スケッチ その3
『1969年 今どきの軍人(Army Protection Racket)』
第1シリーズ 8話より
出演
ナレーション・・・ジョン・クリーズ
大佐・・・グレアム・チャップマン
ワトキンス(新兵)・・・エリック・アイドル
軍曹・・・ジョン・クリーズ
ディーノ・ヴェルコッティ・・・テリー・ジョーンズ
ルイジ・ヴェルコッティ・・・マイケル・ペイリン
パイソンの面白さに『異常なまでのミスマッチ』と『オチ無し』というものがあります。
このスケッチもそんな一つ。収拾つかなくなったら、こうして逃げろ!!
古い戦場フィルム。勇壮に平原を突き進む戦車隊、火を噴く迫撃砲、進軍する兵士達など、次々に映し出される。
ナレーション「1943年。英国軍士官の一団は、敵陣深く侵攻し、史上最も危険で最も勇敢な作戦を遂行した・・・・みたいな」
画面に字幕出る。『そして今。非占領国イギリス 1970年』
ナレーション「そして、今・・・・」
軍の士官室。大佐が書類にペンを走らせている。慌ただしいノックの音がする。
大佐「入れ」
新兵が入ってきて、敬礼する。
大佐「何だね?」
新兵「辞めさせていただきます」
大佐「何だと? 理由を言いたまえ」
新兵「だって危ないんだモン」
大佐「あ?」
新兵「みんな銃とかもってるし」
大佐「何?」
新兵「しかもオモチャじゃなくて本物。全員本物の銃を持ってるんです! 挙げ句の果てに戦車まで!」
大佐「当たり前だ、ここは軍隊だぞ!」
新兵「手榴弾とか機関銃まで! 取り返しがつかなくなる前に辞めます」
大佐「君は昨日入隊したばかりだぞ!」
新兵「だって、死んじゃうもの! ふりじゃなくて、本当に! 友達に聞いたんですけど、軍隊は戦争に行って戦うって本当なの?」
大佐「ああ、本当だ」
新兵「(青ざめて)そんな・・・・・大戦争になったら、誰か怪我しちゃいますよ?!」
大佐「(わなわなと震えながら)貴様は何の為に軍人になったんだ!!」
新兵「(きっぱりと)水上スキーと旅行です。人殺しなんて嫌です。入隊手続きの書類にもちゃんと『人殺しは嫌』って書きましたもん」
大佐「一つ聞きたい。君は平和主義者かね?」
新兵「いいえ、違います。臆病者です」
大佐「馬鹿馬鹿しい、座って待っとれ」
新兵「はい、そうします」
新兵は下がって椅子に腰掛ける。
大佐「実にくだらん・・・・」
軍曹が入ってきて敬礼する
軍曹「民間人が2名、面会であります!」
大佐「誰だね? 軍曹」
軍曹「ディーノ・ヴェルコッティ氏とルイジ・ヴェルコッティ氏であります!」
高級スーツに身を包んだ『画に描いたようなマフィア』が二人入ってくる。軍曹は扉を閉めて出ていく。
ディーノ「やぁ、大佐」
大佐「何の用かな」
ルイジ「なかなか・・・・お洒落な基地じゃねぇか、ああ?」
大佐「ああ」
ルイジ「何も起きなきゃいいんだがな・・・・え?」
大佐「どういう意味だ?」
ディーノが、大佐の後ろにある暖炉の上にある物を、いろいろ物色している。

ディーノ「(陶器製のカップを弄びながら)つまりだ、弟はこう言いたいのさ。万が一にでもこの基地で妙な事がだな・・・・」
陶器製のカップを叩きつけるディーノ。
ディーノ「おや、おや、すまんね大佐・・・・」
大佐「いいから座って話を聞こうじゃないか」
ルイジ「いや、立ったままで結構だ」
大佐「それで、用件は何なんだ・・・・」
ディーノ「用件だって? へへへへへ(下卑た笑い)」
ルイジ「なかなか笑わせてくれるな、ええ兄貴?」
ディーノ「ああ、いい冗談だぜ、ルイジ?」
ルイジ「説明してやんなよ、兄貴」
ディーノ「(凄んで)ここに戦車は何台ある?」
大佐「500台だ」
ルイジ「500台だとよ」
ディーノ「用心した方がいいぜ、大佐?」
大佐「大丈夫だ、抜かりはない」
ディーノ「突然壊れたりしてな・・・ええ?」
大佐「何だと?」
ルイジ「形ある物は壊れるんだよ、なぁ大佐?」
ルイジは卓上のグラスをはたき落とす。
ルイジ「おやおや、ごめんよ大佐」
ディーノ「すまんねぇ、弟はなにぶん不器用でね・・・・特に機嫌が悪いと手がつけられないんだ。この軍が気に入らないと、今度はここの兵器に手を出すかもしれんぜ、大佐?」
大佐「何が言いたいんだ!」
ルイジ「兵隊は何人だ?」
大佐「うむ、歩兵7000名、砲兵600名、落下傘部隊2個師団だ」
ルイジ「落下傘部隊、ねぇ?」
ディーノ「誰かが火をつけたりしなきゃいいんだがな?」
大佐「火だと?」
ルイジ「火事になるってんだよ。ええ、大佐?」
ディーノ「よく燃えるだろうなぁ・・・」
大佐「どういう意味だ?!」
ディーノ「つまりだ・・・・俺達の話にうなずいてくれさえすりゃ、いいんだよ」
ルイジ「力になるぜ」
ディーノ「何にも無いのが一番だもんな」
ルイジ「ある日突然戦車がぶっ壊れたり、訓練中の部隊が消息不明になったり、朝の点呼で殴り合いの喧嘩が起きたり」
ディーノ「そうなったら嫌だろ?」
大佐「お前達は私を脅迫するつもりか?!」
ディーノ・ルイジ「いやいやいや・・・・」
ルイジ「誤解だよ、大佐」
ディーノ「俺達は善人だぜ」
ルイジ「(大佐の肩を親しげに叩きながら)俺たちゃ友達じゃないか!」
ディーノ「俺達が守ってやろうってのさ」
大佐「『守ってやる』だと!?」
ルイジ「俺達を信頼しろ。たとえどんな機甲部隊であろうと、絶対安全だ・・・・週15シリング(約150円程度)でな」
大佐「駄目だ、12でなら考えよう」
ルイジ「8じゃ?・・・5では?」
大佐「だめだ、面白くない!」
ディーノ「何がだよ?!」
大佐「最低のスケッチだ! なっとらん! さっきから面白い台詞の一言も言わしてもらっていない! 今すぐ中止しろ!」
ディーノ「マジかよ!」
大佐「このスケッチは直ちに中止する!」
新兵「(突然立ち上げって)やっぱり辞めさせて下さい!」
大佐「お前の出番なぞ5分も前に終わっておるわ! とっとと出て行け!!」
新兵すごすごとフレームアウトする。
大佐「よし、ディレクター。私の顔をアップにしろ!」
カメラがズームインする
大佐「よし、そのまま!」
ルイジ「(フレーム外から)いいオチが浮かばなかったんだよ・・・・」
大佐「(ルイジに向かって)うるせぇよ!」
大佐、カメラに向かって
大佐「次はアニメの時間だ! 用意はいいか!? 10、9、8・・・」
画面が暗転し、カウントダウンが始まる。
ディーノ「(声のみ)視聴者が混乱するぞ!」
大佐「(声のみ)うるせぇってんだよ!!」
スケッチはここで終わってしまう・・・・・
END
| 1970年のイギリス軍が、イタリア・マフィアに恐喝されるなどと、誰が想像できましょう? それもあんな安値で(^^; ここに登場する「シリング」という単位は、今や存在しない単位で、辞書によれば「もと、イギリスの補助通貨単位。ポンドの二〇分の一、ペンスの一二倍。1971年、十進法へ移行して廃止」ということで、日本における「銭」的なものでしょうか? ところで、ペイリン演じるルイジ・ベルコッティなるマフィアは、この後ちょくちょく別のスケッチにも登場しますが、ジョーンズ演じるところの兄のディーノの方は、どういう訳かこの後姿を消してしまいます。ジョーンズ演じる気の弱いアスリートが、ひたすらルイジにだまされ続ける「ドーバー海峡をジャンプする男(第一シリーズ10話)」での登場は無理にしても、そんなに人気のないキャラクターだったんだろうか? |
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