「宇宙戦争」

  The War of the Worlds

 (2004/03/15)


 複葉機がまだ空で活躍していた第一次世界大戦…そこでは初めて近代兵器が使用され、各国が二つに分かれて戦った。さらに第二次世界大戦…そこでは戦火は全世界に拡大し、さらに強力な偉力を誇る兵器が戦いの雌雄を決した。次にやって来る戦争は…それはもはや地球の域を飛び越えた戦争=宇宙戦争になるであろう…。

 

 20世紀中頃から、ある一つの天体が地球をじっと観察していた。その名は火星。

 火星には知的生命がいて、独自の高い文明を築いていた。だが火星は徐々に衰えており、その大気は薄く地表は冷え切っていた。火星の知的生命たちは、その文明力で太陽系内に必死に移住先を探していたのだ。

 まずは冥王星。だがそこはあまりに冷たい世界で何もかもが凍り付いていた。

 次に天王星と海王星。それらも冷たい場所で、大気はメタンやアンモニアという劣悪な環境だった。

 土星は、周囲を回る輪が火星人の目に魅力的に映った。しかし地表はやはり凍える寒さだ。

 木星は火星に比較的近い方の惑星だが、濃い大気の下は苛酷な環境で、しかも気圧が異常に高かった。

 では太陽に近い水星は…と言えば、そこには大気がなく、地表は鉛さえ溶ける温度だ。

 そうなると…もはやここしかない。緑の惑星・地球。火星人にとって、水と緑溢れる地球はノドから手が出そうなほど理想的な環境だったのだ。

 だが地球人はそんな火星人の思惑などまったく知らなかった。それどころか火星人の存在さえ知ってはいなかった。火星が地球に大接近した、あの年の夏がやってくるまで…。

 

 アメリカ・カリフォルニア州にある田舎町の空に、大きな流星が見えたのはある夜の事だった。それは町の人々の見ている前で、裏山に勢いよく落下した。流星が落ちたと思われる地点からは、山火事が発生したのか炎と煙が上がっている。退屈な田舎町での事だ。保安官、消防士、それにお呼びでない野次馬たちまでが、たちまち落下地点へと駆けつけた。

 そこには高熱を発する隕石状の物体が落下していた。周りの森林火災は消し止めたものの、肝心の隕石は一向に冷めない。ともかくこういう時は専門家だ。幸い近くの行楽地に大学の学者連中が遊びに来ていると言う。そこで保安官はこの隕石調査のために一肌脱いでもらうように頼みに行く事になった。

 さて翌朝になると、隕石周辺にはさらに多くの人だかりがいた。子供を前に立たせて記念撮影する者、ここに屋台を出して一儲けしようと相談する者…と、みんなてんでに好き勝手な事をやっている。

 地元の学校の女教師アン・ロビンソンも、ウワサを聞いて隕石を見にやってきた一人だ。彼女は落下現場で、一人の若い男と出会う。その男こそ保安官が呼んで来た専門家…天文学・物理学の学者ジーン・バリーだった。

 彼はまず隕石にしてはクレーターの浅い事が気になった。さらにガイガーカウンターが強い放射能を検出したのも驚いた。あの隕石はものすごく軽いか、ひょっとしたら中は空洞ではないのか? だがその場で知り合った女教師ロビンソンと親しくなるのに夢中で、それ以上深く考えなかったから困ったものだ。ともかく隕石が冷めてから…などと言いながら、今夜のこの町のビッグ・イベント、スクエアダンス・パーティーに出席する事で頭が一杯。ロビンソンの叔父でもある牧師のルイス・マーティンをも抱き込んで、彼女との仲を取り持ってもらおうとバリー博士は必死だ。隕石の事など考えている余裕がなかった。

 というわけでいざという時のために現場に3人の男たちを残して、みんなは町のダンス・パーティー会場へと繰り出した。もちろん我らがジーン・バリー博士も、女教師ロビンソンと踊ろうと意気揚々と出かけたのは言うまでもない。

 ところが現場では異変が起きていた。隕石の上部で動きが見られたのだ。色めき立った見張りの3人がよくよく見つめると、それはどうやらグルグル回っているようだ。どうもネジ状の一種のフタがはずされようとしているのだった。案の定フタが回り切ってはずされると、そこにはポッカリと穴が空く。中には確実に何者かがいるに違いない。

 3人男は慌てに慌てたが、これが宇宙からやってきた乗り物であるという意見は一致した。今ちょうど地球と火星が接近している。ならば、あれは火星人の乗り物ではないか。火星人の地球訪問と来れば、相手に敵意がない事を知らせねばなるまい。かくして3人男は白旗を立て、自分たちが友好的な人類である事を知らせるために近づいて行った。

 例の穴からは不思議なモノが姿を見せた。それは角のようなノズルのような細長くしなった物体だ。まるで辺りを伺うように左右へと首を振る。やがてこのノズルは3人男を目に留めたらしく、彼らに向かって固定した。

 ビュビュビュビュビュビュ!

 ノズルの先から突然まばゆい光線が発射されて、3人男は一瞬にして消え失せた!

 一方、同じ頃ダンス・パーティー会場でも異変が起きた。突然の停電だ。見ると町中が停電している。発電所に電話しようとすると、なぜか電話も不通になっている。さらに奇妙な事に、みんなの腕時計まで止まっている。事情を察したバリー博士が腕時計に鉄製のモノを近づけると、それは腕時計に吸い付いたではないか。なぜか腕時計は、みんな磁石と化していたのだ。

 こんな事が起きる原因はたった一つしかない。あの隕石だ。折しも例の落下現場から再び山火事が出火している。バリーは保安官と共に、急いで落下現場へ駆けつけるのだった。

 行ってみると、確かに再び高熱を発するような出来事があったようだ。そして地面にはあの3人が焼き尽くされた影が…。一体何があったのだ?

 そんなバリーや保安官に向かって、隕石から伸びるノズルがゆっくりと狙いを定める。

 「危ない!」

 だがバリーのその言葉が発せられるや否や、保安官助手は保安官とバリー博士をその場に残したまま、いきなりパトカーを発進させた。ところがそんな慌てた対応が裏目に出てしまう。

 動く物体を認識した例のノズルは、またしても怪光線を発射した!

 パトカーは爆発炎上。保安官とバリー博士は、何とか難を逃れた。いまや事の重大さを認識した保安官は、急いで警察本部に連絡しなければ…と口走る。だが、その言葉をバリー博士はさえぎった。

 「軍隊に連絡してください! でないと、とても手に負えない」

 やがて陸軍が動員され、あたり一帯が包囲される。ラジオ局のレポーターもやってきて、辺り一帯にものものしい雰囲気が漂う。やがて戦闘機から照明弾を投下して敵の様子を伺うが、そこにはブーメラン型というかコウモリ型というか、火星の戦闘機が空中に浮かんでいた。どうもこの敵戦闘機は、一種の電磁波で飛行するらしい。例の怪光線で攻撃を仕掛けてくるや、軍の歩兵部隊は赤子の手をひねるがごとく後退せざるを得ない。「これではダメだ! 増援を呼べ!」

 かくして戦車隊も登場しての本格的攻撃態勢が敷かれる。レス・トレメイン将軍自ら登場し、臨戦態勢のピリピリした空気が流れる。

 実は例の隕石が、米国の各地に落ちたという連絡が入っていた。それだけではない。イタリア、スペインなどヨーロッパ各国にも…そして他の地域においては街一つを一瞬にして消滅させたという報告も届いていたのだ。ここが天下分け目の正念場だろう。

 だが女教師ロビンソンの叔父マーティン牧師は、この様子に一人心を痛めていた。何も意思の疎通を図らずに攻撃するのはよくない、まず対話をしなければ…すでに街が一つ消滅させられていれば充分だと思うのだが、なぜか妙な義務感を感じたマーティン牧師は、誰にも打ち明けずに一人で聖書をかざしながら火星戦闘機に向かって近づいていく。

 「我、死の谷を歩まんとも恐れじ…」

 だがそんなマーティン牧師の祈りも虚しく、火星戦闘機の怪光線がうなりを上げたのは言うまでもない。

 このマーティン牧師の無惨な最後は、軍の戦闘意欲をいやが上にもかき立てた。「よぅし、牧師さんの弔い合戦だ、攻撃開始ぃぃぃぃ〜!」

 砲台が戦車砲が、一気に猛烈な唸りを上げた!

 激しく立ち上る火柱、噴煙、すさまじい地響き。まさに集中砲火とはこの事だ。だが、火星戦闘機は一向にこたえていない。それもそのはず。火星戦闘機はすべて何らかのバリアを張って、こちらからの攻撃を無効にしていたのだ。しかしバリアはあくまで電磁波によるものだから、奴らからの怪光線は素通し。こちらからの攻撃には屁のカッパの一方で、しっかり地球側の手勢を次々粉砕していく手際の良さだ。これには余裕綽々だったトレメイン将軍もすっかり余裕がなくなる。「ただちにワシントンに連絡だ!」

 前線基地からみんな慌てて逃げの一手で撤退するが、バリー博士とロビンソンはついつい逃げ遅れ、たまたま近くに着陸してあった小型機に乗り込む。しかし下手に飛び出すと火星戦闘機の餌食にされるので、超低空で這うように飛ぶしかない。しかしそれには無理があった。小型機は木の枝に引っかけて墜落。バリー博士とロビンソンは、火星戦闘機がウヨウヨするまっただ中に放り出される事に相成った。

 それでも何とか辺りが静まり、バリー博士とロビンソンは空き家となった農家へと逃げ込む。こうなりゃ腹ごしらえ…とばかり、ロビンソンは目玉焼きを4つもこしらえてやる気マンマンだ。

 幸か不幸か敵の懐に転がり込んでしまった二人。これをチャンスに何とかあの火星人たちの秘密を知り、弱点を探りたい。軍の兵器がまったく歯が立たない今となっては、「生き物には必ず弱点がある」という一点に賭けるしかないのだ。

 そんなどん詰まり感の中で、ロビンソンは幼い頃の思い出を打ち明ける。「昔、すごく怖かった思い出があるの。迷子になった時に仕方なくて教会に逃げ込み、扉の影で脅えながら誰かが探しに来るのを待っていた」…その探しに来てくれた人とは、先ほど火星人の餌食になった叔父のマーティン牧師だ。それを思い出して改めてロビンソンは涙を流す。

 ところがそこに、あの隕石状の火星からの飛行物体が墜落した!

 飛行物体は二人が隠れていた農家にまで突っ込んできた。その衝撃で気を失ってしまう二人。ようやく気がついた時には、崩れかけた農家の周りにはあの火星戦闘機がウヨウヨ。何やら周囲を探索しているようだ。

 「奴ら人間を生け捕りにしようと思っているらしい」

 偵察用の道具と思われる、胃カメラが大きくなったような機械がクネクネとうねりながら家の中に入ってくる。その先端はなぜか赤・青・緑の三原色に分かれていた。やり過ごしたと思いきやこの偵察装置に見つかってしまう二人。思わずバリー博士は近くの廃材で殴り掛かり、この偵察装置の先端部分をもぎ取ってしまう。その姿はまさに野蛮人そのもの。

 さらに火星人たちは地上に降り立ち、あたりを捜索しているようだ。そんなこんなでドキドキしながら隠れていたロビンソンの肩を、リストラ・オヤジみたいにポンッと馴れ馴れしく叩く奴がいた。

 一体何だ?と振り返ったロビンソンの前に立っていたのは…。

 三本指の細い腕、頭と首のない不格好な胴体、さらに胴体のど真ん中に三原色の目を持った…それは初めて至近距離で見る、未知の火星人の姿だった。

 「キャ〜〜〜〜!」

 バリー博士はロビンソンの悲鳴に気づき、慌てて懐中電灯で火星人を照らす。するとまぶしいのは苦手なのか火星人は一瞬ひるんだ。その隙に木材でボカスカと火星人をブン殴るバリー博士。これはたまらんとばかり、火星人は慌てて逃げ帰るのだった。

 こうして火星人の手から逃れて、その場を逃げ出すバリー博士とロビンソン。手みやげは火星戦闘機の偵察装置と、ロビンソンのスカーフに付着した火星人の血液だ。

 その頃、世界は着々と火星人の制圧下に置かれていった。インド政府は首都を明け渡し、避難先から指揮することを余儀なくされていた。ボリビア軍も中国軍も参戦したが、どうしたって苦戦一方だ。火星人はロンドンを重要な軍事拠点と位置づけて総攻撃。イギリス人は勇猛果敢に抵抗したものの、結局陥落した。そんな地球側連合軍の総本部は、唯一火星人の攻撃にさらされていない軍事拠点・ワシントン。そこに世界の軍事責任者が集結して、日夜反撃の方策を練っていた。しかし、妙案など浮かぶアテもない。

 「こうなれば仕方がない。放射能の心配で避けて来たが、原子爆弾を使うしかないだろう」

 こうしてついに原爆の使用が本決まりになってしまった。その初の使用が行われるのは、火星人飛行物体の一号機が墜落したカリフォルニア州の郊外。どうもあの一号機の連中が前線司令部になっているようなのだ。まずはそこを叩く。

 一方、ロビンソンを連れたバリー博士は、ロサンゼルスの大学に戻ってきた。彼は自分のスタッフを召集して、持参してきた探査装置と血液を調べさせる。独特な見え方のする火星人の視界とか、血液から分かった脆弱な肉体とか…いろいろ興味深い事実は掴めたものの、それが反撃の糸口になるとは到底思えない。

 そんな折りもおり、バリー博士、ロビンソン以下の大学スタッフたちは、トレメイン将軍指揮する原爆投下に立ち会う事になった。これが成功すれば一気に挽回出来る。だが成功しなかったら…スタッフの試算では、火星人の地球完全制圧まで、残るところあと6日で足りるという。それを聞いたロビンソンが漏らした一言は、その場の全員を凍り付かせるに充分だった。「6日って、天地創造と同じ日数でやられるのね」

 ともかく原爆を積んだ爆撃機は、火星戦闘機の上空へとやってきた。一同はゴーグルをかけて、土嚢を積んだシェルターに避難する。そして投下の瞬間はついにやってきた!

 ピカッ!

 ド〜ンと爆風と押し寄せて、ものすごい衝撃波でみんなが吹っ飛ばされる。そらには巨大で不気味なキノコ雲が立ち登ぼる。

 今度こそ何とか敵をしとめただろうと、安心しきって望遠鏡で覗いてみたら…キノコ雲をかき分けて、お馴染みの火星戦闘機が姿を見せるではないか。

 失敗だ!

 もはや打つ手はない。だがガックリしている暇はない。トレメイン将軍は何とか出来る限り長く火星人をくい止める事を誓うと共に、バリー博士に何とか火星人撃退の妙案を見つけてくれるように頼んで去った。いまや人類の希望はそこにしかない。

 バリー博士は自らのスタッフを集めて、大学の研究施設を山中に移転させる事を宣言した。まずはスクールバスに機材とスタッフを乗せ、ロビンソンに運転させて先発させる。次に機材を満載したトラックで、バリー博士が単身出発だ。

 ところが火星戦闘機が接近中との報が伝わるや、ロサンゼルスは大パニックの渦となった。避難しようとする人々が暴徒と化して、通りかかるクルマというクルマに襲いかかる。バリー博士の運転するトラックも暴徒に捕まり、バリー博士は殴られた上にトラックを奪われた。時間がない、人類の希望はいまやこれしかない…そんな事をいくら言っても、狂気に駆られた暴徒たちに伝わる訳もない。何のことはない、人類は火星人の攻撃を待たずして、いとも簡単に自滅の道を辿りつつあった。

 ようやく目を覚ましてあたりを見回すバリー博士。こうなると先発で出たロビンソン運転のスクール・バスも心配だ。いまやゴーストタウンと化したロサンゼルスの街を俳諧しながら、バリー博士はスクール・バスの姿を探す。するとバスのプレートがはぎ取られ、路上に落ちているではないか。やっぱりロビンソンたちの身に何かが起こったのだ。

 暗くなるにつれて、ロサンゼルス市街に火星戦闘機が進軍してくる。彼らは例の怪光線で、あたり構わず焼き払っていた。最後の巡回に回る警察のクルマが、フラフラと歩き回るバリー博士を発見。しかしバリー博士の目はうつろで正気のものとは思えない。「まだ希望はあったんだ、それなのに…。僕は人を捜しているんだ」

 だがバリー博士の目の輝きが戻ったのは、それからすぐだった。「彼女のいる場所が分かったぞ!」

 昔、幼い頃に怖い思いをして逃げ込んだ場所…バリー博士はロサンゼルス中の教会という教会を探し回った。逃げ遅れた人々はみな最後の時を迎えて、激しい攻撃の最中に教会に身を寄せ合っていた。ある教会ではスタッフのうち二人を見つけたが、彼らもスクール・バスが暴徒に襲われた前後の事は覚えていないと言う。ロビンソンがどこへ行ったかも分からない。

 それでも何軒めかの教会へ足を運んだ時、バリー博士はやっとロビンソンと再会する事が出来た。再び出会う事が出来て喜び合うバリー博士とロビンソン。

 だがちょうどその時、火星戦闘機が周辺で一斉攻撃を開始した!

 

 この作品が元々H.G.ウエルズの古典的SF小説なのは、ご存じの通りだと思う。ただし、あちらはあくまで19世紀の作品。例のタコ型火星人が通用していた頃の作品だ。だから全く同じスタイルでの映画化は、この1950年代の映画でも無理。アメリカ映画だけに舞台をロサンゼルス周辺に移動させて、制作当時の科学的知識をも盛り込んで作り上げている。

 で、面白いのは最初に第一次大戦、第二次大戦のニュース・フィルムから映画がスタートすること。徐々に戦争の規模は拡大して、次に起きるのは「宇宙戦争だ!」とナレーションが語るくだりにはちょっと奇異な感じを味わったね。だって宇宙人の侵略を実際の世界大戦と並べて考える発想が僕にはなかったから。

 しかもそれに続くオープニング・クレジットは、そこに使われている文字の書体といい、ブラスバンド演奏みたいな大げさな音楽といい、どこかコンバット・イメージを感じさせるもの。つまりこの映画は、明らかに「戦争映画」ですよと最初から宣言しているのだ。

 ただしここで言う「戦争映画宣言」は、ジェームズ・キャメロンの「エイリアン2」(1986)が戦争映画としてつくられたSFだというのとは、いささか訳が違うと思う。

 この映画の制作は1953年。第二次大戦の終結が1945年と考えてみれば、たったの8年後。まだ大半の人々が戦争の鮮烈な記憶を持ち合わせている時期だ。

 例えば今の日本では、戦争を覚えている人はすでに少数派だ。でも、この時期ではまだ世界に戦争の余韻が残っていた。その悪夢を忘れがたく思っている人もいた。そういうまっただ中に、この「宇宙戦争」が「戦争映画」として放り込まれた事をご想像いただきたい。おそらく宇宙人侵略なんて夢物語のはずなのに、異常な実感とリアリティとインパクトがあったんじゃないか?

 そういう意味で、おそらくは当時この映画はかなり迫真のシュミレーション・ドラマであり、ドキュメント的なリアリティを持った戦争映画だったんだと思う。世界各地が火星人の攻撃にさらされるくだりに、あえて第二次大戦のニュース・フィルムを使用したあたりをご注目いただきたい。これは予算低減のため…というより、おそらくホンモノの戦争の恐怖を体感して欲しいという気持ちがあったからなんだろう。

 このへんの火星人侵略のリアリティ重視の製作態度には、かの有名なオーソン・ウェルズの出世作、1938年の「宇宙戦争」ラジオ・ドラマ化の影響があったはずだ。まるでホンモノのニュースのごとく演出してアメリカ中を大パニックに巻き込んだこのドラマが、映画版「宇宙戦争」にもホンモノのインパクトを持ち込むべきだと制作者に決意させたに違いない。

 だがもう一つの理由としては、1950年代のアメリカSF映画ならではの特殊事情もあった。

 何度も旧作SF映画の感想文で述べているように、1950年代のアメリカのSF映画には当時の東西冷戦の影響が色濃く反映していた。相次ぐ核実験に象徴される米ソの軍拡競争が「原子怪獣現わる」(1953)や「水爆と深海の怪物」(1955)あたりの放射能巨大生物モノを生んだり、それがさらにエスカレートして最終戦争の恐怖を描いた「渚にて」(1959)などの人類滅亡モノを生んだり、あるいは共産主義の恐怖が「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(1956)などの寄生生物モノを生んだり…こうした米ソ冷戦下の時代背景は、この時代のアメリカSF映画と切っても切れないものなのだ。それは大衆心理の中に漠然と生まれた不安の具体化である時もあれば、アメリカ政府や軍が国策として、東側との戦いへの覚悟を国民にさせるべく制作する場合もあったように見受けられる。

 この「宇宙戦争」の場合はどちらか判然とはしないが、おそらくは来るべき東側陣営との決戦を濃厚に感じさせるモノになっている事は間違いない。例えば火星人と人類との戦いが全世界で展開している最中の描写に、ソ連軍がまったく言及されない事にご注目いただきたい。そう考えると「赤い星」火星からの侵略者…という設定は、何とも暗示的に感じられるのだ。

 だからこの映画は当時のSF映画としては、子供だまし的なバカバカしさが極めて少ない。割とリアルな感触を大事につくられているし、ウソではあっても裏付けらしきものが必ず設定されている。

 その証拠の一つが、オープニング・クレジットの後に出てくる太陽系の惑星イメージの羅列場面だ。

 火星人たちが移住計画のために、太陽系のさまざまな惑星を物色していた…とのナレーションと共に、それらの惑星のイメージがリアルに描かれる。そこで語られるそれぞれの惑星のプロフィールは、今では少々おかしくなっちゃったものも少なくないが、おそらく当時としては科学的な裏付けがあったと思われる説明になっている。

 そして何より、ここでの各惑星の紹介場面を見て、僕はふと思い当たるものがあったんだよね。かなり共通するものを感じさせるビジュアル・イメージ。それは僕が子供の頃に神保町で手に入れた古い天体想像画の豪華本、旧チェコのペシェックなる画家のイラストレーションによる「月と惑星」という一冊だ。

 これはページをめくるのがもどかしいぐらい、月や惑星の迫力いっぱいの絵がリアルに描かれた本だ。そして、それらは当時の科学的知識を裏付けにして描かれたもの。決して子供だましの想像図などではない。もっとも僕が買ったその本は1965年の出版だから、この映画にそのビジュアル・イメージが使用されたはずはない。それにしたってそのイメージはどこどなく共通するものを持っていた。おそらく「宇宙戦争」イントロの惑星巡りのシークエンスは、そうした何らかの科学的根拠のある天体絵画を下敷きに描かれたものだろうと思うが、いかがだろうか?

 また余談ではあるが、この天体巡りシークエンスでは冥王星、天王星、海王星、土星、木星、さらには水星まで行って最後に地球…と太陽系の惑星を一通り見せて行くが、なぜか金星だけが抜けている。これは一体どういう事なのだろうか? ひょっとしてDVDに収録されたバージョンでは脱落しているが、元々のオリジナル・バージョンには入っていたのだろうか? このへんも少々気になるところだ。

 ともかくそんな訳で終始リアル感を大切につくられているこの映画。だから、物語の導入部の田舎町のスクエアダンス・パーティーなどが丁寧に描かれていたりする。いわばアメリカの心のふるさとのような風景、そのすぐ近くで事件は起こる。そしてクライマックスは大都会ロサンゼルスの破壊だ。これは当時の人々にとってはショッキングな映像ではないか。この映画には、そういう日常を浸食するかたちで火星人が襲ってくる恐怖があるんだよね(もっとも、この背後にソ連=東側への脅威があるのなら、こういう作り方になるのも無理はないのだが)。

 劇中では義務感に駆られた牧師が聖書をかざしながら歩み出て、火星人に無惨にも殺される場面がある。これなども、まだ今よりも信仰心が厚かったであろうアメリカ人にとってはショッキングな場面だったろう。だが、ここまで神も仏もない描写をつくりながらも、ロサンゼルス陥落を前に人々が集うのは教会だ。最終的に「火星人を滅ぼしたのは、神がつくりし最も小さきものであった」…などとナレーションを入れて幕とするあたりも、まだ神も仏も信じられていた時代というものを感じさせるよね。

 主演のジーン・バリーはテレビの「バークにまかせろ!」などで知られる二枚目俳優。「刑事コロンボ」でも犯人役で出演した事があるよね。残念ながら映画ではこの人のキャリアは花咲く事はなくて、実は映画ではこの「宇宙戦争」が最大の代表作か。見ていると若い頃のショーン・コネリーみたいな感じなんだけど、彼のせいか役柄のせいか、アホっぽく見える時があるんだよね。

 とにかく最初隕石が落ちていてものんきにダンス・パーティーとか、火星人の攻撃現場から脱出しようとして小型機離陸失敗とか…特に火星人に包囲されたバリーとヒロインのアン・ロビンソンが演じるてんやわんやの一幕は、まるでドリフの「8時だヨ!全員集合」のコントみたいな間の抜け方。火星人がその正体を現すショッキングなワン・ショットは確かに忘れられないが、シークエンス全体はかなりアホな雰囲気が濃厚だ。またこれだけ大騒ぎをやらかしながらも、二人がまんまと包囲する火星人の目をすり抜けて逃げ仰せてしまうのがよく分からない。

 ところでこの火星人の外見だが、当初H.G.ウエルズの原作にあったようなタコ型を避けたのは賢明だった。おそらく当時の科学知識から見ても、あの体型はおかしいと分かっていたのだろう。それに、頭でっかちに足が細くひょろ長いタコ型でデレ〜っと地べたに這いつくばっていては、恐ろしいよりも情けない。迫力も半減だ。今回のデザイン変更は正解だと言えよう。

 しかも彼らの目といい、偵察装置のカメラ部分といい、すべて三原色のイメージで統一したのは卓抜したアイディアだ。我々とまったく違う身体的特徴を持つと共に、彼らはまったく違うモノの見え方をしている…という描き方が、得体の知れない未知の生物の不気味さを如実に現しているではないか。

 面白いのは、当然と言えば当然なんだけどローランド・エメリッヒの「インデペンデンス・デイ」(1996)との類似性。あれは「宇宙戦争」をもっと盛大に大ボラ吹きに拡大してつくったものだし、オチも「宇宙戦争」のパロディめいたコンピュータ・ウィルスとなっていた。だから意識どころか完全にコレをいただいてつくってます…ってことを前提にした映画なんだよね。だけど、ここまでいただいているとは思ってなかった。各国の軍隊の火星人への抗戦ぶりが次々描かれていくあたりのムードも似ているのだが、一番笑ったのは火星人がウィルスに倒れた以後の描写。確か「インデペンデンス・デイ」ではエジプトのピラミッドなどの名所旧跡の周りに宇宙人の円盤が墜落しているショットがあったように記憶しているが、それとまったく同じような構図で、こちらはパリのエッフェル塔周辺に火星人の戦闘機が墜落している。あまりにあまりな激似ぶりに笑わずにはいられなかったよ。

 この「宇宙戦争」の監督はSF映画をはじめとして娯楽映画全般を撮っていた職人バイロン・ハスキン。だが、まずはそれよりもプロデューサーのジョージ・パルの名で記憶されるべき作品だろう。ジョージ・パルはこの「宇宙戦争」の前にも「月世界征服」(1950)と「地球最後の日」(1951)、この後には「黒い絨毯」(1954)、「宇宙征服」(1955)、「タイム・マシン」(1959)、「謎の大陸アトランティス」(1961)…と、ほとんどSF一筋と言っていいフィルモグラフィーを誇る、この当時のハリウッドでは珍しいプロデューサーだ。いわばハリウッドのSF映画の父と言っていい人物。ゲテモノ、安物としてSF映画を撮っていた人々は多かったけど、あくまでハリウッド・メジャーのA級作品としてSF映画をつくっていたのがこのジョージ・パルだ。そのキャリアの一つの頂点が、この「宇宙戦争」なんだよね。

 元々は人形アニメをつくっていた人らしいが、そのあたりの特殊撮影への造詣の深さが、この人をSF映画に走らせるキッカケになったのかもしれない。ある意味でアーウィン・アレンの先駆とも言える人だが、こちらの方がSFに徹していたように思う。驚いたのは、僕が映画を見始めるようになった1975年の「ドクサベージの大冒険」まで現役であり続けた事。このホンの2〜3年後には「スター・ウォーズ」(1977)によるSF映画ブームが起きてしまうんだからね。まさにSF映画バカ一代と言っていい。

 とにかく宇宙人の侵略を描いた映画としては古典と言っていい「宇宙戦争」。でも、いまだにこのテーマを扱う時には無視できない、文字どおり金字塔と呼ぶべき映画なんだよね。

 


The War of the Worlds

(1953年・アメリカ) パラマウント映画 製作

監督:バイロン・ハスキン

製作:ジョージ・パル

脚本:バー・リンドン

出演:ジーン・バリー、アン・ロビンソン、レス・トレメイン、ロバート・コーンスウェイト、ルイス・マーティン、ヘンリー・ブランドン、キャロリン・ジョーンズ

2004年3月8日・DVDにて鑑賞


 

 

 to : The Museum - Index 

  

 to : Outlaw Index

 

 to : HOME

 

 

Ads by TOK2