「放射能X」

  Them !

 (2004/02/02)


 ここはニューメキシコ州の荒野。上空を飛ぶ偵察の小型飛行機に導かれ、一台のパトカーがひた走りに走る。実は何やら警察に通報があっての出動のようだが、駆けつけるパトカーの警官二人…巡査部長ジェームズ・ホイットモアと相棒のクリス・ドレイクにとっては、何やら半信半疑な怪しげな話でしかなかった。

 やがて小型機から、荒野に人影を確認したとの連絡が入る。パトカーの前に現れたその人影は、何と一人の少女だ。

 頭部が壊れた人形を抱えて、放心状態の少女…。

 ホイットモアたちが何を聞いても、口を一言もきかない。それどころか目はうつろで全く反応がない。この時初めて、ホイットモアたちは胸に不安を抱き始める。小型機からは前方にキャンピング・カーが停まっているとの報告があった。この少女も、おそらくそのキャンピング・カーと関係があるやもしれぬ。

 ところがパトカーでキャンピング・カーのそばに駆けつけたホイットモアとドレイクは、現場の状況を見て唖然となった。一体何者の仕業か、キャンピング・カーはメチャクチャに破壊されていた。当然の事ながら人影は全くない。このキャンピング・カーに少女の服の切れ端と人形の頭部の破片が落ちていた事からも、彼女がここにいた事は明らかだ。そして金が手つかずのまま残されている事から、物盗りの線も考えられない。不審を極めるのは、現場に散乱する角砂糖…。

 さらに地面には何やら妙な紋様が、足跡のように残っているではないか。とりあえずホイットモアたちは現場に鑑識と応援要員を呼んだ。駆けつけた鑑識たちも狐につままれたような表情だ。だがそんな一同に、何やら不思議な物音が聞こえてくる。

 一体何だ、この金属的な物音は…?

 さて現場が一段落した夕暮れ、ホイットモアとドレイクはパトカーに乗って、現場から少し離れた馴染みのジイサンの店に寄ることにした。ところがそこも人けがない。一歩店に踏み込んでみるとイヤな予感的中。店の中はメチャクチャに破壊されているではないか。だが、レジには金が残されたまま。やはり泥棒ではない。そして不思議なのは、またしても砂糖が詰められた樽がひっくり返され、中身がそこら中にブチまけられていること。

 やがて破壊されたガレキの下から、店の主人のジイサンの亡骸が発見された。こうなればこの事件は、もはやハッキリと殺人だ。ホイットモアは一足先にパトカーで報告に戻る事にして、現場保全のためにドレイクがその場に残る事になった。

 ところが一人残されたドレイクの耳に、どこからか聞こえてくる奇妙な音。そう、あのキャンピング・カーの近くで聞こえてきた、何やら耳障りな金属音だ。ドレイクは不審に思って、銃を構えて外に出ていく。

 銃声とドレイクの悲鳴があたりに響いたのは、それから間もなくの事だった…。

 警察の応援が駆けつけた時には、その場にドレイクの姿はなかった。責任を感じたホイットモアはさすがに落ち込むが、気を取り直して真相究明に意欲を燃やす。

 さて、例のキャンピング・カーの主は休暇中のFBI職員と分かり、FBIからもジェームズ・アーネスが応援に駆けつける。さらに例の店のジイサンの遺体の検視結果では、なぜか致死量の20倍もの蟻酸が検出されるではないか。あまりに奇怪きわまる事の成りゆきに、鑑識の調べた結果はすべてFBIに運ばれ、そこで詳しく再検討されることになった。その結果…巡査部長ホイットモアとFBIのアーネスにとって意表を突いたことに、農務省の要請で二人の科学者が派遣される事になったのだ。

 飛行機で現場に到着したのは、老齢のエドマンド・グウェン博士とその娘のジョーン・ウェルドンの二人。うら若いウェルドンの登場にFBIのアーネスはヤニ下がるが、このウェルドンは単にグウェン博士の愛娘というだけでなく、自身もすぐれた科学者というから驚いた。そもそも今回の事件の捜査になぜ農務省から派遣された科学者が参加するのか、ホイットモアもアーネスもまるで見当が付かない。その理由を尋ねようにも、グウェン博士もウェルドンも、まずは調べてから…とにべもない。そしていきなりグウェン博士が尋ねて来た質問が、これまた意表を突いたものだった。「1945年に最初に原爆実験が行われたのはどこかね?」

 それは確かにこの近く、ホワイトサンズという場所だ。だが、それが今回の一連の事件とどう関連があるのか。ホイットモアもアーネスも、まるで見当が付かない。

 次に両博士は、あの救出された少女を病院に尋ねる。だが少女はまったく無反応な状態のままだ。おそらく何らかのショックで逃避状態になっているのに違いない。この状態を回復させるにはショックを与えるしかない…とつぶやいたグウェン博士は、蟻酸の液体を垂らしたコップの水を少女の鼻先に差し出した。すると…コップの水の臭いを嗅いだ少女の顔が、みるみるうちに不安にゆがむではないか!

 「あいつらよ!」

 少女は幸いにも意識を取り戻したものの、「あいつら」「あいつら」と絶叫しながら脅え切る。だがグウェン博士とウェルドンはそれだけ見てとれば充分とばかり、ホイットモアとアーネスに現場へ向かうように指示するのだった。

 外は激しい突風が吹き荒れる。砂漠の荒野は砂埃舞い散って目も開けられないような状況だ。そこをゴーグルをつけて調査を始める博士たち。するとどうやら、グウェン博士とウェルドンは何らかの仮説にたどり着いたらしい。「この大きさからすると、体長は2メートルには及ぶ」とか「食料がないので肉食に変わる可能性がある」とか、同行のホイットモアとアーネスにとっては禅問答みたいなやりとりが続く。これには二人もたまりかねて、思わずグウェン博士にブーたれ始めた。「一体何なんですか? ワケを教えてもらえなければ、これ以上我々もご協力出来ませんよ」

 そんなスッタモンダを横目に、さらなる証拠を求めてウェルドンは他の三人から離れて行った。ところが幸か不幸か、証拠の方からウェルドンの前に歩いて来たからビックリだ。もちろんBGMはあの不思議な金属音。あれこれしゃべっていたグウェン博士、ホイットモア、アーネスがその音に気付いた時、突然鋭いウェルドンの悲鳴が聞こえて来るではないか。

 何だなんだ?

 ウェルドンが見上げる小高い地面の盛り上がりに、何やら得体の知れないシロモノが…長い触覚、巨大な眼、黒光りする胴体…な、何とそこに現れたのは…。

 誰も今まで見たこともないような、恐ろしく巨大な蟻ではないか!

 「大変だ!」

 ホイットモア巡査部長とFBIのアーネスは、この巨大蟻めがけて銃弾を雨あられと浴びせる。だが巨大蟻は一向にこたえた気配がない。そのままジリジリとウェルドンの方に近づくばかりだ。

 「触覚だ、触覚を狙え!」と見かねたグウェン博士のアドバイスが飛ぶ。二人がこのアドバイスから触覚を次々狙うと、巨大蟻は情けない様子でスゴスゴ逃げ出した。

 そう。博士たちが恐れていた事態…それは巨大蟻の存在だった。日本を攻撃した原爆…その開発のための原爆実験が、この恐るべき変種を生み出してしまったのだ。

 早速飛行機二機を飛ばしてあたりの捜索が始まる。巨大蟻がいるならば、その巣が近くにあるはずだ。案の定、付近にすり鉢状の巨大な穴が発見された。しかもそこから顔を出す例の巨大蟻。巣穴の周りにはいくつもの人骨が散乱していた。そして行方不明になったドレイク巡査のガンベルトも…。

 この異常事態に、ついに軍が本格的に乗り出す。グウェン博士が考え出した作戦はこうだ。蟻は夜中に巣穴から出てくる。そこで昼間に巣穴近くを熱して、彼らを巣の奥深くに追い込み、中にシアン・ガスを放り込んで一気に壊滅を図る。

 かくして作戦は実行に移された。軍によって巣穴付近のバズーカによる一斉攻撃が始まる。そしてシアン・ガスの投入。しばらくして、ガスの防護服に身を包んだホイットモア、アーネス、ウェルドンが巣穴に潜り込む。

 見るとシアン・ガスの効果はてきめん。巨大蟻たちがバタバタ倒れている。途中、突然壁が崩れてきて、中からガスに襲われなかった巨大蟻が襲ってくる一幕もあったが、これも火炎放射器で退治した。これで万事オーケーか。

 だが巣穴の最深部にやって来た三人は、そこで戦慄すべき光景を見る。巨大な巣穴全体に、巨大蟻のおびただしい数の卵が産み付けられていたのだ。しかもその中に二つ、かえったばかりの卵の殻が残されているではないか。しかもこの卵は女王蟻のものだ。

 ともかくこの卵を始末しなくてはならない。ウェルドンは珍しく声を荒げて叫んだ。「燃やして! 全部焼き尽くしてちょうだい!」

 かくして巨大蟻の卵たちに、容赦ない火炎が浴びせかけられる…。

 作戦終了後の会議で、グウェン博士の表情は浮かなかった。すでに女王蟻二匹が脱出してしまっている。しかも巣の中には羽根をつけた蟻の姿はなかった。女王蟻二匹は、おそらく羽根のあるオスとともにハネムーンに出かけてしまったのだ。

 ワシントンで、巨大蟻についての緊急対策会議が設けられたのは、間もなくの事だ。オスは女王蟻と交尾すれば用なしですぐに死ぬ。だが交尾した女王蟻はどこかに巣をつくり、そこで延々と卵を産み続ける。そうなったら手が着けられない。人類の存亡にも関わる。

 早速対策本部が設けられ、不審情報や事件の報告が集められた、まずはテキサスからの宇宙船目撃報告だ。早速アーネスとウェルドンが飛ぶ。

 この報告を寄せた男は、今は精神病院に閉じこめられていた。彼は飛行機のパイロットで、飛行中に三機の宇宙船を目撃したというのだ。しかもそれは蟻のカタチをしていたと言う。間違いない。

 それから間もなく、太平洋上の貨物船からのSOSが入ってきた。何と船の中に巨大蟻が大量発生したと言うのだ。数少ない生存者を収容した後、巨大蟻を満載した貨物船は海軍の戦艦によって撃沈。女王蟻以下すべての巨大蟻は海の藻屑と消えた。

 さてもう一匹の女王蟻はどこへ?

 アメリカ大陸の各地から、オスの蟻の死体発見報告が寄せられていた。その最後のものはロサンゼルス近郊だ。そしてまたしても奇妙な報告が寄せられた。貨物列車に積まれた何トンもの砂糖が奪われたと言うのだ。

 やがて同じロス近郊で、早朝子どもを連れて遊びに出かけた男が惨殺されたとの報告が寄せられる。連れていた二人の子どもは行方不明。悲嘆に暮れる母親の表情を見ながら、アーネスたちの目には緊張がはしる。

 奴らはこのロサンゼルスにいる!

 やがて病院に収容されているアル中のヨタ話から、巨大蟻たちがロス中心を流れる川に出没するらしいと分かる。この川には地下に続く巨大な下水口が伸びていた。周辺にお約束の奴らの痕跡も残されていたのは言うまでもない。

 奴らは地下に広範囲に広がる下水口にいる!

 テレビもラジオも放送を中断して、対策本部長からの緊急の記者会見が流された。ロサンゼルスは一気に戒厳令だ。陸軍、海兵隊などの大部隊が動員され、市内は騒然となった。

 中にガソリンを撒いて一気に燃やしてしまうという強行意見もあったが、中にいる子ども二人の生命を優先してこの案は退けられた。それにまず、新たな女王蟻が生まれていないか確認しなくてはならない。かくして下水口の各所の出口は軍によって掌握された。

 ホイットモア、アーネス、ウェルドンはじめ大部隊は、川の下水口から一気に敵の牙城めがけて突入した!

 

 

 映画が始まって早々、いきなり画面にド〜ンと「THEM !」と真っ赤なタイトル文字がデカく出てきたのには度肝を抜かれたね。モノクロ映画だとばかり思っていたから、ここだけのパートカラーにビックリした。このケレン味が嬉しいじゃないか。この冒頭のタイトル文字以外にはまったくパートカラー処理がされてないという、無駄な贅沢さがまた嬉しい。

 ちなみにこの原題名「THEM !」とは、現場で発見された放心状態の女の子が、蟻酸の匂いを嗅いだとたん悲鳴と共に発声する「あいつらよ!」という言葉のことだ。このへんもちょいとシャレてるね。

 この映画、僕は小学校の頃にテレビの洋画劇場で見ている。父親が「面白いゾ」と教えてくれたので、テレビにかじりついて見た記憶があるのだ。僕の父親は若い頃いっぱしの洋画ファンだったから、僕は子供の頃からいろいろな映画をテレビで見せられてはいた。だが、父親は決してSF映画ファンなどではなかったから、この映画を見ていたのは極めて異例に違いない。そもそも昔は、SF映画と言えばゲテモノ扱いだったからね。逆に言えば、この映画って一般の映画ファンが見に行ったくらい、当時相当の話題作だった可能性があるわけだ。

 実際この映画って、SF映画の中でも古典の部類に入る扱いを受けているよね。そしてDVDパッケージに書いてもあるように、ジェームズ・キャメロンの「エイリアン2」(1986)に与えた影響は絶大だ。今回改めて見てみても、物語の前半に一人生き残った少女が出てくるあたりといい、その少女が怪物(巨大蟻またはエイリアン)に襲われたショックで最初口をきかないことや人形を常に抱きしめていること、さらに巣の中に生みつけられたおびただしい数の卵と、それを火炎放射器で焼き払うあたり…確かにこの映画のそこかしこに、「エイリアン2」の類似性は見てとれる。影響か模倣かリスペクトかはともかく、それだけこの「放射能X」が偉大な作品である事は明らかだよね。

 ただしストーリー的には、「エイリアン2」などより関連性のある作品が別にある。それは先にこの「SF映画秘宝館」でも取り上げた、レイ・ハリーハウゼンの初期作品「水爆と深海の怪物」(1955)だ。

 怪物が核実験の産物であること、怪物の調査のために派遣された科学者の一人が若い女性であること、主人公格の男性キャラがこの女性科学者に惹かれていくこと…に始まって、怪物の捜索過程で狂人扱いされた目撃者を精神病院に訪ねたり、怪物が洋上の船を襲ったり…と、ディティールから全体構成に至るまで非常に類似点が多い。まぁ、この手の怪獣が出てくるSF映画の典型的ストーリーと言えばそれまでなのだが、それにしたって設定や細部まで共通点がありすぎ…と思ったら、「放射能X」の原案を書いたのは「水爆と深海の怪物」の原案・脚本家ジョージ・ワーシング・イエーツではないか。この人、SF、ホラー、ファンタジー映画一筋の人だったようで、後にまたしても核実験巨大化モノ「巨人獣」(1958)の脚本も書いているから、このネタはお手のものだったのだろう。

 ただこの作品、SF映画を手がけたことがあるスタッフはこのワーシング・イエーツだけ。監督のゴードン・ダグラスが犯罪アクション、西部劇、戦争映画などなど、手堅くつくる職人であるのを初めとして、制作や脚本に至るまで他にはSF映画に関わった人間は皆無だ。当時は一般的に、SF映画やホラー畑の作品をつくったスタッフは、大概その手の作品に関わり続けるのが普通。それが原案者以外まったくいないというのは、おそらく当時としては異例のことだ。で、実はここらあたりが「放射能X」の非凡さの理由だと思うんだよね。

 SF・ファンタジー系の作品なら付き物なのが、ミニチュア撮影やオプティカル合成、あるいはストップモーション・アニメといったトリック撮影…いわゆる特撮の技法だ。だがこの作品にはこの手のSF映画に欠かせないトリック撮影の技法の数々が見られない。火薬や火炎を使った特殊効果や、動く巨大な怪物の製作などは行われているが、巨大蟻の一コマ撮りのアニメとかミニチュア模型は出てこない。人間とのアクションでも合成はされない。何と原寸大の巨大蟻の動くモデルを設計し、これをそのまま画面に登場させて俳優とのライブ・アクションの一発撮りを行っているのだ。それ以外の手法はまったく使われていない。

 ミニチュア撮影やオプティカル合成、あるいはストップモーション・アニメといったトリック撮影は、確かに味のある技法でSF映画を見る楽しみの一つではある。ただ、それこそがSF映画がガキ向けとかゲテモノ扱いを受ける理由でもあった。トリック撮影はあくまで代用…まがいもんだ。その(特に当時の技術ではどこをどう見てもまがいもん以外の何モノにも見えなかった)まがいもんをあくまでリアルと見る、そんな作り手と見る側のお約束の下に成立するSF映画ってのは、やっぱりどこかインチキ臭いシロモノだったし、子供っぽい駄菓子まがいのモノと見られても仕方なかっただろう。少なくとも、大人が見るべきシリアスなものとは見なされなかったはずだ。

 そしてSF・ファンタジー系の作品に慣れ親しんだ作り手の側も、やはり心のどこかでこの手の作品を「そんなもん」と思い込んで決めつけてつくっているきらいがあった。SF・ファンタジー系の作品だからトリック撮影…という、ルーティン・ワーク的なところがあったと思うんだよね。

 ここで改めて言い添えておけば、だからと言ってそんなトリック撮影に支えられた作品群の価値を貶める気持ちはないんだよ。その楽しさや味わいは、誰よりも1950年代あたりのSF映画を愛する僕が痛感している事だ。だが一方で、そんなワンランク下的な扱いを受けかねない側面を持っていたし、作り手自身がそう思っていた部分もあったと思うんだよね。

 ところがこの映画の作り手たちは、そうしたSF・ファンタジー系の作品の経験がなかったし縁もなかった。どういう経緯でこの企画が立ち上がり、制作に至ったかは分からないが、彼らはそれまで…そしてその後もSF・ファンタジー系に関わる事はなかった。ただ「放射能X」だけが唯一の例外だったのだ。

 だから彼らはそれまで関わった犯罪アクション、西部劇、戦争映画などなどを撮るがごとく、ごく当たり前に巨大蟻の原寸大のモデルを制作し、それが生きているかのように操作し、さらには俳優とのツーショットをライブ・アクション一発撮りで撮影した。まぁ、西部劇に出てくる列車をミニチュアではつくらないだろうし、戦争映画の戦車をアニメで動かしはしまい。彼らとしてはことさらにSF・ファンタジー系の作品という気構えはなく、ごくいつもと同じように映画づくりをしたまでだ。で、いつもと変わらず仕事を進めた中に、トリック撮影という選択肢はなかった。

 ところが結果的に、それが映画をワンランク上に見せてしまった。一発撮りで原寸大の巨大蟻が暴れれば、それはリアルだ。そして実際に制作規模が大きかった事も、多数の軍隊が動員されるロサンゼルス戒厳令の場面を見れば明らかだ。終盤には軍隊対巨大蟻の壮絶な戦いが地下で繰り広げられ、そこでは原寸大の巨大蟻がこれでもかこれでもかと出てきて火炎放射器のホンモノの炎に燃やされる。これはかなり怖いよ。この映画はきっと当時ちょっとした大作だったんだよね。SF映画畑とは無縁の映画人たちが起用されたのも、そのせいかもしれない。だってこの当時の作品にして、チャチさとも安っぽさとも無縁な映画に仕上がっているんだからね。

 だから映画全体もリアルな迫力で仕上がった。後半の戒厳令から軍隊投入のくだりなんか、ある意味でわが国の平成「ガメラ」三部作を思わせるようなシミュレーション・ドラマの緊迫感があるよ。

 さらにテーマもちょっと辛い。核実験が怪物を誕生させてしまう…という設定こそ原案者ジョージ・ワーシング・イエーツの「水爆と深海の怪物」「巨人獣」などに通じる十八番。だが、この「放射能X」のそれは、これら一連の作品に先立つものだけにインパクトが違う。この作品ではそれは、「あの1945年の最初の核実験」…と、広島・長崎原爆開発時のものであることが特定されるのだ。

 こう考えてみると、この蟻のドラマが核実験場のホワイトサンズ付近で始まり、最後日系人と何かと縁のある太平洋側のロサンゼルスで幕を閉じるのにも何か意味があるのでは…という気がしてくる。

 それはともかく、この蟻の脅威が原爆を開発した人類=アメリカ人の驕りの結果であるというメッセージは、確実にそして執拗なまでに繰り返される。そしてエンディングには、これがまだまだ続く可能性があると暗示して不気味に終わるんだよね。それは未来への暗い予感を漂わせるアンハッピー・エンディングだ。

 もちろんこの1950年代のSF映画の豊作ぶりは、米ソ冷戦、核戦争の脅威、アメリカにとっての共産主義の脅威…などなどの、外的政治的要因にかなり支えられている。隣りの人間がコミュニストのスパイかもしれない…という恐怖が、いわゆる「ボディ・スナッチャー」モノの制作を促した事は有名だ。だがその中にあって、この作品の言わんとしている事の鋭さは異彩を放ってる。それはおのれの奢りがとんでもない災厄を招く事への切実な危機感だ。

 子供っぽくてもチャチでもトリック映画は楽しい。だけどその一方でこの作品は、あきらかに大人の映画としてその偉容を誇っているんだよね。

 


Them !

(1954年・アメリカ) ワーナー・ブラザース=ファースト・ナショナル映画 製作

監督:ゴードン・ダグラス

製作:デヴィッド・ワイスバート

脚本:テッド・シャードマン、ラッセル・ヒューズ

出演:ジェームズ・ホイットモア、エドマンド・グウェン、ジョーン・ウェルドン、ジェームズ・アーネス、オンスロー・スティーヴンス、フェス・パーカー、ショーン・マクローリー

2004年1月20日・DVDにて鑑賞


 

 

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