないか?

 ともかくこの香港版「キングコング」のヒロインが、当のモンスターに育てられた美女である…という点は、この映画のかなり重要なポイントでもある。

 というのは…北京原人がこのヒロインの「保護者」(と同時に「恋人」)たる自覚を持っていた事から悲劇が始まるわけで、この点からして北京原人は、結局はヒロインと一方通行の感情しか持っていない「コング」と大きく性格が異なる。北京原人がヒロインと愛情を通い合わせていなければ香港まではついて来なかったし、彼女も主人公に愛情を持たなければ香港に来ようとはしなかった。

 ヒロインもそれまで北京原人に愛情を注がれていながら、ひとたび愛する男が出来たら一気に目がくらんでしまった。そうなると後先考えず、北京原人の立場などまるで考えずに行動してしまう彼女。これも言ってしまえばエゴだ。結構残酷な仕打ちとも言える。

 そんなアレもコレも何もかも百も承知の上で…しかも北京原人が香港に来ればどうなるかも当然分かっている上で…ヒロインと原人を香港に連れてこようとする主人公は、実はアクション・スペクタクル映画のヒーローとしてはいささか困った性格の持ち主でもある。ヒロインへの純粋な愛情からの行動という事になってはいても、どう考えても金儲けと名声のために彼女と原人を香港に連れてきたとしか思えないのだ。あるいはオノレのエゴのために、ヒロインがどうなるのか考えもなしに連れてきたとしか思えない。おまけに昔の逃げた女から迫って来られれば、たちまち気持ちがグラつくという情けなさ。わざわざジャングルを捨ててきたヒロインを考えると、あまりに無責任で呆れかえる。何だかムチャクチャ矛盾した、とても正当化出来ない考えの持ち主になっちゃってるんだよ

 まぁ、これらは映画の前半部分を見ても分かるとおり、ハッキリ言って杜撰で稚拙な脚本ゆえのキズでしかない。本来だったらヒーローである主人公を、こんなムチャクチャな設定にはしない。もうちょっとスジが通った感情の流れをつくろうとするし、観客の同情やら共感を得ようとするはずだ。ハッキリ言って脚本が思いっ切りヘタクソなわけ。だから主人公がすべての元凶になってしまうし、にも関わらずヒロインを助けようと奮闘するなんてまったく噴飯モノの設定になっているんだよね。

 だがこの「北京原人」では、オリジナル「コング」と違ってヒロインとの間に愛情が通い合っている設定になっている。物語の出発点から、そんな愛情ある関係が出来上がっている。おまけに北京原人とヒロインの心は、どこまでも限りなくイノセント。まるっきり無防備な状態なのだ。そして主人公の男のガキみたいな単細胞ぶりも、ある種の純粋性と見ればそう見えなくもない。

 だから…たまたま偶然が幸いしての事なのだが、映画全体がまるで“人を盲目にしてしまう愛情の残酷さを描いたお話”…というようにも見えてしまうのだ。そうした恋愛トライアングルを、徹底的にミニマルに描いた寓話とも見えてしまう。

 ちゃんと練り上げられた作劇法から考えれば、これはどうしようもない作品のはずだ。実際にバカバカしくもどうしようもないお話ではある。ところが主人公たちがあちこち矛盾して共感出来ない言動をしているのに、かえってそれが実際に「ありそう」なモノに見えてくる不思議さ。当然そんな深い事まで考えてつくったお話ではないのに、単にヘタクソでムチャクチャな脚本なだけなのに、妙に「主人公」「ヒロイン」「原人」の三者三様の恋愛模様がリアルに見えてきてしまう。

 確かに愛憎半ばする関係が錯綜する時、人は何ともひどい事を平気でやってしまったりするよね。ムチャクチャで矛盾した言動を弄したりもする。そんな忌まわしくも生々しいリアリティが、この映画になぜか宿っちゃったわけ。これはケガの功名と言うべきなのだろうか(笑)。

 だからどうしようもないヨレヨレなお話で…本来は笑って済ますべき映画なのに、なぜか見た後にメランコリックな印象が残ってしまう。エンディングに至っては、まるでヒロインと原人の「心中」であるかのように見える。イノセントだからこそ…愛に殉じる北京原人とヒロインの悲壮感が、見る者の心の中にどこか切なく残ってしまうのだ。そのあたりが、この映画の持つ忘れがたい魅力のゆえんかもしれない。

 ハッキリ言ってバッタもん「キングコング」、しかも怪獣とビキニ姿の金髪美女…という思い切りキワモノ狙いの企画、登場人物のメチャクチャな言動に満ちたボロボロな脚本…と、「トンデモ」映画になり得る要素が満載。実際、そういうゲテモノ扱いを受けてもいる。にも関わらずこの「北京原人の逆襲」は、見終わった後に妙に「愛すべき映画」という印象を残すのだ。

 それは、一つには気合いの入ったミニチュア特撮映像の見事さという事もあるだろう。

 だがもう一つには…ムチャクチャに矛盾する感情表現で描かれたヘタクソかつデタラメな脚本が、はからずも「恋愛感情の真実」を描き出しちゃったって事もあるんじゃないか? ちゃんとキレイに整えてつくられた映画にはないような、恋愛のリアリティが偶然生まれちゃったんじゃないか? それは大いにあり得ると思うよ。

 恋愛に陥った時の人間ってもの自体が、徹底的に矛盾して盲目で残酷で、しかもムチャクチャに共感できないエゴイスティックなものだからね。

 


猩猩王 (The Mighty Peking Man)

a.k.a. Goliathon

(1977年・香港)ショウ・ブラザース 制作

監督:ホー・メンホア

製作:ラミー・ショウ

脚本:ニー・クァン

プロデューサー:チャイ・ラン

出演:ダニー・リー、イブリン・クラフト、シャオ・ヤオ、クー・フェン、リン・ウェイツー、ツイ・シャオキョン

2004年10月16日・DVDにて鑑賞


 

 

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