「大怪獣ヨンガリ」

  Yongary, Monster from the Deep

 (2004/12/13)


 今しも宇宙センター基地から、一組の新婚ホヤホヤ・カップル(死語)がハネムーンに出発するところ。彼らを見送るため、新郎新婦の家族も集まった。新婦の父親は宇宙センターの責任者。新郎の父親も高名な科学者と来れば、韓国科学界のビッグカップル誕生と言いたいところだが、それにしちゃお二人の出発はやけにヒッソリしている。それはともかく、新郎の実家では妹ナム・ジョンイムも控えていて、引き続き慶事を期待したいところだが、その気配はあるんだかないんだか。彼女のボーイフレンドであるオ・ヨンイルは堅物の生物学者で「研究の虫」。今日も今日とてこの場に新郎新婦を見送りに来たものの、彼らがクルマで出発するや「仕事があるので」と退散する始末だ。なかなか進む話も進まない。

 ともあれ祝福を受けて一路ハネムーンへ…とクルマを走らせていた新郎新婦。ところが突然どこからともなく強烈な怪光線が放たれるではないか。熱さと眩しさで慌ててクルマを停める二人。そこに後から出発したオ・ヨンイルのクルマが追いついた。すっかりビビる新郎新婦だが、オ・ヨンイルはまったく動じない。彼には誰の仕業なのか察しがついた。案の定、物陰に隠れた少年が一人。このイチョ少年はあのナム・ジョンイムの八歳の弟で、何かといたずら盛りの真っ最中。特に姉貴のカレシが科学者ということで、その研究室に出入りしては悪さやいたずらのし放題。今日も研究室から実験器具を拝借してのいたずらだった。さすがに今回のコレにはオ・ヨンイルも苦言を呈したが、あのナム・ジョンイムの弟とあってはそうキツくも言えない。それをいい事に、ますます増長の一途のイチョ少年ではあった。

 さて例の新郎新婦は、ハネムーンの宿に着いて夜も更けた。新婦はネグリジェ(死語)に着替えて、「いよいよこれから」…との期待に胸躍らせる頃。だが肝心の新郎が居眠りこいているのに気づいてカンカンだ。「仕事が忙しくて」とか言い訳しきりの彼だが、新婦は許してくれない。女というものはテメエがコトの最中に平気でアクビしたりするくせに、男が眠そうな気配を見せるとテメエを棚に上げてムクれるから始末に負えない。新婚早々新婦にウンザリしながらも、必死にそれを表情に出さずにいる新郎もそろそろ限界。こんなオンナ放ったらかしてフーゾクにでも行こうかとマジで思い始めたちょうどその時、彼にとっては力強い味方の通信機の着信音が鳴り出した。彼の職業は、宇宙センターの宇宙飛行士。何か緊急の際には、いつでも連絡を取れるようになっているのだ。

 「もしもし、私に緊急の出動ですか?」

 いきなり任務に戻りたい気持ちをアリアリに出す新郎。連絡を入れた宇宙センターでも、この男が自分から出動志願するのにビックリだ。

 連絡を入れて来たのは、新婦の父親でもある宇宙センタ−の責任者。どうも突然「某所」で核実験が行われるコトになったので、その様子を宇宙から監視してくれということらしい。それを聞いた新婦はブーたれるが、新郎はもっけの幸いとセンターに戻る事になる。どっちにしろ、今夜はこのオンナと事に及ぶ気にはなれない新郎だった。

 翌日、宇宙センターでロケット機上の人となった新郎。新婦は父であるセンターの責任者と共に、管制センターでモニターを見守る。

 ロケット発射!

 ロケットは成層圏をどんどん上昇し、やがてロケット部分と先端部分を分離。先端部分であるカプセルが、宇宙空間に到達する。カプセルは衛星軌道に乗って地球を周回し始め、無事に目的地点に到達した。

 そこで「某所」での核爆発!

 立ち上るキノコ雲。その様子を宇宙飛行士が、はるか上空から観察する。ところが下界では、核爆発直後に凄まじい地震が起こっていた。激しい隆起、凄まじい陥没、そして地割れ。これと呼応して怪電波が発生し、カプセルと宇宙センターは突然通信不能に陥った。

 「こちら本部、応答願います!」

 あまりの事に泣き伏す新婦。本部長もヤバいと複雑な面もちだ。一体何が起きたと言うのか?

 このニュースは、たちまち韓国全土に駆けめぐった。「大爆発!大地震!カプセルと通信不能!」…連日連夜「東亜日報」も「朝鮮日報」もセンセーショナルに書き立てる。

 管制センターには、新郎の家族も駆けつけた。固唾をのむ一同。ところがそこに、カプセル内の飛行士から連絡が飛び込んで来た。管制センター内にはドッと大歓声が起きる。

 だが奇妙な地震は相次ぎ、当初の着陸予定地点も不安定な状況だ。そこで危機回避のために着陸地点を変更し、一同は救急車や消防車と共に現場へと駆けつける。

 カプセルの着陸は見事に成功!

 こうして飛行士も無事生還してめでたし…と言いたいところだが、そう喜んでもいられない。例の奇妙な地震の震源が、韓国の中心部を目指して南下してきているからだ。

 早速、「怪地震対策本部」が設置される。

 対策本部長には飛行士の父親が就任し、各界の有識者が顔を揃えるが、まるで妙案は浮かばない。この重苦しい雰囲気には、メンバーの一人である軍司令官も動揺を隠せない。ともかく地震発生地域と見られるエリアには、戒厳令を発令するしかない。

 街中に放送が流れ、市民たちの外出は規制された。そして南北がにらみ合う、あのデリケートな地域に「それ」は起きた。突然の地震と陥没…激しく地割れが起きて山が崩れる。そこには何者かがうごめいていた。たまたまその場に居合わせたジャーナリストは何枚か写真を撮影出来たが、道路の崩落により逃走中のクルマが横転。大ケガを負ってしまう。

 その頃対策本部では、本部長の科学者が耳を疑うような話を口走る。昔、祖父から聞かされた言い伝えを思い出した。それは地震を起こす「怪獣」についての伝説だ…。

 それは軍司令官にも聞き覚えがある話だった。「それって…ヨンガリの事ですかな?」

 そこに担ぎ込まれて来たのは、先ほど大ケガを負ったジャーナリストだ。自分のカメラを持って必死の形相だ。「この写真を見てください!」

 早速現像してスライド化。会議室でこれらの写真を映写して見ると…何やら地割れの奥から姿を見せているではないか!

 「ヨンガリだ!」と、軍司令官は思わず叫んだ。

 こうして非常事態宣言が発令され、軍隊が動員された。やがて山を崩しながら、問題のヨンガリが地上に姿を見せる。一本のツノを立てた凶暴な顔を持つこの怪獣は、そのままどんどん南下を続けた。

 これに韓国軍とて手をこまねいて見ている訳ではなかった。戦車隊がヨンガリ討伐に送り出されていたが、戦車の高射砲はまったく歯が立たない。それどころかヨンガリが口から吐く火によって焼き尽くされたり、ヨンガリの足で踏みつぶされたりして、戦車隊の方が全滅してしまう始末だ。もはや止めようがない。

 かくしてソウルの街には戦車隊が動員され、市民たちは一斉に家財道具を持って避難を始める。そんなてんやわんやの中、あのナム・ジョンイムの一家も避難しようとしていた。ところが彼女のボーイフレンドであるオ・ヨンイルは、事もあろうにこれからヨンガリのいる最前線へ行こうとするではないか。ヨンガリをこの目で見て、その撃退法を探るのが科学者としての自分の役目だと言い張るのだ。これにはナム・ジョンイムもお母さんも大反対だが、言って聞くようなオ・ヨンイルではない。しかも彼がヨンガリを見に行こうとすると、あのイチョ少年までヨンガリが見たいと言い出す。これまた言って聞くようなタマではない。勝手に飛び出してしまった二人にお母さんは悲鳴。仕方なくナム・ジョンイムまで二人を追いかけるハメになった。

 ソウルの街はすっかり大パニック。逃げまどう市民でメチャクチャな状態だ。こんな時にはいつもお約束の、「神の意志」を説くインチキ予言師が出没。中にはすっかりヤケクソ状態になって、店員も逃げ出したのに居酒屋に居座って飲み食いを続けるアブラギッシュ・オヤジもいる始末。若い奴は若い奴でパワーを持て余し、ゴー・ゴー・クラブですっかり刹那的に踊り狂うというアリサマだ。

 そんなソウルの街にヨンガリが出現。我が物顔に街を翻弄する。建物をブチ壊し、クルマを踏みつけ、逃げまどうオヤジを食い殺す。

 よせばいいのに騒然とした街にやって来たのは、あのオ・ヨンイルとイチョ少年。それを心配してナム・ジョンイムまでやって来た。ところが調子に乗り過ぎて、チョイとヨンガリに近づきすぎたオ・ヨンイルたち。慌てて逃げ出すがイチョ少年がコケる。ガキを助けたら、今度はナム・ジョンイムお姉さんがパンツ丸出してぶっ倒れる。それを助けに行ったら飛んできた瓦礫でオ・ヨンイルはケガをする。あげくの果てに、またしてもクソガキのイチョ少年がいなくなる。こんな時に一体どこに行ったのだ?

 実はこのクソガキ、調子こいてヨンガリのそばに行きすぎて、今さら戻れない状況になった。慌ててマンホールの中に逃げ込むが、すぐ上にヨンガリが来たもので出るに出られない。しかたなく下水道を逃げ回るアリサマ。オ・ヨンイルとナム・ジョンイムが必死に探しても、どこに消えたかガキは見つからない。ハッキリ言って足手まといなだけのガキだ。

 その頃対策本部では、すっかりその場を軍司令官が仕切り出した。打倒ヨンガリのために、ミサイル攻撃も辞さずという姿勢を打ち出し始めたのだ。これにはさすがに本部長も困惑。あまりに犠牲が大きすぎると反論した。だが暴走を始めた軍司令官は止まらない。「ここは韓国の将来のためを思って、過去は忘れる覚悟もしなければ」と、分かったような分からないような軍人特有の理屈で押し切られた。

 ヨンガリの破壊はさらに続く。だが軍のヘリコプターの誘導で、何とかソウルの中心部からは引き離す事に成功する。こうしてヨンガリは、いつの間にか工業地帯へと足を踏み入れていた。

 下水道から脱出したイチョ少年も、たまたま同じ工業地帯に現れた。そんなイチョ少年の目の前で、ヨンガリは驚くべき行動に出る。コンビナートの石油タンクをゴクゴクと飲み干してしまったのだ。これで元気になったのか、再び工場施設を破壊し始めるヨンガリ。ところが勢い余って化学工場を破壊するや、ヨンガリの様子に異変が起きた。

 何やら身体全体がかぶれると共に、奇妙な身もだえをするではないか。

 さて、オ・ヨンイルの研究室には、街から戻ってきたオ・ヨンイルとナム・ジョンイム、そして彼女のお母さんがいた。お母さんはイチョ少年の安否を心配してゲッソリ。ところがそこに、あのイチョ少年が小汚い格好で帰ってきた。彼はヨンガリの様子を一部始終見ていたのだ。そしてオ・ヨンイルにすべてを報告した。ヨンガリが原油を飲んでいたこと、そして何かの物質にかぶれたこと…この時ヨンガリは、体中をかきむしっていた。イチョ少年によれば、それはかなり強い異臭のする物質だと言う。いても立ってもいられぬオ・ヨンイルは、またしてもナム・ジョンイムを連れてヨンガリ観察へと飛び出した。それを追って、イチョ少年も出かけてしまう。結局またまた置いてけぼりのお母さんは、トホホと嘆くしかない。

 ところが現場に駆けつけてみると、軍が辺りを封鎖している。聞けばミサイル攻撃が迫っていると言うではないか。これはマズイ…直感的にミサイル攻撃が不適切だと睨んだオ・ヨンイルは、ナム・ジョンイムの父親が本部長であるのをいいことに、図々しくも対策本部へ押し掛けて行く。対策本部では、いきなり若造学者と若い娘とガキに乗り込んで来られて、みんな当惑気味だ。もちろん本部長も弱った顔。だがオ・ヨンイルはまったく意に介さない。

 「ミサイル攻撃は無意味なばかりか危険です。あの怪獣は原油を飲んだ。エネルギーが食べ物です。ミサイル攻撃は奴にエサを与えるようなものだ!」

 だが、軍司令官はまったく聞く耳を持たない。ヨンガリが原油を飲んだというのもたかがガキの目撃談だ…と、まるっきり戯言扱い。せめて危険だから市街地から少しでも離して攻撃しろ…というオ・ヨンイルの五十歩譲った提案も、一笑に付そうとするばかりだ。

 ところが対策本部に集まった有識者は、オ・ヨンイルの提案に賛同し始める。石油をオトリにして少しでも市街地から遠ざける案に、みなこぞって賛成だ。これには軍司令官もシブい顔で耳を傾けざるを得ない。

 さて研究室に戻ったオ・ヨンイルは、ナム・ジョンイムやガキと一緒に研究に没頭。打倒ヨンガリのための薬品の開発に汗を流していた。そこに、例の新婚宇宙飛行士夫妻が陣中見舞い。飛行士は「オレに出来る事はないか?」とオ・ヨンイルに聞いてきた。そこでオ・ヨンイルはすかさず答える。「ヘリコプターを調達出来ないか?」

 彼はヨンガリを倒す秘策を持っていた。それはアンモニアだ。奴はアンモニアに弱い。それを証明するために、ヘリコプターで奴に向かってアンモニアを投下する必要がある。

 さて工業地帯にいるヨンガリを小高い丘の地域へと移動させるために、新たな作戦が始まった。目標地点に石油タンクを設置し、それを爆破しておびき出そうと言うのだ。だが、ヨンガリは動かない。軍のヘリコプターがおびき出そうとするが、それでもヨンガリは動かない。結局この怪獣を動かしたのは、あのクソガキのイチョ少年。先に宇宙飛行士夫妻を脅かした、あの実験装置の光線でおびき出したのだ。

 そして小高い丘の地域までやって来たところで、軍によるミサイル攻撃が始まる。だが雨あられと降り注いだミサイルも、ヨンガリを倒す事は出来ない。

 そこへやって来たのは、一機のヘリコプターだ。

 何とこのヘリには、宇宙飛行士夫妻にオ・ヨンイル、さらにはナム・ジョンイムまで乗り込んでいた。何でこんなに大勢乗り込んでいるのか分からないが、ともかくヨンガリの頭からオ・ヨンイルのつくった薬品をバラ撒こうという魂胆だ。早速ヘリでヨンガリの頭上に接近。上からどんどん薬品をぶっかける。すると…。

 案の定、ヨンガリが苦しがっているではないか!

 あちこちかきしゃぶり、もだえ苦しむヨンガリ。しまいにはグッタリしてその場に倒れ込む。やった、実験は成功だ! こうして喜び勇んで帰還する一同。

 その頃対策本部では、軍司令官がミサイル攻撃の効果があったと勘違いして、勝手に大喜びしたあげくお祝いをしていた(笑)。

 だが…またまた出てきたのが、あのイチョ少年。彼はこうもあっけなくヨンガリが倒れる訳がないと信じ、よせばいいのにあの実験器具を持ち出して来た。目を閉じて倒れているヨンガリに向かってあの実験器具から光線を発射すると、案の定ヨンガリの目がギラリと開く。やっぱり死んでなかったかヨンガリ。どこからともなく聞こえてきたエレキのテケテケ・サウンドの「アリラン」に乗って、まるでヨンガリが踊っているように見えたもんだからイチョ少年は大喜び。それはただヨンガリが身体のアチコチをかいているだけの事だったのだが…ともかくヨンガリが死んでないとの報は、早速対策本部に伝えられた。

 だが、さすがオ・ヨンイル。彼も昨夜の程度の薬品でヨンガリは倒せないと踏んでいた。そこで徹夜の突貫工事でつくったのが、昨夜のアンモニアをベースにさらにパワーアップした打倒ヨンガリ劇薬だ。

 さて、目覚めたヨンガリもさらにパワーアップ。何と鼻先のツノから光線を発して、警察のジープを真っ二つ! 市街地を再び破壊したあげく、ソウル市内を流れる漢江のほとりへと現れる。

 見通しのきく河川地域とあって、軍は戦闘機を出動させる。だが戦闘機の激しい攻撃にも、ヨンガリはまるでこたえない。逆に口から吐いた火炎やらツノからの光線やらで、戦闘機の方が次々と撃墜されてしまう。「ならば」…と至近距離まで接近した戦闘機は、アッサリとヨンガリに叩き落とされる始末だ。もはや手詰まり。

 そんな軍をアザ笑うかのように、バリバリと鉄橋をブチ壊していくヨンガリ。もはやこいつを止める者は、誰もいないのか?

 そこにいきなり一機のヘリが飛んでくる。それは宇宙飛行士夫妻、オ・ヨンイル、ナム・ジョンイム…それになぜかあのガキまで乗り込んだヘリだ。オ・ヨンイルが開発した薬品を満タンにして、ヨンガリ打倒のためにやって来たのだ。やがてヨンガリの頭上に飛来したヘリは、そこから薬品を一気に散布していった。

 もだえ苦しむヨンガリ!

 苦しんで苦しんで、全身をかきむしるヨンガリ。猛烈なかゆみに耐えかねてか、ヨンガリはその場でのたうち回る。やがて河川敷でバッタリぶっ倒れると、その場に横たわったまま動かない。川に浸した下半身からは激しい出血が起きて、漢江の流れを真っ赤に染めていくではないか。

 こうしてヨンガリの脅威は去った。韓国全土には再び平和が戻ってきた。

 やがて盛大に行われた「怪獣打倒祝賀会」には、宇宙センター責任者、対策本部長夫妻、宇宙飛行士夫妻にオ・ヨンイル、ナム・ジョンイムらも「怪獣退治の功労者」としてニギニギしく招待された。それぞれのコメントを取ろうと集まってくるマスコミ連中。

 だが、その中でも一際得意げだったのは、言うまでもなくあの小生意気なガキ(笑)…イチョ少年だったのは言うまでもなかった。

 

 この映画をはじめとする韓国SF映画事情については、ロスト・メモリーズ(2002)感想文にも書いた通りだ。ズバリ言って韓国の「ゴジラ」である。向こうでは「怪獣映画」の象徴的存在との事だから、そう言って間違いはないだろう。
 近年
「怪獣大決戦ヤンガリー」(1999)としてリメイクされたが、「ヨンガリ」の名前だけいただいただけで舞台はアメリカ…というまったく別物の内容だったらしい。出来も芳しくなかったのか改変版(2001)が制作され、こちらのバージョンは日本でも公開された。

 それにしても奇妙なのは、これだけ韓国映画の情報が入って来ているにも関わらず、この「ヨンガリ」についての内容がまったく一般に知られていないことだ。存在だけはかろうじて知られているが、詳細やらスタッフ・キャストやらはちゃんと伝わっていない。一部の好事家だけは知っているのかもしれないが、それらが韓国映画ファンに広く知られているとは言い難い。僕も題名しか知らなかったんだよね。

 聞くところでは公開当時の韓国で15万人という動員を果たしたヒット作であるこの作品、「大衆娯楽映画」という観点から考えても決して無視されるべきものではない。そこで資料が乏しい中ではあるが、僕なりにこの映画についてツギハギの情報を並べてみたい。多少危なっかしい部分もあるかもしれないが、どうかご容赦いただきたい。

 だが今回の作品を取り上げるにあたっては、まずは特撮スタッフについて語らない訳にはいかないだろう。これはある程度知られているようだが、この「ヨンガリ」には日本の大映「ガメラ」シリーズの特撮スタッフが関わったようだ。時代的に見ると、シリーズ2作目「大怪獣決闘ガメラ対バルゴン」(1966)から3作目「大怪獣空中戦ガメラ対ギャオス」(1967)あたりということになるのだろうか。

 映画を実際に見ていただければ分かるが、どこかドヨ〜ンと暗い大映カラーと韓国製怪獣映画の相性はすこぶるイイ(笑)。怪獣の造詣もいかにもバルゴンなどに共通するような、どこか泥臭くおぞましい大映怪獣のテイストがムンムンだ。映画の物語を見ても、何かとガキが前面に出てきて仕切りたがるあたり大映「ガメラ」っぽいではないか(笑)。そういえば一作目「大怪獣ガメラ」(1965)だっただろうか、怪獣の襲撃にも関わらず若者がゴーゴー・クラブで刹那的に踊りまくってるという、この映画と共通する場面も出てきた記憶がある。まぁ、ガキ云々は冗談にしても、韓国側スタッフが制作にあたって、日本製怪獣映画をかなり研究したのは間違いないだろう。

 ただ…これはとても残念なのだが、予算に限りがあったからかミニチュアなどはかなりお粗末だ。それはいいとしても、火を吐くヨンガリの口に火炎の噴射口がハッキリ見えてしまうのは、いくら何でも手抜きではないのか。これはちょっといただけなかったね。

 ともかくここに香港の北京原人の逆襲(1977)、そして北朝鮮の「プルガサリ」(1985)など、日本特撮スタッフが関わったアジア映画も並べてみると…例えば大酔侠(1966)などでの日本人カメラマンの参加、香港ノクターン(1966)などでの日本人監督の招聘なども含めて、アジア映画における日本映画人の関わりみたいなものがおぼろげながら見えてくる観がある。これは今後もいろいろ注目したい点ではないだろうか。

 監督はキム・ギドク…というと、「魚と寝る女」(1999)、「悪い男」(2002)、「春夏秋冬そして春」(2003)の監督かと思ってしまうが(笑)、当然の事ながらまったく関係のない別人だ。カタカナ表記では同じになってしまうが、おそらく向こうでは微妙に違う表記か発音なのではないだろうか?

 当然僕はこの人の名前を知らなくて、どうせ特撮怪獣映画だから何でもやっちゃう職人監督か大した事のない人が手がけているのだろう…とタカをくくって調べてみた。実はここからは、スタッフ・キャストとも米国版DVDパッケージと本編のクレジットに出てくる英語表記、さらにはInternet Movie DataBaseで見つけた数少ない英語クレジットを基に調べているから、ハッキリ「これ」とは断定出来ていない。おそらく「これ」だろうと当たりをつけたものだ。そのあたりをご承知の上でお読みいただきたい。

 すると…たぶん「この人」だろうと見当をつけた人物は、1960年代の韓国映画では「それなり」のポジションにいた監督のようなんだよね。

 2003年に東京国立近代美術館フィルムセンターで開催された「韓国映画 - 栄光の1960年代」という回顧上映では、このキム・ギドクの作品が3本も上映されている。まずは「裸足の青春」(1964)という作品。これは何と日本映画「泥だらけの純情」の韓国版リメイクらしく、あちらでも大ヒットを記録した作品のようだ。また「南と北」(1965)は脱北した北朝鮮兵士と韓国兵士との、一人の女を巡る緊迫したドラマ。さらに「島の先生」(1967)は、離島にやって来た若い医師兼教師の奮闘を描くもの…ということで、どれもこれもキワモノや変なシロモノではない。ヒット作もあるし良心的な作品と思われるものもあるし、それなりに当時としては一流映画人だった感じなんだよね。

 出演者のうち若い科学者を演じるオ・ヨンイルは、前出の「島の先生」で主人公を演じた若手ハンサム俳優。ナム・ジョンイムは60年代を代表するアイドル女優とのことで、やはり「韓国映画 - 栄光の1960年代」で上映された国民的歌手の伝記映画「エレジーの女王」(1967)の主演者でもある。

 この二人…オ・ヨンイルとナム・ジョンイムについては、前述作品の場面写真からも確認したので、本作出演はほぼ間違いないと思う。

 またクレジットでは発見できなかったが、僕はナム・ジョンイムと少年のお母さん役の女優に、かつて見知った顔を見つけた。間違いなく彼女は、ホームドラマ「ロマンス・パパ」(1960)で主人公の奥さん役、怪物的な家政婦の恐怖を描いた「下女」(1960)で蹂躙される家の主婦役、朝鮮戦争後の山村を舞台にした「山火事」(1967) で北朝鮮の落伍兵と情を通じてしまう未亡人役…をそれぞれ演じていたチュ・ジュンニョという女優さんだ。貞淑な主婦や優しいお母さん役を得意としている人のようで、出演作から見てかなり有名な女優さんのはず。先に挙げた3作は、いずれもヒット作であったり韓国映画史に残る傑作と見なされている作品ばかりである。実は軍司令官役の俳優も見覚えがあるのだが、これは残念ながら名前を特定出来なかった。

 これを見てもお分かりいただけるように、決して「ヨンガリ」は変なキワモノ映画ではない。韓国初の怪獣映画を成功させようと、当時としては一流の人材を投入してつくった大作映画なのだ。

 そしてこの映画には、見ていてもっと興味深い点がある。

 それはヨンガリが全身かゆみに襲われて死ぬとか、何と尻から血を垂れ流して死ぬとか…そういった、いかにもエグい描写の事を言ってるんじゃないよ(笑)。

 実はこの映画って、始まってしばらくの間は物語がよく飲み込めない。まぁ、入手したのが米国版輸入ビデオだからって事もある。実際は100分あるはずなのに74分の短縮版だし、セリフは英語吹き替え版だ(もっとも韓国語オリジナルでは、字幕なしだったらもっと分からない)。そういった意味での分かりにくさはあるだろう。

 だがこの映画って、根本的に構成に問題があるように思うのだ。

 それもヨンガリが出てくる前の部分…某国の核実験が起きて韓国がロケットを飛ばす。やがて実験のせいか地震が起きて、ヨンガリが登場…。まずは歯にモノが挟まったようなのが、「どこの国」が核実験を起こして、「どこ」で地震が起きたかって事だろう。で、ヨンガリは「どこ」から現れたのか?

 そして、物語の必然という意味から言って、ロケットは必要なかったんじゃないか(笑)?

 このロケットが何とも不思議で、例えば普通のSF映画で出てくるように月や惑星を探険しに行くんじゃない。上空から核実験の模様を観察するだけ…たったそれだけのために打ち上げられるのだ。これってハッキリ語られないが「軍事目的」の偵察宇宙船って事じゃないのか?

 で、1960年代に限らず、韓国で「軍事」とくれば…もうこれは「北」に関わる事と相場が決まっている。だって10年ちょっと前には、この人たちの国で朝鮮戦争があったんだからね。まだその記憶も生々しかったはずだ。一応子供向けの怪獣映画だからそうそう生臭い事は言えなくとも、どうしたってその影響は出てしまうだろう。

 しかも、「怪獣映画」「SF映画」こそが政治的メタファーを最も含むモノである事は、冷戦下のアメリカ怪獣映画死の大カマキリ(1957)感想文で書いた通り。この「ヨンガリ」も軍事政権下の韓国の映画だということを念頭に置いて見れば、なかなか興味深い作品だ。

 で、そう考えると…核実験を起こす「某国」…とは、北朝鮮以外に考えられない。なぜならそれによって地震が起きて、陸地づたいにヨンガリが韓国に現れるのだ。どう考えても核実験を起こしたのは、中国とか他の国ではあるまい。ここは北朝鮮が核を持って、実験を行ったと見るのが自然だろう。だから韓国は、それを監視する必要があるわけだ。

 奇妙なのは、このロケット場面がどうしても映画にとって無意味に見えるところ。なくてもまったく問題ないのだ。確かに映画的見せ場としては、宇宙空間の場面は欲しいところかもしれない。でも、まったく無意味ってのは変だよね。むしろこれがあるから、物語的にはスッキリ分からなくなる。

 僕はこれって、映画製作者側の意図というより、対外的な理由があったんじゃないかと思うんだよね。

 というのは…特定はしていないものの「北」が核を持っているかのように示唆されている一方で、当然のことながら韓国は核など持ってはいない(持っているように描く訳にもいかない)。しかも核の副産物として登場したヨンガリに、軍は徹底的にやられっぱなしになってしまう。で、これだけはいかにもマズイと判断されたのではないか? 当時軍事政権下で映画製作にも検閲がかなり介入したであろう時代に、こういう設定では審査が通らない…あるいは製作関係者に何らかの災いが降りかからないとも限らない。そんな懸念が働いたのではないだろうか?

 だから韓国にも「北」と同等…いや、それを凌駕するごとき科学力や軍事力があると見せねばならなかった。それが「宇宙ロケット」というカタチで出てきたのではないか。何となく僕は、そんな作り手側の思惑を感じてしまうんだよね。少なくとも、この作品にはそんな配慮がいろいろあったはずだ。

 それが証拠に…ヨンガリはソウル中心街に侵入し、あの有名な南台門か東大門か…情けない事に僕にはどっちか分からないのだが(笑)…そのすぐそばまでやって来ながら、なぜかまったく手つかずで引き返してしまう。あんなに何でもかんでも破壊し尽くしていたのに、なぜ南台門だか東大門だか…この歴史的建造物だけは壊されなかったのか? それって…あの建物は民族的にも政治的にも、アンタッチャブルな領域だったからではないか。日本の怪獣映画であれだけ東京が破壊し尽くされながら、なぜか絶対に皇居だけは手つかずなのを考えれば、この意味は何となく自ずから伺える気もする。そこに何らかの配慮が多分に働いている事は間違いない。

 だから北からやって来てソウルまで破壊しつくすヨンガリとは、当時の「北朝鮮の脅威」の象徴に他ならない。メチャメチャになるソウルの状況は、ついこの前に北朝鮮軍にソウルが占領された事を知っている人々には、とても絵空事とは思えまい。逃げまどう人々の姿も何とも忌まわしいイメージに映っただろう。

 実際この映画では、出てくる女性の出で立ちにチマチョゴリ姿が多い。それって昔は日本でも、女性が日常的に和服を着ていたのと同じだろう。実際には、僕らにとってそんな大昔の事じゃないよね。

 考えてみれば、この映画の翌年公開の憎くてももう一度(1968)では、まだソウル駅に蒸気機関車が乗り入れていた時代なのだ。あの悲劇的な「戦争」はすぐ間近。どう考えたって、異常なまでの生々しさで迫ったと思うんだよね。

 そしてアメリカの「死の大カマキリ」がそうであったように、これも韓国国民に「非常事態」を覚悟させる意図、「今そこにある危機」を実感させる役割があったのかもしれない。映画の中の話とはいえ、戒厳令が敷かれて云々…の雰囲気には、実際に戒厳令が敷かれた国ならではのリアル感があったからね。日本映画ではこうはいかない。

 そして「北」の象徴であったなら…ヨンガリをカッコよく死なせる訳にもいかなかったろう。でなければ、身体中ボリボリかきむしりながら下血して死ぬ…なんて、世界の映画史にもマレに見る哀れな死に方をさせなかったはずだ。

 確かにこの「ヨンガリ」、まどろこしい点やヤボ臭い点、作り手たちが「SF映画」や「怪獣映画」に不慣れな点などが目に付き、いささか失笑してしまうところも見られないでもない。だが、この映画の作り手が本気も本気なのは、そうしたディティールを見ても明らかなんだよね。

 

 

 

<参考>

 

韓国映画とハングル Korean Movie and Hangul

http://www.seochon.net/

西村嘉夫(ソチョン)氏

 

「韓国映画 - 栄光の1960年代」カタログ(東京国立近代美術館フィルムセンター・編集)

 

映画秘宝シリーズ(7)「あなたの知らない怪獣(秘)大百科」 洋泉社

 

 


Yongary, Monster from the Deep

a.k.a. Great Monster Yongary

(1967年・韓国) クァク・ドン 製作

監督:キム・ギドク

製作:チャ・テジン

脚本:キム・ギドク、ソ・ユンサン

出演:オ・ヨンイル、ナム・ジョンイム、イ・サンジェ、カン・ムン、イ・クァンホ、チュ・ジュンニョ

2004年11月28日・DVDにて鑑賞


 

 

 to : The Museum - Index 

  

 to : Outlaw Index

 

 to : HOME

 

 

Ads by TOK2